第20話



私はずっと普通の生活に憧れていた。


魔法少女としての才能に早くから目覚めた私は、普通の学校に通うことを許されなかった。


私は国の法律によって女ばかりの魔法少女育成学校に入学させられて、そこで授業と訓練を受けさせられた。


魔法少女育成学校での生活が決して楽しくなかったわけではない。


私の周りにいる女の子は皆いい子ばかりだったし、生徒会役員としての日々はそれなりに充実していた。


でも所詮私たちはカゴの中の鳥。


月に一度しか外の世界に出ることを許されない存在。


世間では魔法少女に憧れる人もいると言うけれど、魔法少女である私はむしろ普通の人に憧れていた。


普通の学生生活、普通の恋愛、普通の遊び。


そんなものに憧れを抱いていた私は、いつも校舎の屋上から外の景色を眺めながら、魔法少女ではない普通の人間としての暮らしを夢見ていた。


そんなある日、私たちの学校に男の子がやってきた。


その男の子は私たちと同じように魔法の力を持っているという。


にわかには信じがたかったが、色々噂を聞いているとどうやらその男の子が魔法を使えるのは本当らしい。


私はすぐにその男の子に興味を持った。


魔法少女のような魔法を使う男の子。


一体どんなやつなんだろう。


一度話してみたいなとそんなことを考えていた矢先に、私たちは奇跡的に昼休みの屋上で出会った。


東条麗矢の第一印象は、いきなり女ばかりの魔法少女育成学校に放り込まれて戸惑っている、なんかわからないけどいい人そう、と言うものだった。


ずっと夢見ていた異性との会話を体験して、私はちょっとドキドキした。


東条はここに来る前に普通の学校に通っていたらしいので、色々話を聞いてみた。


東条の話は新鮮でとても楽しかった。


東条と初めて過ごした昼休みは一瞬で終わってしまったけれど、私はまた東条と話したいなと思った。


それから数日後、東条が生徒会に入ることになった。


詳しくはわからないが、会長と色々あって入ることになったらしい。


私は大歓迎だった。


生徒会役員同士なら必ず放課後に顔を合わせることになるし、色々外の話を聞くことができる。


そんなことを思ってワクワクしていたら、会長からとんでもないことを打ち明けられてしまった。


『最近とある人物のことを考えていたらドキドキして、胸が苦しくなるのだ…』


それってどう考えても恋だ!!


