第13話 『ビーチバレーと魔法』

 

 見渡す限り水平線が続いている大きな海原。その海は透き通るような色をしている。

 煌々と照り付ける太陽に熱された砂浜は、踏みしめると確かな暖かさと居心地の良い柔らかさを感じる。


 ビーチバレーの設営はラキラキが土魔法で行ってくれた。

 流石にネットは作れなかったが二本の柱を作り出し、その間に格子状の壁が建てられている。そして、ボールは施設にあったものを使わせてもらうことになった。


 柱のすぐ近くには、はしごで登る形の長椅子が審判用にちょうど二個作られている。椅子が隣同士に並べられ、仲良くそこに座っているのは審判のサラとルルだ。

 

 壁を隔てた両側に、お互いのエリアを象るように地面には四角く浅い溝が掘られている。エリアの奥行きは20m程、壁の横幅は10m程度だろうか。

 

 自分の陣営にボールが落ちるか、エリアの外に落としてしまえば、失点。

 逆に、相手のコートにボールを落とせば得点。ボールはいくらでも触っていい。

 公式大会が開ける程ガチガチなルールではないが、締めすぎても面白味に欠ける為、これくらいの緩さでいいのかもしれない。


 片側には、俺一人。そしてもう片側には、ラキラキとリリーナ。


「ワタクシの知らない所で、勝手に合意がなされて何だか釈然としませんけど! やるからには勝利一択ですわ!」


 麦わら帽子を外し、身にまとうのは純白の水着のみ。

 やる気十分のリリーナに応えるのはラキラキ。

 黒髪を風にたなびかせながら悪戯な笑みを浮かべている。


「そうッスね! 私たちの友情パワーを見せつけてやるッス!」

「うぅ......。そうですわね! 見せつけてやりましょう!」


 ラキラキの発言に少し頬を染めるも、開き直り肯定するリリーナ。


「この勝負に勝ったら、本当にあの質問に答えてくれるんだな?」

「もちろんッス。私に二言は無いッスから!」


 俺の再三の確認に対して彼女は笑みを浮かべ、口の端から二本の八重歯を光らせている。


「それじゃあ三人とも。用意はいいわね!?」


 サラの発言に俺たちは息を揃えて首肯する。


「あぁ」 

「はいッス!」 

「もちろんですわ!」 


「ルールは簡単。相手のエリアにボールを落としたら得点。それ以外は失点。ボールは何回でも触れてもいいよ。でも持つのはダメ。そして、三点獲った方が勝ち」


 ルルの発言に俺たちは首を縦に振る。

 正直ビーチバレーは前世と合わせても初めてだし、球技なんてまともにやった事がない。しかし、ラキラキからの答えを聞くためにも勝たないといけない。


「それじゃあ! いくわよ! よーい......」


「――スタート!」

「――すたーと!」


 サラの自信満々の大きな声と、ルルの目をつぶりながらの精一杯の声がコート中に響き渡る。まずはラキラキのサーブからみたいだ。


「ふっふっふ。こんな事もあろうかと、私には秘策があるんスよ!」


 コートの外側に出て、サーブを打つかと思えば、更に遠くへ行くラキラキ。


「もしかして、ジャンプサーブ?」

「別に秘策って程じゃないわね!?」


 審判兼、観覧者として来てくれてる二人の会話に微笑ましさを感じながらも、ラキラキを見据える。

 彼女はボールを空に向かって投げると、後ろに砂を巻き上げながらボールに合わせようと軽やかに走っている。そして、急停止と共に天高く舞い上がり......。


「――あ、そうだ。魔法を使っちゃいけないんなんて、言ってなかったッスよね?」 


 は......。どういうことだ?

