第31話 『決勝と自由』


「一日中行われたノワール学園とブランシュ学園の対抗戦! ついに決勝戦まで来ましたわ! この勝負に勝った方の学園が勝者! そして、両校一年生においての正真正銘、最強の称号を手にする事が出来ますわ!」


 リリーナの司会に合わせて、会場に溢れかえっている観客達は雄叫びを上げる。

 むせかえるような凄まじい熱気と、轟く応援の声。


 今考えてみると、この会場は酒やご飯も提供しているみたいだし、両校での興行としても行っているのだろうと、つまらない事を思いながら俺は会場の中央へと視線を向ける。


「ここまで圧倒的な身体能力を以て、毎試合一撃で試合相手をダウンさせてきた黒髪の少年! ノワール学園一年生最強とも呼び声高い彼は、今回も勝利を手にする事が出来るか!? ノワール学園! ショータ!」


 照れくさいような口上をリリーナに読み上げられ、俺は大変恥ずかしくなりながら競技場の中央へと足を運ぶ。


「ショータ~! 頑張りなさーい!」

「がんばれ~!」

「やっちまえッス~!」


 サラ、ルル、ラキラキの三人から声援を貰い、俺は小さく手を振って応える。しかし、猛烈に恥ずかしい......。


 沢山の人の目と脳が俺を認識しているという事実が、あまり好きではない......。

 そんな事を思いながら歩いていると......。


「続いて、こちらもブランシュ学園一年生最強と噂のある白髪の少女! 神業にも等しいその剣技でこのまま勝利を手にする事が出来るか! ブランシュ学園! 勇者の末裔、シルミア!」


 沸き上がる歓声と叫び声。会場中が彼女の入場に全力で喜んでいる。


「――それでは両者位置についてください......」 


 今か今かと決勝戦が始まろうとしている最中、観客席にいる三人の元に、桃髪の少女が現れる。


「あら、お三方揃い踏みですのね?」

「貴方は......。プリュネ!」


 彼女は優雅なポーズをとりながら、短い桃髪を揺らしている。

 顔に薄い微笑みを浮かべ、流れで三人の隣にチョコンと座る。


「えっと......。これはつまりどういう事ッスか......?」


 そんな彼女の行動に困惑して、プリュネを観察しているラキラキ。

 彼女は颯爽と髪をかき上げながら、堂々とした姿勢で口を開いた。


「せ、せっかくだから、私が一緒に見てあげるわ!」


 颯爽とした仕草ではあるのに、彼女の瞳はグルグルと回っており混乱している様子だった。

 珍妙な様子のプリュネに対して、ルルが素朴な疑問をぶつける。


「プリュネちゃん......。友達いないの?」


 誰の目からしてもルルの言葉には悪意が無いように見えた。

 むしろ純真な心から発さられた言葉が、プリュネのガラスのハートに突き刺さる。


「――うぐっ......! そ、そんなストレートに言わなくてもいいじゃないですか!」

「否定はしないんスね......」


 自分の胸を抑えて、悶え苦しんでいるプリュネに対して、呆れている様子のラキラキ。サラは突然立ち上がり、彼女に指を指しながら大声で宣言する。


「プリュネ! そういう事なら分かったわ! 私達と一緒に、この決勝戦を見届けましょう! ちなみに勝つのはショータだけどね!」

「いや、姉様です!」

「ショータよ!」

「姉様!」


 ――そんなこんなで、彼女らは四人で決勝戦を見守る事となった。


 会場の中央ではショータとシルミアが何か会話をしている。


「プリュネから聞いた。お前は"カンブリア・ナイティング"じゃないそうだな......」

「うっ......。見知らぬ人には名前を教えてない方がいいと教わったので......」


 俺が気まずそうに目を逸らして言い訳をすると、彼女は和やかな微笑みを浮かべて口を開いた。


「ふっ......。良い心掛けだと思う。いついかなる時も周囲を警戒する事は大切だ」

「は、はい......」


 俺達の間によく分からない空気が流れた後......。


「それでは――両者準備はいいですわね!?」


 俺達はリリーナの声に、小さく頷く。


「それでは決勝戦! 試合――開始ですわ!」


 俺は試合開始の合図と共に、土魔法を展開する。

 自分の足元の地面を盛り上げ、上下左右を三次元に高速移動する。

 空港にあるオートウォークLv100みたいな感じだ。


「っ! あの魔法初めて見たッス! あれで移動するの楽しそうッスね!」

「ふふっ。そうね! 私が魔人化した時に炎に乗るのと同じ要領かしら......!」

「むっ......。でもでも、姉様だって負けていませんわ!」


 これまで試合において彼女は、剣技しか披露してこなかった。


 様子見も兼ねて、この魔法を使ってみたが、シルミアはじっとこちらを見ているだけだ。

 巨大な岩の塊に乗りながら、俺はシルミアへと接近していく。

 

