29 決戦
予想通り、アウルム王国軍はゴブリンなど気にせずにそのままの進路で突っ込んできた。
アウルム王国軍というのは高慢の塊だ、とオラーツィオは言う。
「ゴブリンなんて怖がりもしないだろう。それでもいいのか?」
「いいんですよ。ゴブリンをナメると痛い目に遭います」
間もなく、伝令から「アウルム王国軍はゴブリンと戦闘中」という連絡がきた。どうやらゴブリンはものすごく怒っているらしく、アウルム王国軍に石を投げたり、ゴブリンの親玉であるゴブリンチャンピオンが暴れたりしているらしい。
アウルム王国軍はなかなかの損害をこうむりながら、ゴブリンの群れと戦っているようだ。予想通りの結果に思わずニンマリするがニンマリしている場合ではない。
我々も戦う準備をする。
恐らくゴブリン軍団とぶつかっても、アウルム王国軍は少々勢いを削がれた……くらいでこちらに突っ込んでくるだろう。そうなったら我々が戦わねばならない。
オラーツィオを盾にする、とわたしは宣言した。
「そんな無謀なことをなさるので!?」
シャルルが目をむいている。
「やるしかないわけですよ、だからやるんです」
ただオラーツィオはヒトなので、古代ペルシャ軍がエジプトとの戦いで盾に猫を縛り付けた、みたいなことはできない。というかいくらエジプト人が猫を崇拝していたからといって、盾に猫を縛り付けるのは動物虐待だ。かわいそうに。
脱線したがとにかく我々のところにオラーツィオはいる。オラーツィオめがけての攻撃はしないはずだ。最前線に、わたしはオラーツィオと立つと決めた。
この世界の鉄砲は火縄銃、よくて火打ち石式で、わたしだけを狙ってオラーツィオには当てない、なんて器用なことができる精度ではない。
だから、オラーツィオとわたしが最前線に立ち、アウルム王国軍に降伏を呼びかけよう、というのが作戦であった。
ゴブリンとの戦いで、アウルム王国軍は士気を削がれているはずだ。
ワンチャンネコチャンあるのではないか。
鎧をまとい出撃の支度をしていると、オラーツィオが執務室にきて猫を吸い始めた。すううーっと猫を吸い、「これで悔いることはない」と言った。
そうだ、大●翔平だって愛犬を吸っていたではないか。愛犬を吸うと信頼していた通訳に24億円盗まれてもメンタルを保ち大記録を作ることができる。いわんや愛猫をや。
すううー。
猫は温かい気持ちになる匂いがする。でも猫は迷惑そうな顔をして、これ見よがしに毛づくろいを始めた。
でもこれって飼い主の匂いと混ぜたいからなめるのではなかったか。
まあそれはどうでもいい。身体をなめている猫にふっと微笑んだあと、わたしとオラーツィオとシャルル、あとから合流したマリューの四人は、蒸気機関チャリオットに引かれた鉄馬車のような乗り物に乗り込んだ。
夏の風が吹く。
「――あれですね、アウルム王国軍」
シャルルが原始的な望遠鏡を覗いて言う。
「なんだかイケそうな気がするよ」
マリューのウソかマコトかよく分からない応援ののち、蒸気機関チャリオットを止めて、鉄馬車を降り、戦場に立つ。
「よく聴けーッ!!!!」
オラーツィオが叫ぶ。アウルム王国軍が一瞬ざわついた。
「アウルム王国軍、お前らは間違っている!!!!」
一瞬ざわっとしただけで、アウルム王国軍はすごい勢いで迫ってくる。
「お前たちのやるべきことは、王都ドムスの再興ではないのか!!!!」
――そうだ。アウルム王国の王都ドムスは、アガット国軍が放った火でボロボロになっているはずだ。
軍が自衛隊のような任務を担っているとしたら、アウルム王国軍は市民のために、王都の再興を優先するべきではないか。
『もう遅い!!!!』
オラーツィオにそっくりな声が、メガホンを通したような声で聞こえた。
「父上だ」
オラーツィオがさーっと青ざめる。
「気を確かに」
「おう……」
この男は大人になっても父親が怖いのか。逆ハーレムを作るに当たって入れてやろうか考えていたが、それはナシだな……ちっちゃいらしいし……。
『アウルム王国は諸国を属州とし統治する、真の王者である!!』
ははぁん、王は相当な選民思想の持ち主であるな?