 

 ラキラキはジャンプサーブの姿勢で、右手を掲げる。

 突如として土くれが右手の周りに出現したかと思えば、一瞬にして巨大な右腕が形成される。その豪腕をボールに向けて......。


「喰らうがいいッスよ! 私の渾身の必殺技!! ――スーパーウルトラゴットジャンプサァーーーブ!」


「名前ダサいわね!?」

「改名してほしい......」


 俺はサラとルルの発言に心の中で共感する。

 

 技の名前に対して100件ばかり指摘をしたかったが、そんな時間は無いみたいだ。

 トンチンカンな名前の割に、その威力は本物だった。

 およそバレーボールが出していいモノではない爆発のような轟音と、風切り声を発しながらこちらへと迫っている。


 ――残り数秒で、既にボールは地面に落ちているだろう。

 

 少しも無駄に出来ない状況で即座にボールを見据え、落下地点を予測する。

 コートの右後ろの角、ギリギリでエリア内だ......。

 そう考え終わる頃には、砂の大地を踏みしめて、思い切り地面を蹴ろうと思った。

 

 ――しかし出来ない。原因は砂だ。

 

 このまま全力で地面を蹴ってしまえば、大量の砂煙をたててしまい二人からの視界を塞いでしまう。それで勝つ事も出来るが何だか釈然としない。


 仕方がなく力を出来るだけセーブしながら、砂埃を立てないギリギリの力で地面を蹴る。しかしこれでは間に合わないと踏んで、足を浮かせて体ごと飛び込んだ。

 

 ――俺の指先とボールには小指の先ほどの隙間が空き、ボールは何者にも遮られず地面へと落下した。


「ちょっとラキラキ! 明らかにルール違反ですわよ!? いえ、明確なルールを決めてはいませんでしたけど、フェアではないですわぁ!」


 彼女は頬を膨らめせて、身振り手振りを用いてラキラキに抗議の感情をぶつけている。審判であるサラとルルも、超速サーブに驚愕しながらも事態の落としどころを探っている様子。

 

 リリーナの言う事は最もだ。俺が言えば、ラキラキを非を認めて仕切り直しに付き合ってくれるだろう。しかし全力で蹴れない縛りプレイ、加えて魔法を使ってもいいなんていうオリジナルルールに俺はワクワクしていた。


「いや、面白い。続けよう」


 そう俺が言うとラキラキは口元を緩め、瞳を輝かせて溌剌に笑う。


「そうこなくちゃッス!」

「はぁ......。分かりましたわ。じゃあ、次からはワタクシも魔法を使わせて頂きますわよ?」


 礼儀正しく魔法を使うことを教えてくれるリリーナ。

 事態の収拾を審判の二人が見届けると、互いに目を合わせて頷く。


「ラキラキ・リリーナチームに1点よ!」

 

 笛の音が鳴るとサラが高らかに告げる。ルルが笛係でサラが得点を言う係なんだなと、見当違いな思考を断ち切り相手の二人を見据える。


 これで0-1。さてどうしたものだろうか。俺は先程同様、コートのちょうど真ん中に立つ。さっきは考えている数秒の時間によって失点した。

 だったらやる事は一つ。思考を放棄し、全神経を全感覚を集約させる。


 サーブは再びラキラキ、またもや遠くからジャンプサーブをするみたいだ。


「流石に酷いことしたんで、今回は普通にジャンプサーブするッス~~!!」


 笑みを絶やさないまま、手を振って叫んでいるラキラキ。

 そしてボールを宙へ投げ、走り込む。急停止と共に飛び上がり、腕を振る......。


「まぁ、嘘ッスけどね!」 

「だろうな!」


 ――今度は強固な岩に加えて、様々な鉱石で出来た巨大な剛腕を振り下ろす。


 舌をペロっと出して、悪戯な笑顔を振りまいているラキラキ。

 俺は彼女の巨腕がボールに触れた瞬間、既に体を動かしていた。

 コートの左前、両者を隔てる壁スレスレへと......。

 

 ボールの軌道で言えば、こちらから見て右側に膨らんでいる。

 誰の目から見てもこのままいけば、さっきの失点同じくコートの右後ろ角に落ちるように見える。


 しかし違う。

 俺は自分の感覚を信じる。コートの前方、左角へと体を飛び込ませて両手を構える。もちろん、砂埃の影響を加味して力を抜いて飛び込んだ。

 

 ラキラキの放ったボールは先ほどよりも速く、目にも止まらぬ速さで残像と共に動いていた。


「更に早くなるの!?」

「ブレて見える......」


 サラとルルの呟きも、目の前の光景に集中しているショータには聞こえない。


 既にボールはコートの右側へと膨らみ、膨らみを感じさせない程の神速でこちらのコートの中腹を超える。

 そして変わらぬ速度で直角に角度を変えて、前方左角へと全速力で落下してくる。

 

