6.Not a lie.

一本の長く続く道の上に 僕はいつからか立っている

ところが その道の上に貼り付く影はなく その上 着く足もない

なのに 「僕」はいつからかそこに立っている


意識や無意識 あるいは 記憶とその中の思い出したくはない感情が

僕にいつも「生」を感じさせ どうにか「死」を遠ざけさせていた

いつから立っていようと やはり 「生」は感じていただろうし

「死」は一本の長く続く道の終わりで 僕を待っていることだろう

もしかすると 次に「生」を感じた時には 「死」の目の前に立っているかもしれない

つまりは 僕は もう いつからも立つことができないかもしれない

その時 意識や無意識 あるいは記憶とその中の思い出したくはない感情を


僕は きっと 仕様がなく捨て去り 「死」を真摯に受け入れているのだろうか?

何故 着く足がないのだろうか? 影はどこにあるのだろうか?

本当に 一体 いつからそこに立っているのだろうか?

「生」は僕にとって最善で 「死」は誰にとって最悪なのだろうか?

僕は 今 どこに存在しているのだろうか? ねぇ「誰」はどこに?


一本の長く続く道の上で 僕は後ろを振り返らない 振り返ったすぐそこに

数え切れない程の道が どこまでも延びていたら困るから…

これからを生きる為に今までを背負って生きてきたと言うのに

その背負った重さが嘘だったと知るのは 僕には少しばかり荷が重すぎる気がする

だから 僕は後ろを振り返らない それか 振り返れないのかもしれない


真実を語るにはまだ早い 僕は死ぬ為に生き切ろうとしていないし

今 生きている理由の中に 「死」は見当たらない 見つかるまでは嘘しか吐けないなら

真実を語るように嘘を吐くしかない それが 真実を語る前の真実なのだろう


「僕」はいつからかそこに立っている 着く足など始めからなかったんだ だから

影がその道の上に貼り付く訳なんてないんだと決め付けて それで終わりにしよう

そのうち 「生」は消えてなくなってしまう だったら いっその事後ろを振り返れば

また いつからでも 一本の長く続く道の上かどうかは定かではないけど

今度は 着く足と貼り付く影が その道の上で 僕を立たせてくれたらと願うよ


最善の策を練り それを実行することが最悪だと解っていても 僕は意を決する

意識的に記憶とその中の忘れたくはない感情を 無意識の内に捨て去り

その軽くなった体で僕は歩き出した 足を踏み出す度に「生」を感じたから

僕は きっと「死」を目指しているのだと思う もう 何も疑うことはない


今 死ぬ為に生き切ろうと意を決した僕は 嘘を吐くように真実を語り出す

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る