けものフレンズT
ふせんさん
episode 0 幸せを求めて
ここはジャパリパークのキョウシュウちほーのどこかにある、かつて研究施設だった廃墟だ。
周囲にはヒトも、フレンズも、セルリアンすらいない。静寂に包まれた建物は、まるで寂しそうに佇んでいるようだ。
しかし、奇妙なことに、この研究施設は今も動いているらしい。
外見は長い年月を経て使われなくなったように見えるが、中の様子は意外と整然としていて、綺麗に掃除されている。その1階の奥の部屋から、かすかな声が聞こえてくる。
「やっと...できた...」
私はついに"タイムマシン"の完成に成功したんだ。
そのタイムマシンは、有名な猫型ロボットの出てくるアニメのようなものではなくて腕時計型のタイムマシンだ。もしかしたらとても画期的で人がまだジャパリパークにいたら私にノーベル化学賞でもくれただろう...
でも、もし何か予期せぬ問題があったら後で大変だから、事前に検査しておく方がいいかもしれない。
「ラッキー、危険性がないか調べてくれる?」
「任セテ。」
ラッキービーストは静かにその機械を10秒ほど見つめていた。
「......問題は無いヨ。コレだったら”フレンズ”でもサンドスターが吸い取られてしまう問題も起きないネ。大丈夫...コレの危険性は一切無いヨ」
本当に大丈夫みたい。でも、私の心の奥底には、言葉にできない不安が残っている。
「そう...ありがとう、ラッキー。」
私の言葉にラッキービーストは小さく頷いたが、その瞳に少しだけ光るものが見えたような気がした。
「どういたしまして。」
ラッキービーストは嬉しそうに声を出すが、私は彼に微笑み返せなかった。過去への旅がどんな冒険をもたらすか、心の奥にはまだ不安が渦巻いている。それに、戻ってきたときに今とは違う何かが待ち受けているのではないかという漠然とした恐怖が消えないのだ。
「ねえ、"コハル"、本当に大丈夫?」
「...うん、心配しないで。大丈夫だと思うよ。」
ラッキービーストも少し嬉しそうに見えるが、私は彼に微笑み返せない。過去に行くための準備ができたと言っても、そこに待ち受けるのは予測のつかない出来事ばかりだろう。それに…やはり少し不安だ。
「そういえば、"コハル"、コレでどこに行く?」
「...そうだなぁ。」
私は少し間をおいてから、答えた。
「まずは、2000年ほど前のジャパリパークに行ってみようかな...」
本当は…”あいつ”に会いたいんだけど会う顔がない。でも、研究のためってことにしておけば大丈夫だろう。心の中では、あいつのことが何度も浮かんでくるけど、その名前を口にすることさえ怖い。
ラッキービーストが首をかしげるように言った。
「コハル、何か調べたいことでもあるの?」
私は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに表情を取り繕って答える。
「…そう、過去のことをもう少し知っておきたくて。」
嘘じゃない、けど、それだけじゃないのも分かっている。過去に戻ることで、本当に何かが変わるのか…そんな考えが頭をよぎる。
ラッキービーストはしばらく私を見つめてから、静かに頷いた。
「分かった。気をつけて、コハル。」
その言葉が、まるで今から私が踏み出す一歩に対するエールのように聞こえた。
「...うん。行ってくるね、ラッキー。」
そこに、本当の幸せがあると信じて...。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます