第16話


西園寺と一緒に俺は駅近くのショッピングモールへとやってきていた。


ここら辺の学生の遊び場といったらまず一番に名前が上がる場所だ。


映画館やCDショップ、本屋、ゲームセンター、衣料品店、靴屋などとにかくなんでもあり、フードコートでは流行りの飲み物やジャンクフードから、高級鰻や寿司まで様々な食事を楽しむこともできる。


「おぉ…!すごい人だな!」


「休日だからな」


今日は休日ということもあり、ショッピングモールは家族連れのお客さんや、カップル、ウィンドウショッピングをしにきた女性客などでごった返していた。


目の前の人だかりを見て西園寺はウキウキとした表情を浮かべている。


女の園で育った魔法少女である彼女にとって、常人なら思わずうんざりしてしまうこのような光景でもむしろ新鮮で面白いものに映るのだろう。


「それで、西園寺はどこに行きたいんだ?」


今日俺がここにいるのは西園寺の荷物持ちとしてである。


わざわざ男手が必要になるくらいだから、西園寺はきっと多くの買い物をするつもりなのだろう。


俺は少しでも多くのものを運ぶことができるように、ほとんど手ぶらの状態で来ている。


「ど、どこ…?えっと、わ、私はどこに行きたいのだ…?」


「え…」


てっきり買うものは決まっているのかと思ったが、困ったような表情を浮かべる。


「このような場所に来るのは初めてだから…最初に何をすればいいのか、どこに行けばいいのかもよくわからん…うぅ、こんなことになるならあいつに聞いておくべきだったな…」


頭を抱える西園寺。


俺はそんな彼女をモール内の地図が描かれてある場所まで引っ張っていき、モール内に何があるのかを大雑把に説明する。


「これを見れば大体どこにどんなものが売られているのかはわかるぞ。服を買いたいなら三階、化粧品は4階、フードコートは2階にあって、靴とか帽子とかはこの階とそれから5階にもあるみたいだな」


