〜過去編ボーイスカウト❾〜
伊那まで数百m。其の背中の光輪が色彩豊かに海を照らし出している。
光輪がセフィロトの様に移動して行く。傾斜角とエネルギーから見て、どうやらこのままだと大気圏外に出てしまうみたいだ。
カリオペ
"Ok,I release my ability."
森カリオペ
"NOWRAPPINGREAPER"
詠唱だった。
死神としての力が、死の詠唱となって、生きたる内の鎮魂歌となって、真に巨大な怪物を朽ち果てさせる。
光輪が止まり、超音波が高周波に聞こえる様になった辺り、其のCDディスクの様な色彩が失われ白く朽ち果てて、巨体は歩みを止め、其の衝撃で外殻から脆く崩れ落ちて行く。
始まりが終わっていく。
当然、このレベルの詠唱に当たるのは、キアラも例外では無く、其の不死鳥としての焔は小さく魂の様に縮こまって行く。
そしてカリオペは高高度から落下し、海面との激突に向かって一直線に突き進む。
終わりが始まって行く。
そうして内部から伊那は露出した。朽ち果てて行く白と黒の外殻、其の喉仏から。
破壊が崩壊を呼んで行く海上、壊れ行く神性が、崩れ行く神秘が、伊那を空中に放り出し、空中で美しく霧散して行く魔力の塊が、まるで息をするかの様に、一呼吸置くと、積乱雲と見間違う大きなきのこ雲になってしまう。
海面擦れ擦れに、復活する火の鳥がカリオペを救いに行くのに対し、伊那には、災厄の風が渦を巻いて留まる。其の風と渦は、遠く水平線上から白髪と金髪を運んでいた。
そう。全ての災厄を兼ね備えたボーイスカウトである彼女等は、超弦理論の五輪の様に、常に固まって居ないと、全ての者に災厄を与えてしまうのだ。
彼女達は、強靭だった。何処までも。誰よりも。
だからこそ、神様は用意した。五つの真言を。
一つ
震え、奮え、振るえ。最果てまで、何処までも管理せよ。其の鎌は振るわじ。ウえたる民をつくらば、奮うな。其の死神に震わせられるな。ゆめ忘るるな。フルうのは、汝が抱きし夢なのだと。
一つ
日に陰りなば、其は灯が合う輩也。汝の現今と黄昏の只今が交わせば、世は輝いて、闇を汝に捉え、輝きを見たさんとする。光はくすんで、闇は光の奴隷となり、輝きはくすみと遭う。
一つ
思想は行動に至る。行動は変革を齎す。変革は終局を受け入れる。創世は環境を産み、環境は集約を育む。環境は行動と変革の間にあり、滅亡は予言され、発明は予見される。
一つ
天に三津夜の降る如し。層雲は遥か地上まで降りて来て、全ての営利を暗闇に落とす。其の中りを付け、内にて潜む最果ての滞空。最果ての名を冠するは仏成らざれ。
一つ(パンドラの箱に置かれてあった呪禁にて)
いつまでも。いつまでも。お忘れなき様に。今日この日、世界の終焉に巡り会えた事に。しかして開闢は成され、全ての魂の死出の安堵を彼方へと進ませよ。
其の風は其の焔と混じり合い、炎熱地獄を彷彿とさせる炎の島を黄昏にゆらゆらと映し出していた。
其れを背景に、金髪は桃色の髪の死神と再会した。
金の髪と桃の髪にはこう言い伝えがある。
人に食われるのを良しとするのが金。人を食らうのが桃。
今、金髪は災厄に呑まれ、死神は根源を一瞬とは言え超越した。
其処に到るのが人なのか、人が全ての災いの正体なのか。
神のみぞ知る其の全貌は、まるで人の感情の様に移ろい行くのだとしたら、やはり、世界は廻り巡る。
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