第17話 王族とのお茶会2
「ルチアちゃん、可愛いねぇ」
ルチアの目の前には、金髪の麗しい美青年が笑顔を浮かべて座っていた。プラタニアの王族特有の空色の瞳は、ルチアのことを観察するようにジッと見ていて、少し垂れ目の目尻は一見微笑んでいるように見えるが、作られた笑顔であることは明らかだ。そして、その横には青年にそっくりな美女が座っている。ただ、性格はきっと真逆なんだろうなというのが、その笑顔を見てもわかった。
腹に一物どころか二物も三物もありそうな美青年は、プラタニアのサミュエル第二王子で、気の弱そうな笑顔を浮かべているのがライザ第一王女である。
そう、彼女こそゴールドフロントとプラタニアの戦争の引き金(悪いのはアレキサンダーだけれどね)になった王女だ。前に見た時(前々の人生ね)と、全く変わらない。
光り輝く腰まである金髪は男達の注意を惹き、その抜群のプロポーションに男達の視線は釘付けになる。これで気が強く高飛車な性格ならば、男達は憧れを持って見ているだけなんだろうが、オドオドとした気の弱そうな態度に、男達は付け入る隙を見つけてしまうのだ。彼女が王女じゃなければ、簡単に男達の餌食になっていたことだろう。
「サミュエル殿下、そんなにマジマジと見るな」
「いいじゃん。ルチアちゃんだって気にしてなさそうだし」
気にしてなくはない。ただ、それ以上にライザのことが気になっただけだ。
前の記憶だと、ライザは男性が苦手で、うまくあしらえなくていつも縮こまっていたイメージがあったが、今日は多少の緊張は見えても、落ち着いているように見えた。兄であるサミュエルが横にいるという安心感もあるのだろうが、ノイアーのことを他の人ほど怖がってはいないようだ。子供の時からの知り合いであるということもあるのだろうが……。
王城の庭園に面したバルコニーに通されたルチア達は、花々の咲き誇る庭園を眺めながら、最初は当たり障りのない会話をしていた。
「そうだ、ルチアちゃんに庭園を案内しよう」
サミュエルが立ち上がってルチアに腕を差し出して来た。ノイアーを見ると、頷いて了承した為、ルチアは立ち上がってその腕に軽く手を乗せた。
「じゃあお嫁ちゃんを借りるよ」
「まだ嫁じゃないと言っている」
「そっか、婚約もこれからだったね。じゃあ、僕の婚約者にしてもいいのか。なるほどなるほど」
「サミュエル」
「冗談だよ、冗談。さ、ルチアちゃん行こうか」
サミュエルにエスコートされ、ルチアは王城の庭園に下りた。しばらく歩くと薔薇園にたどり着いた。
「凄いですね」
「うちの母の趣味でね。なんなら、後で花束にしてあげるよ」
「あ、大丈夫です(食用だとしても薔薇じゃお腹いっぱいにならないので)」
「そう?」
サミュエルは、薔薇の庭園が見渡せるベンチにルチアを連れて行くと、ベンチにハンカチを敷いてルチアを座らせた。
「ノイアーに聞いたんだけど、ルチアちゃんはゴールドフロントの王太子との縁談を断りたくて、うちのノイアーに婚約を申し込んだって?」
「はい」
「じゃあ、王太子との婚姻を完璧に阻止できるとしたら、その相手はノイアーじゃなくても良いってことかな?」
「え?それは嫌です」
「嫌って?」
ルチアはとっさに出てしまった言葉に、自分の口を手で押さえた。まだ本人に告白もしていないのに、他人に先に言うのもおかしいだろう。
それに、ノイアーのことが好きだからだなどと言っても、信じてもらえる気がしない。自分だってまだ信じられないくらいなのだから。
(何か理由がないか……変に思われない理由って何?)
「そのままです。エムナール邸の生活が気に入ってますから、他の人とは考えたくない……みたいな?」
「それは、ノイアーを含めてで良いのかな?」
「ノイアー……がいてのエムナール邸ですよね?」
(このくらいならばれない?)
「ふーん、君、おもしろいね」
「はい?」
今まで人一人分の距離をあけて座っていたサミュエルが、距離を半分詰めてきて、ルチアとの間のスペースに手を置いて顔を近寄らせてきた。さっきのノイアーとした乗馬の距離よりは遠いが、その距離の近さにルチアは眉根に皺を寄せてしまう。王族にこの表情はよろしくないとわかるが、嫌なものは嫌なのだ。身体を押し返さないだけ良しとして欲しい。
「なるほど、腹芸はできないタイプらしい」
(腹芸?お腹に絵を描いて踊るやつ?あれって、豊かなお腹の持ち主じゃないと無理じゃない?)
ルチアは自分のお腹に目を向けた。サミュエルは、物事をたくらむ意味での腹芸と、隠語として女性が男を誑かす意味での腹芸をかけて言ったのだが、ルチアは芸としての腹芸を想像していた。
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