「おぉ…!色々なものが売っているのだな!」


西園寺がモール内マップを見て目を輝かせる。


「このゲームセンター、というのはなんなのだ!?」


「いろんなゲームの筐体が置かれているところだな。クレーンゲームとかシューティングゲームとか、リズムゲームとか、そういうのができるぞ」


「おぉ…!それはすごいな…!」


西園寺が興奮した声を上げる。


「やってみたい、私はこのゲームセンターへ行ってみたいぞ!」


「え、買い物はいいのか?」


「買い物など後でもできるではないか!せっかくこのような楽しい場所に来たのだから、存分に楽しみたいぞ!」


「それもそうだな。よし、ゲーセンには何度か行ったことあるから、案内してやるよ」


「心強いぞ!」


俺はテンションの上がっている西園寺をゲームセンターへと連れていく。


「…っ!?なんだこの音は!?」


ゲーセンに入った途端に筐体から発せられる爆音にびっくりしている西園寺。


彼女が最初に目をつけたのは、シューティングゲームだった。


「これ、これやってみたいぞ!」


「ガンシューティングか。二人でできるみたいだから、一緒にやるか?」


「やりたい!」


「わかった」


俺はお金を入れて、西園寺とともに協力してプレーする。


西園寺ははじめてながらかなり器用に敵を倒し、二人でなんとか最初のボスまでは到達した。


だがボスの攻撃により、二人とも残機を減らし、ゲームオーバーとなってしまう。


「くっ…なかなか手強いやつだ…魔法を使えないのが歯がゆいぞ!」


「ははは。イラついてゲーム画面に魔法を打ち込まないように気をつけろよ」


俺はすっかりゲームにのめり込んでいる西園寺に笑いながら忠告した。


「もう一回だ、東条!次やれば勝てるような気がするのだ!」


「わかった。もう一回な」


俺たちは再び協力プレーでゲームに挑む。


先ほどのプレーで敵の挙動を把握した俺たちは、うまく協力しながら敵を倒していき、今度は残機ギリギリのところで最初のボスを倒すことができた。


「倒したぞ!!倒してやったぞ!!」


「ああ、そうだな。初めてにしてはかなり美味かったぞ、西園寺」


「お前がサポートしてくれたおかげだ!東条!」


俺たちはハイタッチを交わす。


その後、俺は西園寺とともにいろんなゲームの筐体を見て回った。


そして西園寺が興味を持ったゲームのやり方を、実演で教えてやる。


西園寺は、まるで子供になったみたいにゲームに熱中していた。


学校にいるときの西園寺からは考えられない、あどけない笑顔だった。


「西園寺。悪い、ちょっとトイレ」


「ああ、わかった。私はここでこのクレーンゲームとやらをプレイしているからな!後一回で取れそうな気がするのだ!」


「了解」


ゲーセンの効きすぎたクーラーのせいで尿意を催した俺は、クレーンゲームに夢中になっている西園寺をその場に残し、トイレへと駆け込んだ。


「ねぇ、姉ちゃん、まじかわいいね。彼氏いるのー?俺らと遊ばない?」


「ゲーセンより楽しい場所知ってるよ。そこ行こうよ。ほらいいでしょ?」


「なんなのだお前らは!今いいところなのだ!邪魔をするな!」


トイレから帰ってきてみると、西園寺がガラの悪い二人に囲まれていた。


二人は嫌がる西園寺に執拗に絡んでいる。


俺は二人と西園寺の間に割って入って、二人にいった。


「すみません、この子俺の彼女なんでナンパはやめてもらえますか?」


「はぁ?お前彼氏?」


「まじかよ彼氏持ちかよ」


二人は舌打ちをして残念そうに去っていった。


振り返ると西園寺がキョトンとした顔で首を傾げている。


「彼女ってなんのことなのだ、東条」


「恋人ってこと。あいつら、西園寺に言い寄ってた見たいだから、俺の恋人ってことにして追い払ったんだよ」


「こここ、恋人!?」


西園寺が真っ赤になって俯く。


「いや、あいつらを追い払うためについた嘘だからな?」


「そ、それくらいわかっている…と、ともかく…礼を言うぞ、東条。あいつら、とてもしつこくて不快だったからな。お前が追い払ってくれてせいせいしたぞ」


「西園寺は可愛いからな。あんなふうに絡まれることも多いだろうから気をつけるんだぞ」


「か、可愛い!?私が…!?」


またしても赤くなって俯く西園寺。


あまり褒められ慣れていないのだろうか。


耳まで真っ赤だ。


「か、簡単にそんなことを言うなっ、なんなのだお前はっ」


「いや、俺は本当のことを言っただけで…」


「…うるさいうるさいうるさい!と、とにかくクレーンゲームはもうおしまいだ!!こ、これ以上やり続けてもお金が減るだけだしな、行くぞ!」


「おう。次はどこに行くんだ?」


スタスタと歩き始めた西園寺についていき、俺はゲームセンターを出るのだった。






「計画通り…すべては計画通りに進んでいますよ…!ぐふふっ!」


ゲームセンターを出ていく西園寺と東条をゲームの筐体に隠れながら観察している影があった。


無論、小鳥遊ユキである。


小鳥遊はゲームセンターでの協力プレイを経てどんどん仲が深まっていく二人を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべる。


「ゲームでの協力プレイを経て仲を深める二人。そして、ガラの悪い男たちに囲まれる会長を助ける東条くん!その男気と優しさにますます東条さんへの想いを深めていく会長!!ああ、漫画で見た恋物語がまさに今目の前に!!」


小鳥遊はまるで自らが愛読している恋愛漫画の再現のような展開が目の前で起こり、これ以上ないぐらいにテンションを上げていた。


まさに自分が見たかったものが見られた喜びを、二人の後ろ姿を見ながら噛み締める。


「私も、いつかあんな感じの恋を…」


一瞬、ほんの一瞬だけ、小鳥遊は今東条の隣にいるのが自分だったらと考えてしまう。


東条のことを好きになり、一緒にデートをして休日を楽しむ。


憧れの恋愛漫画のような展開が自分に訪れたとしたら、それは一体どんな感じなのだろう。


「ううん、ダメダメ私。何考えてるの。東条くんは会長のものでしょう?私は会長を応援するの。こんなに間近で二人の恋愛を見れるだけでもすごいことなんだから」


一瞬血迷いかけた自分の思考を頭を振って無理やり振り払い、二人の尾行を再開させようとする。


「あれ、ユキちゃん?こんなところで何してるの?」


「ユキ。なんでこんなところにお前がいるんだ?」


「ギクっ!?」


唐突に背後から聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。


小鳥遊は悪いことをしているのを見つかった子供みたいに、恐る恐る振り返る。


「美柑ちゃん、千代ちゃん…」


「「んー?」」


そこに立っていたのは訝しむような表情を浮かべている如月美柑と宇佐美千代だった。



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