 ――いや、これは落下と呼ぶにはあまりにも速過ぎる......。

 どちらにしても今度は地面には着かせない。

 

 ボールが放たれるよりも先に動いたのにも関わらず、ギリギリの所でボールを打ち上げる。ボールは自陣の中央、ちょうど真ん中に打ちあがっていた。


「はぁ!? どうゆうこと!?」

「目で追えない......」

「もう、何がなんだかですわ......」

「......アレをとるッスか?」


 事態が呑み込めていないサラ、ルル、リリーナと、必殺技を止められた事に驚愕するラキラキ。計四人の感嘆の声を他所に、俺は相手のコートを一瞥する。

 魔法を使ってくる様子はない。流石に相手のコートまで妨害をするのは気が引けるか......。

 しかしここから体制を立て直し、普通に打ったところでおそらく魔法で防がれる。

 リリーナの魔法も未知数だ。勝利の可能性に欠ける。

 

 現在、ボールに飛び込んで空中にいるままの状態。

 俺の姿勢的には両手を重ねたまま、腕を頭の上に持ち上げて空中で地面と平行にうつぶせになっているような形だ。

 普通ならここから着地して立ち上がり、ボールのある中央にジャンプしてボールを打つ。そう考えるだろう......。

 ――だからこそ、これはチャンスだ。


 右後方の地面へ右手をついて片手で全身を支え、逆立ちのような状態に体を持ってくる。同時に右手だけでコートの中央空中、ボールの元まで体を押し上げる。


 互いを隔てる壁よりも少し上、相手を見下ろす暇も無いまま踵を用いてボールを打ち抜く。


 ある程度の力を込めて放ったボールは残像を出すまでとはいかずとも、かなりの威力を持って進んでいく。

 そして二人の反応を許さず――相手のコートへと落ちる。

 

 その後少しの沈黙が流れ、ハッとしたルルが笛を吹く。

 そして、笛の音に釣られてサラも自分が審判であることを思い出す。


「あ......。ショータチームに1点よ!」


 こうして1-1。

 初手の油断による失点は取り返せたが、まだまだ気は抜けない。


「はぁ!? なんであれに反応出来るんスか!? それにその後の高速片手ジャンプからの踵落とし、あれ何なんスか! 凄すぎるッス!」

「そうですわよね!? ていうかラキラキ!? 貴方も、なんであの速度を保ったまま直角にボールを曲げれるんですの!? 残像見えてましたわよね!?」


 分かりますわぁ、リリーナお嬢様。

 超スピードのボールはまだ分かるとしても、無減速の直角曲がり。あれマジで何? 

 魔法や魔眼の気配も無かったから、正真正銘のボール捌きだけで行われたと思うんだけど。魔法の力であってくれ......。


 一方で俺がやった事はシンプル。ラキラキのサーブの姿勢を観察しただけだ。

 各関節の角度から、全身の筋肉の弛緩具合などを一瞬で観察し、予測へと繋げる。

 やってる時は考える時間なんて無かったので改めて振り返ると、なんであそこへ飛んだのかは正直自分でも分からない。まぁ自分の感覚を信じて良かった。


「さ! 次はそっちのサーブからッスよ! ばっちこーいッス!」

 

 ラキラキに催促され、ボールを持ってサーブ位置に着く。

 ジャンプサーブではなく普通のサーブだ。俺のやりたい事は既に決まっている。

 

 先ほどの直角カーブを真似する。

 俺の技術では到底無理だが、疑似的に再現する事は可能だ。

 ボールの強度が心配だが......。まぁ、モノは試しだ。


 ボールを宙に放ると、心の中で魔法を唱える。――風魔法、それが彼女の技術を真似をするために必要な要素だ。劣化版ではあるけど。

 サーブを放つと、俺から見て右側に綺麗な弧を描いて、勢い良くボールが飛ばされていく。威力はまぁまぁ。半端なレシーブをすれば、まず受けきれないだろう。

 

