1000年眠っていた大賢者をダンジョン配信中に目覚めさせてしまいました

田中又雄

第1話 ネタ配信者【ライコウ】

【表紙】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093087402505116



 生唾を飲み込み、息を殺す...。

目の前には5匹のゴブリン...。


 緑の体に、下半身にはお気持ち程度のボロボロの布...。

尖った耳に、身長は1mにも満たないように見える。

 

 そして、体から放たれる死臭とゴブリン特有のドブのような匂いが混じり、鼻をつままずにはいられない状況であった。

 もしここに潔癖症の人がいれば即死を選ぶだろうな...。


 そして、隙間から彼らの様子を伺う。

 よく見るとその5匹はどうやら家族のようで、何やらゴブリン語を話しながら楽しそうに食事をしている。

食べているのは...最弱モンスターのラット...か?


 まだ動いている...つまりは生きているラットをそのまま口に突っ込み、美味しそうに食べる...。グロい...。グロすぎるよ...。


「クチャクチャクチャクチャ」「クチャクチャクチャ」「クチャクチャクチャ」


 あと、こんなことをゴブリンに言っても仕方ないが、クチャラーは勘弁してくれ。

というか、いつも襲ってくるだけのモンスターもちゃんと裏では生活しているのだなと、少しだけ感心する。


『ゴブリン一家一緒にご飯食べてて草』

『おいw混ざってこいw』

『これは...ばれるフラグ...!』


 そんなコメントが配信中のコメント欄に流れる。

 そして、ご飯を食べ終えるとゴブリン達は骨をゴミ捨て場のようなところに持っていく。

 意外と偉いな。そこら辺のニートよりちゃんとしている。


 ちなみに、俺が今何をしているかというと、ダンジョンにて【ゴブリンと24時間かくれんぼ】という企画を行っている真っ最中であった。


 内容は至ってシンプル。

24時間ゴブリンの傍でバレないようにゴブリンの生活を見守るというもの。

※魔法は使用禁止


 ダンジョン冒険者が求められるのがこの世界で、俺こと【奏凪 来光】はそういったガチダンジョン攻略ではなく、ダンジョン内での企画をメインにしたネタ系配信者として、そこそこの人気を博していたのである。


 現在の時刻は0:15...。

生放送を開始してから約12時間が経過していた。

 さすがに集中力も切れかけ、眠気と疲れから今にも意識が落ちそうになったため、手の甲を強くつまみ眠気を覚ます。


 いや、こんなことをしても痛いだけで眠いのは何も変わらないのだが...。

 そのまま音を立てないように静かにエナジードリンクを飲んでいるときのことだった。

 ふと、壁に手をかけると、その壁が正方形で綺麗に切り抜いたようにその部分だけ奥に行く。


「は?」と、思わずその壁を見ると同時に、大きな音を立てながら地面に扉

が現れる。

 振り返ると、「ギャー!」と言いながら、ゴブリン達が戦闘態勢に入る。


「やっべ!!」


 ゴブリンにバレた時点で企画は終了なのだが、律儀に魔法禁止を守るため、俺は急いで地面の扉に手をかけ、勢いよく扉を開けるとそのまま吸い込まれるように落ちていった...。


 次の瞬間、走馬灯のように昨日のことがゆっくりと思い出される。


 ◇前日 AM0:15


「いらっしゃいませ〜!」と、俺は大きな声で元気よくお客さんに挨拶をする。

「相変わらず元気だねー。奏凪くん」と、店長が笑いながらそういう。

「はい!元気だけが取り柄ですから!」

「そういえば、昨日の配信見たよー。本当、面白い配信するよねぇ〜」

「店長見てくれてたんですか!いやー、昨日企画は中々いい取れ高でしたね

!」

「まさかモンスターを食べようなんて誰も考えなかったからねぇ」


 昨日の企画は【ダンジョン飯!倒したモンスターの美味しさTierランキング作ります!】だった。

 と言ってもランクFの最弱冒険者である俺が倒せるモンスターなど限られているわけだが。


 配信では5級レベルの魔法で、モンスターを何とか倒す様子から、倒した後に一部を切り取って持ち帰り、家に帰って料理し、食べるところまで全てを配信した。


 今回の企画は料理が得意な俺にとってもなかなかに楽しめた企画だった。


 Tier1はスライムで、柔らかくプニプニしている食感はなかなか良かった。味に関しては全くないため、調味料などを使うことでいくらでも調節ができるのも評価が高かった理由である。


 Tier2のゴブリンは少し苦味のある鶏肉のような感じであり、ちょっときつい感じもするがゴブリンと言われなければ、調理次第で食べられるレベルだった。


 Tier3のラットは正直食べ物としては...かなり最悪レベルであった。いくら調理しても臭みは消えないし、独特な食感もかなり抵抗感があるため、最低ランクに認定した。


 そんな普通の人がしないような配信をしていることでで人気を得ており、ダンジョンで得られる報酬など微々たるものだが、配信による投げ銭と広告収益、コンビニのアルバイトで少し余裕のある生活を送れていた。


「配信も昨日は3000人近く見てたもんねー。すごいよねー。もう深夜のコンビニでアルバイトなんてしなくていいんじゃない?」

「いやいや!ずっとダンジョン配信だけは流石にきついですよ!体が持たないです!いつ大けがするか分からないですから...。ほら、最近ではランク外のモンスターが現れたりとかニュースになってましたし...」

