魔法少女戦隊ウィズシスター

憑弥山イタク

集結! ウィズシスター!

第1話 襲来、スケベスキー

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 人が人を殺めれば、それは罪となる

 虫が人を殺めれば、人は虫に薬を噴く

 人が虫を殺めても、何故か罪とは認められない

 命とは、平等ではない

 1gの重さも無いのに、命は常に不平等なのだ

 命を平等に扱えば、人は必ず反抗する

 不平等である現実いまに満足しているのだろう

 平等を謳えど、真の平等には踏み入らない

 いつしか虫は気付くかもしれない

 人間とは、我々より愚劣な種族であると

 いつしか人間は、虫に喰われるのだろう

 人間の重ねてきた歴史は、白紙に還るのだろう

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 かつて大都会と呼ばれた東京も、今では半分以上が瓦礫の山と化し、四方八方あちらこちらから死骸の匂いと煙が漂っている。ヒビ割れた路上を歩く人間は居ない。

 そう。人間──────────────。


「ミスターマキノ、攻撃の許可を下すべきでしょう。でなければニッポンはスクラップの国になる」

「私も同意です。ただでさえ、東京は半分以上が瓦礫と化している。これ以上判断を渋ると、東京は勿論、北海道から沖縄に至るまで……」


 各国首脳陣が参加したリモート会議で、日本の首相、マキノは脂汗を流していた。

 数日前から度々話題を持ちかけられている、日本国内に於ける武力行使の許諾。これについて、マキノは眉を顰め、話題が上がる度に許諾を認めなかった。

 もしも武力行使が実行されれば、日本国内、最低でも東京と近隣の県に大きな被害が出る。空襲程度で済めばいいが、もしも事が大きくなれば、空襲どころか核爆弾まで降ってくる。

 日本に、これ以上の核爆弾投下を許してはならない。これ以上爆撃で傷付けてはならない。総理大臣であるマキノの信念は未だ揺らがないが、揺らがない為に現状は全く変わっていない。


「マキノさん、よくお考えください。日本の武力であの怪物達に太刀打ちできるのですか? もう貴方の居る国には、サムライもニンジャも存在しない。いえ、存在したとて、怪物には勝てない。ならばもう、サムライもニンジャも持ち合わせない力を使うしかないのです」


 アメリカの大統領ウォルターが、諭すかのように述べた。マキノはウォルターの発言が"正しいのかもしれない"とは理解しつつも、発言を完全に肯定するつもりにはなれなかった。


「しかし……」


 渋るマキノに、首脳陣は苛立ちを見せ始める。机を指で叩く者、頬杖をつく者、溜息を吐く者。他国首脳陣の放つプレッシャーを肌で感じながらも、マキノはやはり渋る。


「スケベスキーは人間の敵なんですぞ!」


 渋るマキノに痺れを切らしたイタリアの首脳が、机を強く叩いて言った。

 東京は今、半分以上が瓦礫と化している。その原因は自然災害でも、隕石落下でもない。異世界から訪れた者達で構成された、スケベスキーという軍団だった。

 ある日、東京上空に裂け目のようなものが現れ、刹那、裂け目の中からスケベスキーは現れた。スケベスキーが異世界出身であるということは、構成員の姿を見れば一目瞭然である。何せ、スケベスキーを構成する者達の殆どが、人間の姿をしていないのだから。

 スケベスキー達は、行動拠点、もとい生息地を、異世界からこの世界に切り替えたのだ。しかし生息地変更の前には、整地と原住民の整理が必要である。故にスケベスキーは、世界を整理、管理する目的の為、日本を含めた全世界に降伏を求めた。


 この世界に於ける現時点での支配者である人間よ、支配者の立場を放棄し、我々スケベスキーを人間よりも上位の存在として認識せよ。


 無論、各国首脳陣は反抗。しかしその反抗も虚しく、スケベスキーの威嚇により東京は半壊。拳銃やライフルでの狙撃が無意味であることも次第に証明されていき、日本の持つ武装では対処不能と判断。

 結果、今に至る。

 狙撃の通用しない相手に、はたして爆撃や核攻撃が効くのかは分からない。しかし降伏ではなく撃退を望む首脳陣は、日本国内への爆撃を要請している。


「そう、スケベスキーは敵……しかし、諦めてはいけません」


 希望を捨てていない発言……だが、マキノや他国首脳陣は、発言内容よりもの方が気になってしまった。

 若い女性、否、少女のような声だった。リモート会議のモニターから聞こえてきたのだが、このリモート会議に、そもそも若い女性は参加していない。女性は居るものの、正直若くはない人ばかりである。

 では、この声は誰だ?

 マキノ達は瞬時に酷い困惑を抱き、リモート会議参加者のモニターと向かい合った。


「私がこの手で、この力で、スケベスキーを撃退してみせましょう」

「っ! 君は誰だ! どこの国の者だ!」

「私は……そうですね、純白しろい魔法使い、とでも名乗っておきましょう。スケベスキーを追って、異世界からやって来ました」


 普段の、冷静な脳を維持していれば、首脳陣は誰もが呆れ、唾を吐くだろう。しかし異世界からの敵であるスケベスキーが現れた以上、魔法使いを名乗る少女の発言が、単なる虚言であるとは吐き捨てられなかった。

 会議参加者を一覧で確認するが、魔法使いらしき少女の映る画面は見当たらない。恐らくは声だけで、ハッキングのようなニュアンスで会議に参加しているのだろう。


「来るのが遅れて申し訳ありません。しかしご安心ください。現時刻を以て、スケベスキーへの攻撃を開始します」

「待て! 一体何をする気だ!」

「単身での攻撃です。街への被害は最小限に抑えるつもりです」


 その会話を最後に、魔法使いは会議の場から消えた。そして魔法使い退室後、僅か2時間の間で、東京内に存在していたスケベスキーは消滅。僅か2時間で、地獄に等しかった東京に、瓦礫こそあれど平穏な空気が流れ始めた。

 その後、スケベスキーの消えた東京は復興が開始され、また人々が生活できる環境に戻っていった。

 そして、復興が進む日本国内では、スケベスキー消滅の要因として、純白しろい魔法使いの存在が語られるようになった。


───────────7年後。


「さあ、始めようか……俺達の新たな物語を」


 白く畝る広大な海を見つめ、金髪の青年、クリアードが呟いた。

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