 右側の弧を描いていくボール。彼女らがそこから予測できるのは、コート後方の右角。しかし実際に落ちるのは真反対。

 風魔法を二段階かける事によって直角に曲がり、コート前方の左角スレスレへと落下する。

 

 既に相手コートの中腹までボールが到達した。

 それに釣られるように、コート後方に駆け寄るラキラキ。

 かかった。

 ――と思ったが、一片の魔力反応をもう一人から感じる。


「ウィンド! ですわ!!」


 俺の風魔法が付けられたボールに対してリリーナの風魔法が重ねられる。

 それによって、ボールが直角に曲がる事は無かった。

 それどころか、勢いはそのままにこちらのコートへボールが反射されてしまった。


「お~っほっほっほ! ワタクシの目は騙されませんわよ! 貴方、風魔法を二重にかけておりましたわね!」


 リリーナは金色の長髪をたなびかせながら、余裕綽々に人差し指をこちらに指し、宣言する。


「今まではラキラキの独壇場でしたが、ここからはワタクシが! いや、ワタクシ達が相手になりますわ!」


 なるほど。俺がかけた魔法上から更に魔法を重ねがけて、相手の魔法を乗っ取ったのか......。面白い。実践においても有用そうだ。

 そう思いながらも落ち着いて脳内で反省を行う。

 

 リリーナに俺の魔法の上から風魔法を重ねられた原因は二つ。

 風魔法に集中しすぎてサーブの速度が遅かった事。

 ボールの強度を気にしすぎて風魔法を弱くかけすぎた事。

 どちらも気後れして中途半端にサーブをしたから起きたことだ。


 そう考えている間にも、ボールはリリーナによって追い返され、こちらのコートへと突っ込んでくる。ここは落ち着いてレシーブを......。

 いや、守りの思考はやめだ。


 俺はリリーナが反射したボールに対して、タイミングを合わせて飛ぶ。

 目下、ちょうど右側のエリアに二人は集中している。

 手前にはリリーナ、その奥にはラキラキ。

 選択肢は一つしかない。がら空きの左端。


 俺は振り上げた腕を左端に向けて下ろす。足運びとは違い、砂埃を気にする必要がないスパイクはある程度力を込めて放つ事が出来た。

 強烈な音と共にボールは発射され、暖かな砂浜へと落下する。

 

 ――かに思えた。

 それに反応し、飛び込んできていたのはラキラキ。

 ギリギリの所で飛び込み、ボールを打ち返す。

 しかしラキラキの腕で跳ねたボールはコートの外へと出てしまい......。


 コート中に響き渡る笛の音。


「ショータチームに1点よ!」


「がーん......! 後、少しだったッス!」

「ぐぬぬ......。次こそは点をとって見せますわ!」


 仲睦まじく悔しさを共有している様子の二人。


 これでこちらが2点先取、2-1だ。残り1点。

 そして、再びこちらのサーブからスタートだ。

 

 俺はボールを宙へと放り投げる。 先程よりも一層風魔法を強くかけた。

 これでリリーナが魔法を重ねる事は出来ない。

 代わりに直角カーブを狙わず、ボールの威力を底上げする為に風魔法をかける。

 レシーブミスを誘う方針だ。

 風をまとったボールは勢い良く、相手のコートへと飛んでいく。

 

「リリーナ頼んだッス!」

「えぇ!」


 リリーナは飛んでくるボールをレシーブし、ラキラキの方へと返そうとするが......。


「ウィンドですわ! ――ふぇ!?!?」


 強靭な風を纏ったボールに、リリーナの魔法は意味をなさない。

 彼女はとっさにボールを腕で弾いたが、魔法の影響によりあらぬ方向へと飛んでいってしまう。

 

 誰の目から見ても、このままだと落下する地点はコートの外側。

 リリーナが一度触れた為、ボールが地面に着けば失点になってしまう。

 そうなればショータの勝利で終わる。

 ――しかし、そこに現れたのは、赤色の耳と紅の尻尾を携えた悪魔少女。


「ほいッス!」


 コース外へと俊敏に飛び込み、寸での所でボールを打ち上げる。

 

