第5話 『霧と料理』

 

 俺達は出てくる魔物達を次々と倒し、何事も無く順調にダンジョン探索を進めていた。


「ブレイズフィスト!」

「アクアスラッシュ」


 サラは炎をまとった拳を魔物の腹部に直撃させ、ルルは水の斬撃を用いて魔物の首を刈り取る。

 二人の鮮やかな魔法を受けた魔物達はすぐに屍と化す。


「これで最後か」


 俺は短剣を抜くと、グリズリーベアの心臓を突く。

 グリズリーベアは反応する間も無く命を奪われ、砂埃をあげてダンジョンの床に倒れる。


「ん~! ダンジョンに入ってからずっと戦いっぱなしだわ! 疲れたぁー!」

「お腹空いた......」

「そうだな。そろそろ休憩にする?」


 ダンジョンの床に適当に座るのも何なので、俺は土魔法で椅子とテーブルを作り出す。


「わぁ~! コレすっごいわね! プニプニしてるわ!」

「うん。座り心地最高......。溶けちゃいそう......」


 椅子に座るやいなや満足そうにしている二人を一瞥し、俺は料理の準備に取り掛かる。

 空間収納魔法から調理用の魔力コンロ、鍋、先程倒したレッドドラゴン、野菜、調味料などなどを取り出す。

 レッドドラゴンは、とてもじゃないが全部食べ切れるはずも無い。それに食べきってしまえばギルドに提出する分が無くなってしまう。なので今回は尾と足の一部を頂く。


「レッドドラゴンを食べるの!? 確かに竜は美味しいって聞いたことがあるけど......」

「楽しみ......!」


 鍋に水を入れ、フライパンには油を敷いたらどちらもコンロにセットして熱しておく。

 

 予め鱗達と肉部分を分離させ血抜きをしておいた尾と足の肉を取り出す。

 尾は骨ごと一口大にぶつ切りにし、酒で揉み込みしばし放置。

 足の方は100g台に切り、肉の表と裏に塩やハーブを振りかけてこれもまた放置。

 野菜は水魔法で汚れを洗い流し、適当に切る。

 

「凄い包丁捌きね......」

「動きが見えない......!」


 沸騰した鍋に尾の肉を入れて術式を用いて加熱時間を減らす。

 アクを洗い流し、野菜達と肉を一緒に煮込む。

 再びコンロに付与した術式を発動させ、加熱時間の短縮を行う。要は圧力鍋だ。

 調味料で味を整えれば、レッドドラゴンのテールスープは完成だ。


 熱されたフライパンにバターを落として、肉を焼く。

 強火で最低限の加熱を行うと肉を休ませて内部まで火を通す。

 空いたフライパンに調味料を入れてソースを作れる。

 茹でた野菜とステーキ、そして特製のソースを回しかけるとレッドドラゴンのステーキも完成。


「いい匂いだわ......!」

「もう我慢できない......!」


 調理を始めてから十分も経たずに、『レッドドラゴンのステーキ』『レッドドラゴンのテールスープ』が完成した。

 最後に、予めお店で買っておいたパンを添えたら完璧だ。

 流石に映える皿は収納魔法の中にも持ち合わせていなかったので、素朴な木材で作られた皿にはなるが、それでも十分な程に美味しそうだった。

 人数分の料理が温かな湯気を立てて机に並んでいる。

 

 ステーキは肉汁が滴り、辺りにその肉々しい匂いが漂っている。

 濃厚なスープは湯気を立て、見るだけで食欲をそそられる。


「すっごい美味しそうじゃない!?」

「わぁぁ......!」


 二人は目を輝かせて机に並んだ料理を見つめている。


 結構時間のかかる料理にもかかわらず、この改良した魔力コンロを使えば数分で作れてしまう。我ながら良い仕事をするものだと少し感心する。

 

「では、いただきます」

「「いただきます!」」


 俺の声が口を開くと、二人も手を合わせて俺に続く。

 食事に用いる道具はフォークとスプーン。この異世界では箸を使う文化が無いらしく、俺一人だけ箸を使う訳にも行かないので郷に従う。

 

 サラはフォークをステーキに刺してそのままかぶりつく。


「ん! なにこれ!? すっごいジューシーだわ! 歯を入れた瞬間、お肉が溶けて旨味が溢れ出てくる! 美味しいぃ......!」


 彼女は赤色の髪を揺らしながら、幸せそうに咀嚼している。


「んふふ......。美味しすぎるわぁ~!」


 満足そうな笑顔を見せながら、すぐさまステーキを平らげしまった。


「ショータ! おかわりはある!?」

「もちろんあるよ」

 

