SPEED.25 スプリンタートレノ AE86 GT-APEX

冬馬は留守になっている駿のショップに合鍵を使って入った。あのアルトワークスを返しに来たついでに何か面白そうなクルマを借りパクしに来たのである。



「おりょ、ワイスピ仕様の34置いてあんじゃん。だけど、これは普段乗りできんよなぁ」



ガレージ内を見て歩くと、1台のハチロクが目に止まった。



「これ、貸してもらうか」



トヨタ・スプリンタートレノ(AE86) GT-APEX (1983年式)


搭載エンジンは4A-GEUでWatanabe EIGHT SPOKEのホイールを履いている。


チューニング面ではLSDを入れ、マフラー交換をしている。馬力が上がっていてテンロクノンターボながらなんと400馬力を超えていたのだ。


それ以外ではロールケージ組み込んでいるくらいで、ターボ化は行っていない為、あくまで街乗り用として購入されたものだった。もちろんカラーはハイテックツートンである。



軽トラの後ろにあった例のハチロクを出し、ガレージの外へクルマを出す。



「駿も持ち物の管理くらいしっかりしろよな。ガレージん中のクルマ全部鍵ついてんだもん。そんなだから勝手に俺に乗られるんだよ」



ガレージの鍵を閉め、再びハチロクに乗り込む。


「やっぱMOMOステだよな」


しかし400馬力ともなれば超高速域は難しい。


「ヤビツ峠でも行ってみるとするかね」


冬馬はヤビツ峠を目指してハチロクを走らせた。


某漫画と同じでこのハチロクもラリー用の『クロスミッション』が組まれている。


そしてこのハチロクの中で一番の問題と言ってもいいものが『強化クラッチ』が組み込まれていること。このクラッチがとんでもなく重たいのだ。


渋滞にハマると左足が痺れ、感覚が無くなる。そして、最悪なことに、渋滞にハマってしまった。数分ぐらいの出来事ではあったが左足が震え、感覚がこう、徐々にね。



なんとかヤビツ峠に到着した。


時刻は夜8時過ぎ、車種で言えば180sx、S13シルビアなどの峠定番のFRクーペから、C1でも結構な数が走るFDまで様々であった。お約束ではあるがハチロクもたくさんいる。



「ヴォウウン」


クルマを停め、降りる。


「ほぉ、やまは久しぶりに来たけどなかなか人がいるね」


中には3ドアだけでなく、2ドアのハチロクもちらほらいる。


せっかくなのでダウンヒル走行してみよう。


「ヴォォウン」


「コク」


「ヴォォォォォ」


「ヴォウン」


「ギャギャーッ」


「なかなかコーナリングがしやすいけど、クラッチが重い」


「ヴォオオオオ」


「コク」


神奈川の夜空を切り裂くようにハチロクは走り抜けていった。



次の日、冬馬は久しぶりにR32に乗った。そして純正クラッチのありがたみを感じた。



その夜、1ヶ月ぶりにあの2人が帰ってきた。



「札幌楽しかったなァ」


「そうだねぇ」


結局、一ヶ月間、一人旅をしようと考えていたが彼女に捕まり、有意義に過ごすことは出来なかった。一方で、菜々子は満足のいく一ヶ月だったようだ。


首都高に純白の天使が帰ってきたのだ。


近くを走っていたGR86に乗っていた2人の男はその34を見て、

驚きとともに嬉しい気持ちになった。


「おい、この34…」


「ああ、帰ってきたみてぇだな」


久しぶりのC1はちょっと狭く感じる。でも同時に懐かしい感じもするよ。


「コク」


4速にシフトアップし、一般車の合間をスラロームしていく。このエンジンはとても壊れにくく、俺の好きなエンジンの一機でもある。文句のつけようがない完璧なエンジンである。


そしてものすごくよく回ってくれるエンジンである。



翌日、久しぶりの神奈川はものすごく暑かった。北海道の朝は20℃より下くらいの気温だったのに神奈川に帰ってきたら朝なのに20℃以上、下手したら30℃近くまで気温が上がっている。朝からエンジンルームに手を突っ込んでいただけなのに汗をかいてしまった。


そして自分の所有しているクルマが置いてあるガレージに行くと微妙ではあるがハチロクや最近は乗れていないアルトワークスの位置が違っている。ハチロクなんかは頭から停めていたはずなのに、ケツから入れて停められていた。一体どうなっているのだろうか。



俺が留守の間、誰かがこのガレージに入ったとみて間違いなさそうだ。


だが、車を取られたわけではないし、防犯カメラだって作動していたはずだ。


俺は防犯カメラを見てみることにした。


すると、よく知っている人物が写っていた。


そう。冬馬である。


『おりょ、ワイスピ仕様の34置いてあんじゃん。だけどこれは普段乗りできんよなぁ』


そして、『これ、貸してもらうか』といい、人に断りも入れず、勝手に乗って走り去った。



「あいつ、次会ったらぶっ殺してやる!」


それぐらい俺はあのハチロクを大事にしていた。


なぜならサーキットで走るためだ。足回りをゆっくり強化していたかったものを勝手に乗られ、テストドライブされてしまった。改造後最初にドライブするのは俺のはずだったのに。


俺はハチロクを出してセッティングを始めた。









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