第四話 プロローグ? そのに
『――那覇中央署より中継です。おそらく昨日の夜半だと思われますが、連続窃盗犯と思われる男が、玄関前に手足を縛られうつ伏せにされた状態で、また『プレゼント』されていたとのことです。おそらくは――』
「ほほぅ?」
寝ぼけながらもニュースに反応する千鶴。
『男の額には『オクターヴ』とサインの入ったメッセージカードが添えられていたとのことです。メッセージカードは県内の百円均一で購入されたものだと判明しました。文字も手書きではなく、カタカナとひらがなのシールが貼られていました。指紋どころか筆跡を調べることも許さない。柔軟剤らしきものを塗布して乾かすという徹底ぶり、おそらくは警察犬対策をしているのでしょう――』
「なるほどなるほど」
ニュースを読み上げるレポーターの声に反応して、やっと重たい目を開けた千鶴。そんな彼女を苦笑しながら見ていた一八だった。
椅子ごと向きを変えて、テレビのニュースに注目をしている千鶴。そんな彼女の背後に回り、日登美から手渡されたブラシを使って、一八は髪をゆっくりと梳かし始めた。
「こんな感じでいいのかな? 母さん」
「えぇ。上手上手。さすが私の息子だわ。どう? ねぇ
「んー、僕はほら、うちのお爺さんみたいになるかもだからさ」
キッチンで洗い物をしている隆二を見て、一八はそう答える。すると隆二も日登美も、『そうかもしれないね』という苦笑い的な表情になっている。
「いいんじゃないの? 隆二さんから料理も教わったら? 色々と便利よきっと」
「それはそう、なんだけどね……」
一八は炊事洗濯、掃除をすべて隆二から教わり、基本はほぼできている。手先も器用で、調髪はできないが、千鶴の髪は彼が毎日セットしているほどの腕前である。
「おや? そろそろ船の時間が近いんじゃないのかな?」
そう隆二が尋ねる。テレビの時刻は八時前。本島へ向かう船は八時半の出港だ。
「それじゃ、一八、千鶴、出ましょうか」
「ほら、姉さん。寝ないの。さっきまでニュース見てたかと思ったら、うつらうつらなんだもんなー」
「んむ?」
「置いて行っちゃうよ?」
「あー、やだ。やーくんといくー」
やーくん、一八のことである。千鶴は今年東比嘉大学に進学した十九歳。一八は付属の高等部へ上がったばかりの十六歳。
一八が四月二日生まれで、千鶴が四月三日生まれ。周りの同級生よりちょっとだけ大人だったりするわけなのである。
一八は
「姉さん、忘れ物ない?」
「あ、スマホわすれた」
「とってくるから待ってて」
一八たちが生まれ育ったこの島は
「ありがと、やーくん」
「もう、ないよね?」
「鞄がない……」
「あのねぇ、とってくるから」
世界の各地でみることが可能な、いわゆるブルーホールと呼ばれる深い洞窟情になっている。航空写真で見るとわかるが、中央にいくに従って青い色が濃くなっている。その深さは三百メートル以上あるとされていた。
「もう、ないよね?」
「たぶんない。やーくん大好き。ちゅっ」
島の東西には切れ目になっており、そこから常に海水が流入しているため淀みは全くない。浅い部分は有名なダイビングスポットとして有名である。温泉も湧いているからか、沖縄の北限に近くて、那覇空港より遠い位置にありながらも、一年を通して観光に訪れる人も多いのである。
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