 すると、俺の乗っている岩の塊を一振りで壊す。

 俺は落下すると同時に腰にある木刀を握り、彼女に振りかぶった。


 とても木刀とは思えない鈍く鋭い音が会場中に響き渡り、両者の刀は折れる。

 そしてお互いに顔色一つ変えず、距離をとる。


 シルミアは土魔法を使って自分の剣を作り出す。

 そんな様子を横目に、俺は新しい魔法を試してみたくなった。


 地面から巨大なツタを生やすと、ショータは自分の足に巻きつけた。

 そして、ツタはショータを全力で振り回す。

 まるで人形のようにブンブンと振り回されるショータの様子に観客達は困惑の色を見せていた。


「あ、あれショータさんが自分で動かしてるんですよね......?」

「かなり荒々しい魔法ッスね......。酔いそうッス......」

「うん。でもショータの事だから何か考えがある......」


 高速で自分の体を回し、そして離す。

 彼は途轍もない勢いでシルミアの元へと飛ばされる。

 そしてショータもまた土魔法で剣を生成し、シルミアへと斬りかかる。


 今度は剣同士が折れず、両者共、高速で剣と剣がぶつかり合う。

 

 踏み込み、振りかぶり、降ろす。

 たったこれだけの動きなのに、彼らの攻防は他の生徒達とは一線を画していた。

 一瞬の内に剣は何度もぶつかり合い、鋭い音を何度も響かせる。


 するとシルミアは、そんな状況を変えようと思ったのか、剣を交えながら魔法を展開した。おびただしい数の炎の弾がショータの全方位から襲ってくる。


 それに合わせて、同じ数だけの水の弾を彼は用意し、高速で移動してくる炎の球に余すことなく、寸分も違わずにぶつけた。

 ショータは彼女の魔法に対して表情を変える事無く完璧に対応したのだ。


 二人の周囲で小さな爆発が幾つも起こり、彼らは相変わらず凄まじい剣技で殴り合っている。


 そして間髪入れずにシルミアがショータに向かって魔法を展開する。

 しかしその全てを、完璧に対応するショータ。

 二人の周りは爆発し、砂ぼこりが舞っていたが、変わらず剣を交える二人だったが、徐々にショータが優勢になっていく。


「二人共凄わね! あの規模の魔法を剣を交えながら、しかも無詠唱魔法で......」

「確か、無詠唱魔法にすると魔法の威力が落ちるんスよね?」

「えぇ。一瞬の判断が大切な達人同士の戦いになると、ちょっとの隙が命取りだもの......。でも逆に、詠唱すれば威力があがるから一長一短だけれどね」


 そうしてサラが答え終えると、今度はプリュネが疑問を口にした。 


「ちなみに貴方達は、いつもどちらを使っているの?」


 すると、ラキラキが手をあげて堂々と答える。


「私はスピード重視なんで無詠唱派ッス!」

「わたしとサラは詠唱派かな。魔人化したら大技を打てるようになるから、癖を引きずっているっていうのもあるけど......」

「リリーナは半分半分って感じッスよね! 体に風を纏う時とかは無詠唱使ってるし!」

「わ、私は詠唱派ですよ! ちゃんとした威力が出て安心感がありますもの!」


 追いすがるように話すプリュネ。すると、戦っている二人に変化が訪れる。


 ショータがシルミアに一撃を入れ、彼女は後退する。

 しかし、その隙を逃さないショータは黒髪を揺らしながら彼女に急速に接近する。


 それを見たシルミアは目の前に巨大な炎の球を出現させ、ショータに向けて放つ。ショータも同じ大きさの水球を作り出すと、ぶつける。


 二つの巨大な魔法がぶつかり合うと、急激に熱せられた水は大爆発を起こした。

 鳴り響く轟音と吹き渡る灼熱の熱風に、観客達も目を見開いて驚いている。


「あの巨大な火球......。姉様も上級魔法を解禁し始めましたか......」


 プリュネは再度呟いた。


「というか当たり前のようにやってますけど、ショータさんも上級魔法を使えるんですね......」


 すると、プリュネの疑問に対して三人は首を振って答えた。


「いや、確かにショータは上級魔法を使えるけど、今のあれは初級魔法よ」

「へ?」

「あれは、上級魔法じゃなくてただの初級魔法なのよ......」


 サラも半ば、自分の言っている事に現実味が無い事を理解しながら話していた。そんな言葉を聞いたプリュネは目をパチパチと瞬かせると......。


「はぁぁぁ!? あの威力ですよ!? あ、あの巨大過ぎる水球が初級魔法と言うんですか!?」

「うん。普通、魔法は威力と規模、そして必要な魔力量によって初級、中級、上級に分けられる。でもショータは初級魔法と同じ魔力であの魔法を作ってるから、定義的には初級になっちゃうんだ......。道理に反してる......」