アウルム王国軍はもう目の前に肉薄していた。王は最後尾の馬車にいるらしい。
「投石機用意! 鉄砲用意!」
わたしがそう命じると、アガット国軍は手早く装備を整えて、アウルム王国軍に向けて攻撃を始めた。
アウルム王国軍は眠り花のタバコで狂戦士となっているらしいと聞いた。
そのせいか投石されようが撃たれようが、ファランクス部隊はお構いなしで突っ込んでくる。
眠り花のタバコというのはダウナー系の、気持ちよくなってふわふわするドラッグなので、おそらく出撃の前に吸わせて「勝ったらまた吸わせてやろう」とやっているに違いない。目の前にいるのは間違いなくアサシンであった。
ファランクス部隊の構えている槍は、穂にゴブリンの死骸が引っかかっていたり、ゴブリンの血でベトベトになっていたりする。
これで攻撃されたらヤベェ病気うつされそうだな。
「止まれ! 話し合おう!」
オラーツィオがそう叫ぶと、ファランクス部隊はたじろいだ。
「俺は殺し合いを望まない。みんなで話し合おう」
『問答無用!』
王はそう叫ぶ。ファランクス部隊がすっと道を開けて、銃兵部隊が展開された。
ゴブリンの群れをぶつけたので弾薬はそんなにないはず。それにオラーツィオに当たらないように撃つはず。
とにかくもうライトノベルの神様とは話はついているのだ、気絶するダメージはノーサンキューである。
王都ドムスを攻略して帰ってきたあとに製造された蒸気機関チャリオットの、連発銃搭載型が前線に走っていく。連発銃というのはガトリング砲の仕組みをうろ覚えながら覚えていたのでなんとか作れたものだ。ありがとう、世界の武器防具百科とかいうXのBot!!
連発銃を次々と放ち、昔のモンハンのガンナー装備のように敵に近づくことを想定していない銃兵部隊を撃って崩していく!!
飛び散る血のり!!
砕ける骨の音!!
銃兵部隊を切り崩したその奥には馬にまで甲冑を着せた騎士団が構えていた。オラーツィオ子飼いの騎士団だ、オラーツィオがなにか言えば従うのではないか。
「みんな! 俺だ! 正気になれ!」
オラーツィオがそう呼びかけた。
騎士団の面々は、ぬるり……とこちらを向いた。
アッ、殺す気だ。
「あ……が……」
騎士団は緩慢な動きで迫ってくる。手にはゴブリンを倒した後らしい、ドロッドロに汚れた槍が握られていた。
「おいお前ら! お前らの主君は俺であって父上ではない! 話をきけ!」
「眠り花のタバコで操られているのでしょう……」
「が……ああ……」
騎士団の様子がおかしい。
「これは……眠り花のタバコなんかじゃない。もっと強力な毒で狂わされている」
ゾンビパウダーを即で想像したわたしはやっぱり「アストリッドとラファエル」が好きなようだ。そういうちょっと荒唐無稽なトリックがあのドラマの面白いところである。えねっちけーさん、早く新シーズンを……。
いや待て。
わたしはこの世界に骨をうずめると決めたのだ、だとしたらえねっちけーで「アストリッドとラファエル」の新シーズンが始まっても観られないではないか。
まあそれはどうだっていい。
わたし自身が、この世界で生きると決めたのだ。
――騎士団は毒薬で狂わされており、その一方である程度正常な判断力を持っており、そのせめぎ合いで攻撃を仕掛けてこない。
オラーツィオも意外と臣下に信頼される男であるらしい。
「みんな! みんなは毒で狂ってるんだ! 俺だ! オラーツィオ・アウルム第一王子だ! お前たちは戦争をするために鍛えたんじゃない、俺を守るために鍛えたんだ!」
「で……ん……か……」
騎士団長と思われる人物が、馬の手綱をぐいと引っ張り、馬の進む方向を後ろに向ける。
それに従い、騎士たちはみな、ゆっくりと最後尾の馬車に向かう。
『だっ、騙されるな! それは悪女に籠絡されたバカの世迷い事だ!』
騎士たちは豪華な馬車を、槍で貫いた。
「が、がああ……っ! お、オラーツィオ……!」
アウルム王の叫びが、メガホンを通らずに響いた。
その直後、騎士たちは次々落馬し、動かなくなった。そして、ファランクス部隊はへたりこみ、もともと瀕死だった銃兵部隊もバタバタ倒れた。
「この人たちを手当てしましょう」
「アストリッド、お前は大丈夫か!?」
「薬を飲まされているなら解毒しなくては。怪我人だって助かる人がいるかも分かりません」
「……アストリッド、お前、君主というより聖女だな」
「褒めたってなんにも出ませんよ」
「別に褒めていない。やるならさっさとやるぞ」
アウルム王国とアガット国の戦争は、予想外の形で終結した。
兵士や騎士たちを、蒸気機関チャリオットに乗せてカメオスの都に運ぶ。
これで当面、安心してよいようだった。
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