 絶対にサラがおかわりをすると思っていたので予め多めに作っていた。

 その食べっぷりを見たルルは息を呑み、テールスープの方から食べ始める。

 

「ん......! おにく、やわらか......!」


 口元を緩ませて、頬を赤らめながら次々と小さな口で食べていく。


「ドラゴンのお肉ってこんなにおいしかったんだ......。ショータの調理が上手なのかな......」


 二人の満足そうな様子を見てから俺も料理を口に運ぶ。

 まずはステーキから。

 

 フォークを刺しただけで、肉汁が溢れてくる。ステーキを噛んだ瞬間に肉々しい香りとガツンとした旨味が爆弾のように破裂し、口の中へと広がる。

 火加減は完璧で、確かな歯ごたえはあるのにスッとかみ切れてしまう。

 ソースをあまり主張させないようにしたのも正解だった。

 ステーキが野性的にならないようにソースが優しく包み込んでくれている。

 確かにこれは毎日でも食べたくなるな......。

 

 お次はテールスープといこう。二人も美味しそうに食べてくれたし、自前の魔力コンロに不備は無かったはずだが、不安なものは不安だ。上手くいっているといいが......。


 スプーンで尾肉をつつくとホロリと簡単に崩れる。スープと肉、野菜をスプーンに乗せて口へと運ぶ。

 その瞬間、肉と野菜の芳醇な香りが鼻を突き抜ける。

 尾骨から抽出された出汁が野菜達や調味料と上手く調和している。

 魔法で時間を短縮したとは言え、しっかりと煮込んだ野菜達から出た出汁は尾肉に負けず劣らずだ。朗らかなでありながら濃厚で旨味のある出汁が出ている。

 もう少し濃くすれば、ラーメンも作れるかもしれない......。


「本当に美味しいわね......。ショータ、料理人としても十分やっていけるんじゃない?」

「わかる......」


「いやいやいや」


 二人の過剰な賞賛を思わず否定してしまう。

 まぁでも、この料理達が美味しいのは八割方レッドドラゴンの肉が美味しいからというのもあるんじゃないですかね。


 ――ふと、違和感に気づく。


「あれ? 何か湯気が多くない?」

「サラ。ちがう構えて」


 サラとルルも気が付いたようだ。

 辺りはたちどころに真っ白な霧に包まれている。

 そして、どこからか微かな魔力反応を感じるのだ。


 俺もいつでも戦闘を開始してもいいようにと、腰にあるナイフに手をかざして構える。しかし、いくら待っても魔力反応がおぼろげである事は変わらず、霧が濃くなっていくばかりだ。

 そして、視界を塞ぎ辺りの様子は何も見えなくなってしまった。


「ショータ! ルル! 大丈夫!?」

「うん。わたしはいるよ」

「魔力反応が少しおかしいのが気になるが......」


 とうとう、まるで何事も無かったかのように視界を完全に遮断していた霧は散り散りになり、辺りは晴れた。微かにあった魔力反応すらも消え去っている。


「サラ、ルル。異常は無いか?」


 いつものように俺の喉からは中世的な声が発せられるはずだった。

 しかし聞こえたのは可愛らしい、まるで小鳥のさえずりのような高い声。

 昨日、そして今日と聞き続けてきたルルの声が俺の頭蓋を伝播して聞こえる。


「は?」


 手元を見ると小さな手。視界には青い髪が写っている。いつもよりも周りの景色が大きく見え、まるで自分が小さくなったかのようだ。

 違う。事実として俺は小さくなってしまったのだ。


 振り返り、サラとルルの様子を見る。

 

 俺の目には唖然とした様子のサラと、他でも無い自分自身の姿が写っていた。

 

「ショータ。これは紛れもない、異常だね」 


 赤髪の少女サラの瞳はジトーっとしており、彼女はゆったりとした雰囲気をまとっていた。


「ちょっと!? 一体どういう事! 私の口からショータの声が聞こえるんだけど!?」


 俺の体。ショータの体は元気溌剌で勝気な雰囲気を持っている。


 ――俺は理解した。俺達は入れ替わってしまったのだと。


 そしてダンジョンの困難はここから本番なのだと......。

 

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