「噓でしょ!?」

「勝負がついたかとおもった......」


 ボールは綺麗な放物線を描き、リリーナの元へゆっくり飛んでいく。

 軽やかな発言とは裏腹にラキラキは額に冷や汗を浮かべていた。


 ラキラキのレシーブのおかげでショータの風魔法が時間経過によって消え、ただのボールへと元通りになる。

 ゆっくりと落下してくるボールの真下では、リリーナがトスの姿勢をとっている。

 ラキラキにスパイクを打たせるつもりのようだ。

 

 しかし油断は出来ない。

 ラキラキにトスを上げると見せかけて、彼女が直接点を取りに来るという状況も十分にある。

 それにリリーナは風魔法をボールにまとわせる事が出来る。ボールに変則的な動きを組み込むかもしれない。

 俺はちょうど二人の間で、どちらが攻撃をしてきてもいいように構える。

 

「ラキラキ! ワタクシを信じなさい!」

「分かったッス!」

 

 言葉の真意は分からなかったが、思考を巡らせている内にラキラキは既に飛んでいるようだ。しかもリリーナとコートの真反対側だ。

 これでは反応が出来ても体が追い付かないかもしれない。

 途轍もないスピードで動いていながらも砂埃一つも立てていないのは、何か特別な歩行技術でも習得しているのだろうか。


 どちらにせよ中々に厄介だなと思いながら、二人の中心で構えるのは変わらない。

 さぁリリーナか、ラキラキか。どちらが点を取りに来る......。


「ウィンド!」


 リリーナは風魔法を唱え、ラキラキへとトスを行う。

 しかし、俺は既に予備動作の時点でトスを予測し、ラキラキの方へと意識を向けて身体を動かしていた。


 ――が、速い。風魔法がかけられたトスは風切り音を上げて高速でコートを横切ってく。

 このままではタイミングが合わずにコートの外へと出てしまうのではないかと思うほどボールの速度は速く......。

 しかし、その見当違いな予測は裏切られる。


 ボールが止まった。ラキラキが大地を蹴り飛ばし、跳躍したその最高到達地点に寸分も狂いも無くボールが止まる。


 特定の座標に吸い込まれるように急停止したボール。構えるのは巨大な剛腕。

 ジャンプサーブの時は遠くから見ていてもかなりの存在感を放っていた。

 だというのに、その巨大な質量から間近で見下ろされれば身に受ける威圧感は計り知れない。


「これは――獲れるッスか?」


 少女の一言と、その後に訪れる比べ物にならない程の轟音と衝撃波。

 彼女の元に間に合わず、辛うじてボールを目で追う事は出来た。

 圧倒的な力と速度に包まれたボールは、気づけば背後で爆音を鳴らし、コートの端ギリギリに落下した。

 いや、地面をえぐり取ったと言うべきだろうか......。高らかな笛の音が鳴る。


「ら、ラキラキ・リリーナチームに1点......」


 サラはそう力なく審判としての仕事を果たすと、腕を振るわせながらラキラキ達に指を向ける。


「え、あ、え......!? ルル、あれ見えた?」

「いや見えなかった。とりあえず落ち着いて?」

 

 天変地異でも起こったかのようなサラの反応に対して、落ち着いているルルはその開けられた口に飴を放り込む。すると、サラは顔を緩めて掌を頬にあてがいながら、その甘味を満足げに堪能していた。

 そんな微笑ましい二人の光景を一瞥する程度に留め、俺は次の行動を練る。

 

 これで2-2。次に点を獲った方が勝利する。

 あの巨腕による攻撃。サーブの距離からでさえ、獲るのがギリギリだった。

 しかし目で追う事は出来た。

 経験上、目で追う事が出来るものは何だろうと反応する事が出来る。


 ふと一つの思い付きが頭をよぎる。あの魔法ならピッタリかもしれない。

 そう思いながら相手側のコートを見ると、彼女らも作戦を練っているようだ。

 ラキラキがリリーナの耳に何かを囁いている。


「はぁ!? 貴方、本気で言っていますの!?」

「さっき出来たんスから、今度も出来るッスよ!」

「はぁ......。分かりましたわ。どっちにしろ、ここまで来たならやってやりますわ!」

 

