第33話 悪巧み1 …アレキサンダーの側近目線

「ルチアと二人っきりで話がしたい!ゴールドフロント王国内々の話があるんだ」


 アレキサンダーは、豪華に整えられた部屋の中で熊みたいにウロウロしていたかと思うと、側に控えていた側近に当たり散らした。


「そう言われましても……」

「本当、使えない奴だな!できる側近なら、言われる前に伝手を使ってルチアに渡りをつけるもんだろう」

「残念ながら、プラタニアには親戚はおろか、知り合いすらおりませんが」


 アレキサンダーは手近にあったクッションを側近に投げつけた。


 柔らかいクッションであるから、側近は避けることなく顔面で受け止める。これを避けたり受け止めたりすると、アレキサンダーの怒りのテンションがさらに上がってしまうのは、今までの経験から目に見えてわかるので、なんなら半歩横にずれてど真ん中で受け止められるようにすらした。


 サントス・マイヤー。アレキサンダーの側近になって五年、中肉中背で地味な容姿をしている。目立たず、言われたことは完璧にを信条にしているが、逆に言えば、言われたことしかやらずにでしゃばらない事なかれ主義とも言えた。アレキサンダーの側近と言えば、後の国王の側近ということで、いかにも出世街道まっしぐらのように思われるが、本人的には上司ガチャ外れだよなと、常に異動願いを出しているくらいだった。


「知り合いがいなければ作ってこいよ!侍女をたらしこめばいいだろ。ああ、おまえじゃ女は寄ってこないか」


 アレキサンダーに鼻で笑われたサントスは、ならばご自分でたらしこんでいらしてください……と言いたいのを飲み込んで、お辞儀をして部屋を出た。


 サントスは女性をたらしこむ手管は持ち合わせていなかったが、その見た目の無難さから、警戒心を持たれずに人に溶け込める性質をしていた。

 それを利用して、城内の色んな侍従や侍女と他愛ない世間話をしながら、ルチアと繋がる手段を模索する。命令されてしまったからには、アレキサンダーとルチアが内密に会う機会を作らないといけない。


 そんな中、ある侍女と話をしていたら、ルチアとは繋ぎはとれないが、ルチアを呼び出せる人物にならば話を通せると言われた。


「それはどなたですか?」

「ライザ第一王女殿下です」

「第一王女殿下……ですか」


 プラタニアの第一王女殿下と言えば、スタイル抜群の美女であると、ゴールドフロントにも噂が流れてきていた。アレキサンダーの恋愛対象になるのは可愛らしい系のようだが、恋愛対象と実際に手を出す相手にはかなり隔たりがあり、アレキサンダーが性欲を発散させるのは、あくまでも好みと真逆なダイナマイトボディーの美女ばかりだった


 つまり、アレキサンダーの性的興味をバリバリ引きそうな相手なのだ。しかし、相手はこれから友好関係を築かなければならない国の王女、いくらアレキサンダーといえど、そうそう簡単に手を出したり……まさかしないよなと、サントスは頭に浮かんだ不安を打ち消す。


「ルチア嬢と第一王女殿下は親しいのですか?」

「いえ。ルチア様とのご面識は一度きりですが、王女殿下とエムナール伯爵様は知己の仲でございます。それに、王女殿下がお呼び出しになられれば、誰だって断ることはありません」


 侍女は誇らしげに言い、サントスは首を傾げる。ライザとノイアーは年齢も違うし、何よりも気が弱いと噂のライザが、いるだけで威圧感の塊のようなノイアーと知己の仲というのは、なかなか信じられなかった。


「知己の仲……というほど、お二人はお親しいのですか?」

「そりゃあもう。エムナール伯爵様は第二王子殿下の護衛をされていた時期がありまして、その時に王女殿下の誘拐を未然に防いだこともあったんですよ。お二人のご婚約の話も挙がったことがあったと聞いております。第二王子殿下も、それを強く願っていたとか」

「それでは、お二人の仲に、ルチア嬢が割り込んだということでしょうか?」

「ある意味、そう言えますわね」


 それは初耳だと、サントスは今の話を心に留めた。


「では、まずはライザ第一王女殿下にお会いできる機会を都合つけていただけますか?」

「わかりました。でも、その前に聞きたいことがあるんですが。アレキサンダー王太子殿下とシンドルフ侯爵令嬢はご婚約のお話もあったと聞きます。アレキサンダー王太子殿がシンドルフ侯爵令嬢と内密に話したいこととは、もしかして復縁の話だったりしますか?」


 サントスは曖昧に頷く。

 正直、ルチアがゴールドフロントに戻って、アレキサンダーの婚約を受ける確率は、一%もないだろう。アレキサンダーはルチアを手に入れる気満々なようだが。


 その昔、アレキサンダーがルチアに目をつけたのは、アレキサンダーの婚約者候補を探すお茶会の席でだった。妖精のようなルチアに一目惚れしたアレキサンダーは、その時はルチアに声さえかけることができなかった。一途な片想いを貫いて、誠実な態度でいればまだ良かったのに、色欲に勝てなかったアレキサンダーは、それはそれ(片想い)、これはこれ(女性遊び)とクズな言い訳をして、奔放に女性に手を出しまくった。そのあげく、ルチアに婚約を申し込んで断られているのだから、自業自得だとしか言いようがない。


 ルチアをいまだに諦めきれなかったアレキサンダーは、プラタニアとの親善大使の話にとびついた。そして、プラタニアとなぜ友好条約を結ばねばならないのか、お互いの国の立ち位置のなどをこんこんと説明して聞かせる父王の言葉など右から左に聞き流し……そして今に至る訳だ。


 アレキサンダーがルチアを手に入れたいとする名分として、雷霆将軍を手の上で転がせるルチアが王太子妃になれば、プラタニアなど怖くもなんともないじゃないか……と言うのだが、サントスにはなんとも意味不明で理解できない思考回路だった。


 ノイアー・エムナールがルチアに手の上で転がされている?まあ、人の好みはそれぞれだから、そういうこともあるのかもしれないが、もしノイアーがルチアに惚れているならば、そこに割り込む男を許す筈がないのに……。


 ルチアと二人で会う為に尽力しろというアレキサンダーの命令に逆らうつもりはないが、わざわざ忠言するつもりもないサントスは、アレキサンダーがしようとしていることが、ノイアーの怒りを買う行為であること、下手したら国同士の戦に発展する可能性もあると、実は正しく理解していた。しかし、国の一大事よりも、自分の今の平穏を選んだサントスは、選択するのはアレキサンダーであるとして、言われたことを完璧にこなすのみであった。





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