「確かに...。ランクCのダンジョンにランクAのモンスターが出たんだっけ?怖いよねー。まぁ、無理しない程度に頑張ってね?」

「はい!」

「あ、そう言えば、またきわみさんがソロでSSSランクのダンジョン攻

略したらしいねー。本当すごいよねー。三人一組がマストって言われてるの

にね」

「...そうですね」


 極さんは日本最強のダンジョン冒険者であり、配信者としても人気だった。

確か最近、チャンネル登録者は800万人を超えたとか...。


 それに比べて俺は...。

俺には冒険者としての才能はなかった。


 使える魔法は第5級魔法が数個だけ...。

適正魔法である支援魔法ですら第5級だった。

 本当は冒険者なんて諦めて、普通の仕事に就こうと思っていたのだが、それでも諦められなくて趣味と言いながら、ネタ系ダンジョン冒険者として活動を始めたのだった。


 ... 俺も本当はガチダンジョン攻略の配信とかしたかったな。


「ん?どした?」

「あっ!いやいや!」

「それで?次の企画はもう決まってるの?」

「はい!次は【ゴブリンと24時間かくれんぼ】という企画をやってみようと思います!」

「それはまた面白そうだねぇ〜。楽しみにしてるよ?」


 俺は俺なりの道を見つけたんだ。

例え、ガチ冒険者になれなくても、多くの人から求められるならそれでいい。


 だから、何としてでも配信は続ける。

そして、いつか出来るなら彼と...コラボ配信をする。

その時までは死ぬわけにはいかない。


 ◇


「うわあああああああああああ!!!!」と、叫びながら地面に激突しそう

になった瞬間、魔法か何かで一瞬体が浮き、直後に地面に落ちる。


 何が...起きた?落ちた...?でも...死んでない...。

今のは...魔法?けど、いったい誰が...?


 状況は呑み込めないまま、一旦立ち上がる。


 部屋の中は薄暗く、全体像が掴めない。

どうやら、全体的な乾燥している気がする。


 配信中の画面を見ると、ノイズがかかっており、電波も0本になっている。


 おいおい、配信出来ないのは困るんだが...。と思いながら、カバンの中から懐中電灯を取り出して辺りを照らす。


 大きさは10畳くらいかな?


 すると、中央に銅像のようなものが立っていることに気づく。

 いや、銅像っていうか土像だな...。

かなり精巧に作られていた気がするけど。何だってこんなところに...。


 ライトで照らしながらよく見ると、それはお爺さんの像だった。

 それにしても...かなり古い像だな。


 でも、何だってこんなところに?

そうして、興味本位でその像に触れると、ボロボロと土の塊が崩れていく。


「うわぅっ!?やべっ!」と、焦ってなんとか元に戻そうとするが、その土像から人の肌が見える。


 ほうれい線の濃さと顔全体のシワの感じから察するに、推定70歳くらいだろうか?


 人種は日本人的な容姿ではなく、やや西洋よりで鼻が高く、頭皮はそれなりに後退していて、髭も頭髪も真っ白な老人が現れた。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093087402543746



 すると、髭をいじりながら「...ふぅむ...いやぁ...よく寝き」と、土クズを払いながら少し嗄れた声で普通に喋り出す爺さん。


「...いやいや...は?何?どゆこと?人?生きてる?」と、俺が声を出すとそれに気づいて、「...我をおどろかししは君か?」と、やや首を傾げながら質問してくる。


「はい?おどろかし?」と、よく分からない日本語でそんなことをが聞いてくる。


「大和言葉なべけれど...」と、少し考えたようなポーズを取ると目を閉じる。


「...あの、えっと...大丈夫すか?こんなところで何してたんですか?もしかして、モンスターに閉じ込められたんですか?」

「ナょゑレまー⊂″。⊇れナょʖˋー⊂″ぅカゝナょ?」と、更に理解のできない言葉で話し始める。


「...はい?」と、今度は俺が首を傾げる。


 すると、もう少し考えた後に「...うむ。儂なりに1000年後の日本語を想像してみたが、あれは流石にやりすぎたかな。これならどうじゃ?」と言う。


「あっ、はい...。大丈夫です。何言ってるかは分かります」


「そうじゃな、まずは自己紹介をしないとじゃな。儂の名前はシエルドビット・ライノーアプリテンド・リュシエンヌ。長いから皆んなからはシエルさんと呼ばれていた。よろしくな、少年」と、杖をつきながら歩いてきて、手を差し伸べてくる。


「...はぁ。初めまして...。えっと、俺は奏凪来光です。よろしくお願いします」と、その手を握る。


「...らいこう...」と、呟くと少しだけ何か含んだ笑みを見せる。


「あの...」


 俺が話し始めようとすると、爺さんは詠唱破棄で魔法を使い、そこそこ立派な椅子を二つ用意する。


 そして、その椅子に深く腰をかけると、「歳をとると腰が痛くて堪らんのよぉ」と言いながら座る。


 そして、俺も促されるまま席に座ると、「さて、少し話を聞こうかの。今のダンジョンについて...と、何があったのかを」と言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る