私は会長の話を聞いた時に即座にそう思った。


会長の患っている症状は、恋愛漫画で読んだ恋の症状と全く同じだった。


会長は恋をしている。


そしてその相手はおそらく東条麗矢だろう。


それに気づいた時に私は会長を応援することに決めた。


会長の気持ちの正体について直接教えることはしないが、会長が自分の初恋に気づく手助けをしようと思った。


恋愛漫画にはよく主人公やヒロインの恋を応援するためにあの手この手でサポートをする友人役が現れる。


私はそれになろうと思った。


そしたらずっと憧れていた恋愛模様を近くで見られるからだ。


私は会長に東条とデートすることを勧めた。


そして会長に東条に振り向いてもらえるように色々アドバイスをした。


私のアドバイス通り、会長はおしゃれをしてデートの前に待ち合わせをした。


そしてショッピングモールで東条と二人きりのデートを楽しんだ。


二人の恋愛を間近で見るのは楽しかった。


ずっと憧れていた恋愛が目の前にあると思うとワクワクした。


ちょっとだけ、自分が会長の立場だったらな、と思いもしたが、それを望むのは贅沢というものだ。


その時の私は、ただ会長と東条の恋愛を眺めているだけで満足していた。


その後、私は会長たちを尾行しているところを生徒会のメンバーである美柑ちゃんと千代ちゃんに見つかり、三人で尾行をすることにした。


どうやら美柑ちゃんと千代ちゃんも恋愛に飢えているようで、私と共に会長と東条を尾行することになったのだ。


二人はゲームセンターに続き、服屋でも仲睦まじくしていた。


見ていると会長は東条に服を選ばせて、その服を買ったようだった。


まさに恋愛漫画の定番みたいな展開を間近で見ることができて、私は興奮していた。


なぜか美柑ちゃんと千代ちゃんは不機嫌そうだったけど。


次はどんな展開が訪れるのだろう。


東条は会長のことをどう思っているんだろう。


会長は自分の気持ちにもう気づいただろうか。


そんなことを考え、ワクワクしながら二人の尾行を続けていた矢先の出来事だった。


突如としてショッピングモール内に怪人警報が鳴り響いた。


怪人が現れて、ショッピングモールを襲ったのだ。


もはや姿を隠して尾行している場合じゃなくなった私たちは、会長と東条と合流した。


そしてショッピングモール内に現れた怪人と戦うことになった。


私は会長の指示で魔法少女に変身し、得意な索敵魔法を使って怪人の数と位置を特定した。


そして私は現在私たちがいる階に一番強い怪人がいることがわかった。


索敵魔法で感知したその怪人の存在感は、今までに戦ってきたどの怪人よりも遥かに凶悪だった。


この怪人と他の魔法少女を戦わせるわけにはいかない。


私は自分を犠牲にすることにした。


私が死んで時間稼ぎをする。


その間に援軍がここに駆けつけて、私以外の四人は助かるだろう。


私は会長に嘘をついて上に強い怪人がいると言った。


そして他の四人を別の階に向かわせて、一人で凶悪な怪人に挑んだ。


過去最強の怪人は、信じられないぐらいに強かった。


私では歯が立たずに、すぐに追い詰められてしまった。


怪人に殺されそうになっている寸前、私の頭の中ではこれまでの人生が駆け巡っていた。


つまらない退屈な人生だったと思う。


もっといろんな楽しいことをしたかった。


普通の学校生活、普通の遊び、普通の恋愛を経験してみたかった。


会長みたいに…初恋の男の子に出会いたかった。


私は初恋を体験した会長がひどく羨ましくなり、その味を知らずに死んでしまう自分の人生はとても悲しくて寂しいなと思った。


せめて一度でいいから憧れていた恋をしてみたかったと叶わぬ願いを胸に抱きながら、私は死を悟って目を閉じた。


その刹那、爆発があった。


怪人の悲鳴が聞こえ、私は死ぬ寸前で宙に放り出された。


空気を求めて喘ぎながら顔を上げると、信じられないことにそこに東条麗矢が立っていた。


上の怪人を倒してしまい、私を助けにきたらしい。


どうして、と思った。


なんで会長や、美柑ちゃんや千代ちゃんのところじゃなくて私の元に来たのだろう。


そんな疑問に答えることなく、東条は一人で怪人オロチと戦った。


そしてたった一人で怪人オロチを倒してしまった。


東条がこんなに強いなんて知らなかった。


東条の力は私や美柑ちゃん、千代ちゃん、他の魔法少女たちや、会長をも遥かに凌いでいた。


私は東条の圧倒的な戦いに、思わず言葉を忘れて見惚れていた。


怪人オロチを倒した東条は私を責めた。


私が勝手に自分を犠牲にすることを決めたからだ。


東条はもうこれからは絶対にこういうことはしないと私に約束させた。


私が死んだら悲しいと、そんな嬉しい言葉をかけてくれた。


私はいろんな感情がごちゃ混ぜになって泣いてしまった。


東条はそんな私を優しく包み込んで背中を撫でてくれた。


会長がなんでこの人を好きになったのかわかってしまった。


その後、援軍が駆けつけてショッピングモール内の全ての怪人が討伐された。


それぞれ分かれて怪人と戦いに行った生徒会の面々は、なんとか時間を稼ぐことに成功し、全員が生きてこの危機を乗り切ったのだった。


全てが終わった後、私は嘘をついていたことを会長と美柑ちゃんと千代ちゃんに伝えて謝った。


三人はどうして相談してくれなかったのかと東条と同じように私を責めた後、泣きながら私を抱きしめて許してくれた。


私は生徒会の人たちを裏切るようなことはもう絶対にしないと心に誓った。


結局怪人が出現したせいで全てが有耶無耶になってしまい、会長は自分の気持ちに気づくことはできなかったようだ。


でも、私はもう会長が東条との恋を成就させるための手伝いはできないと思った。


「はぁ…ごめんなさい会長…私もう会長の恋をお手伝いすることはできません…」


それは私自身が、会長と同じ相手に同じ気持ちを抱いてしまったから。


「私って…こんなに性格悪い子だったんですね…」


東条麗矢に、恋をしてしまったから。




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