 ルルも自分の言ってる事に疑いを覚えながら話していた。

 そんな説明に、プリュネは放心したように声を出す事もままならず驚いていた。


「別に初級魔法だから弱くて上級魔法だから強いって訳じゃないんスけどね! 私達もほぼ初級、中級魔法だけでA級の魔物達を倒したッスもん! まぁそれでも......」


 先程の光景を思い出しながら、ラキラキは笑った。


「あれはちょっと......! アハハ! 凄すぎるッスね......!」


 火球と水球がぶつかり合い、大爆発が起こった後、二人は少し距離をとる。

 そして魔法の撃ち合いが始まっていた。


 シルミアは当たり前のように、火と水の弾丸、電撃など複数属性の魔法をショータに向けて放つ。

 そしてショータも当たり前のように、その属性に合わせた魔法をぶつけて相殺をする。


「ね、ねぇ。もしかしなくても、複数属性の魔法を使うのって凄く難しいんじゃないかしら......。生まれてこの方、電気魔法以外の属性魔法に成功した事が無いのよね......」

「えぇ。私とルルも一属性しか使えないわよ」

「私は一応複数使えるッスけど、土魔法以外は威力が著しく落ちるッス!」


 プリュネは皆の声を聞くと、手を頬に当てて考え込む。


 「回復魔法や防御魔法、私の使えるマジックキャンセルは”補助魔法”っていう大枠に入るとしても、いつも使ってない属性の使いずらさったら、凄まじいわよね......」


 プリュネがしみじみと放ったその言葉に、他の三人はブンブンと首を振って深く肯定している。そしてプリュネは嬉しそうに笑みを浮かべながら......。


「だとしたら、やっぱり姉様は凄いわ! 姉様は私が小さい頃から、すっごくかっこよくて、可愛くて、美しかったもの!」

「アハハ。プリュネはお姉さんの事、とても信頼してるんスね!」

「ふふっ。そうね!」


 姉の事を考えながら満面の笑みを浮かべている彼女を、微笑ましそうに見守っている三人。

 ふと、ルルは頭に浮かんだ疑問を口にする。


「あ。ずっと気になってた。プリュネはお姉さんと血が繋がってるの? そうなればプリュネも勇者の末裔だけど......」


 すると彼女は桃髪を揺らしながら、何気なく答えた。


「え、私と姉様は血繋がって無かったわよ? だって最初に出会ったのって初等部で同じクラスになった時ですもの」

「へ? じゃあ自分で名乗ってるだけ、ってこと......?」


 プリュネは嬉しそうに息まくと、堂々と口を開いた。


「えぇ! だって姉様は姉様ですもの! 私が妹を名乗った瞬間から私達は血が繋がったんですのよ!」


 そんな様子の彼女にサラは笑みを浮かべる。


「ふふっ。お姉さんの事、そんなに好きなのね?」

「べ、別に好きって訳じゃないけど......」

 

 そんな風にサラの質問に、頬を赤く染めて気恥ずかしそうにしているプリュネだった。


 最初は中距離からの弾丸の打ち合いだった。

 火球、水球、岩。そして電撃を互いに撃ち合い、打ち消し合った。

 しかし次の瞬間、シルミアは見上げる程巨大な程な岩石をショータの頭上に落とす。


 ――それ以て、二人の魔法の撃ち合いは徐々に苛烈なっていく。

 

 ショータは水の圧力を極限まで高め、落ちてくる巨大な岩を豆腐のように切る。

 シルミアはそこに、すかさず広範囲の電撃を打ちこむ。

 轟音を鳴り響かせながら、ショータへと放たれた電撃。

 

 黒髪の少年は当然のように防御魔法を展開して防ぐ。


 辺りには魔法の余波で暴風が吹き荒れ、観客達も髪を酷く揺らしながら見ている。


 ――そして、二人は互いに宙に浮き、舞台は地上から空中へと移り変わる。


 白髪の少女と黒髪の少年、互いが互いを見据えている......。


「――ハハ、久しぶりだ。こんなに自由に魔法を使うのは......」


 ――荒れ狂う風の中、白髪の少女は笑った。

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