 そう言いながら、ボールを持ってコートの後ろへ駆けていくリリーナ。

 なるほど。今度はリリーナがサーブか。

 何をしてくるにしても少しも気は抜けない。

 コートの中央に立ち、ラキラキを見失わない程度にリリーナを注視する。


 最初に動きを見せたのはラキラキ。

 まだサーブが始まってもいないのにコート前方に駆け出し、助走をつけて飛んだ。


「ウィンド! ですわ!」


 助走もせずにその場でボールを宙に投げ、サーブを放つ。

 その威力はラキラキの豪速球に負けず劣らず、凄まじい勢いを見せていた。

 しかし誰が見ても違和感を感じるのは、そのおかしな軌道だった。

 放たれたボールはこのままいくと、両者を隔てている壁の端の上を通過し、コートよりも外へ逸れてしまう。

 しかしそのボールの様子にラキラキ、リリーナ、どちらも落ち着いた様子で、この軌道は計算内という事だろう。

 

 そう、これはサーブと見せかけて、ラキラキに対するトス。

 本来の競技としてのビーチバレーならば絶対に挙がらない選択肢。

 彼女はそれを選択した。

 彼ならば、ショータならば、納得はしても卑怯だと糾弾する事は絶対に無いと信じていたからだ。


 ――少女は勝利を確信した。

 しかし次の瞬間、ラキラキは自分の目を疑う。

 自分が飛んでいるコートの左右反対側、一人の少年が飛んでいるのだ。

 

 おかしい。まだボールがコチラ側にあるというのに、彼はそこにボールが来ると信じているかのような眼差して、大空を見ていた。


 リリーナのサーブが来る。

 風魔法の緻密な操作によってラキラキの頭上、最高到達点にボールが到着する。

 そしてボールが停止する。

 

 迷う理由など無かった。彼はボールを構えるどころか、私と同じように飛んでいるのだから。

 ラキラキは一瞬にして、その白くて美しい細腕を暴力の化身のような見た目へと変貌させる。

 土と鉱石で形作られた巨腕。それを力の限りボールへと衝突させる。


 まるで爆発のような――否。それは爆発だった。

 それは常人には目に留まる事も無く、何が起こったかも理解することも出来ない。

 それは力と速度を伴い、易々と大量の人を屠る事が出来る、最早兵器と呼べるような領域へ立ち入っていた。

 

 今まで一番の火力。彼は反応することも返すことも出来ない。

 ボールを打ち下ろし、少女は短い落下をしながら、一回の瞬きをした。

 次に世界を見れば、私の勝利が確定している。

 

 しかし目に飛び込んできたのは、刹那もしない内に地面に着地するボールと......。

 ――そのすぐそばに佇む、一人の少年だった。


「ぇ?」


 混乱するラキラキは一瞬目を閉じて、そしてもう一度開く。

 既にボールは無く、一人の少年が立っているだけだった。

 同時に目の端でとらえたのは自分と反対側の位置で飛んでいる少年。

 

 彼が二人。

 しかし、目の前の奇妙な現象に呆気に取られる暇も無く、次の光景に驚愕する。


「こうか?」


 少年の右腕は、一瞬にして土の鉱石で作られた巨大な腕に変化する。

 何故だかそこにはボールがあり、手を振り下ろすと轟音が鳴る。

 轟音と同時に斜め後ろから爆発のような音が少女の耳に入る。

 

 訳も分からず、振り向くと驚愕する。

 背後にはクレーターのような、焼けた穴が出来ており、傍にボールが落ちている。

 虚空に手を振り下ろしていた訳では無い。

 

 そして理解する。

 原理は不明だが、私が発射したボールを反射して、再びこちらへボールを打ち込んだのだと......。


「あ、れ......? おかしいッス......?」


 突如、倦怠感と共に体のコントロールが効かなくなる。

 フラフラと全身が左右に揺れ、立っている事すらままならない。

 目を開いているのも精一杯で、先程まで美しく輝いていた太陽の煌めきが今は瞳をつんざくように眩しい。


 薄れゆく意識の中で、ふと呟いた。


「なるほど。これは......負けッスね......」


 ――温かな砂浜に身体を任せながら、少女は、一刻の眠りについた。

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