奇食ハンター『アリス』〜禁断の食材を求めて

さや

1章

プロローグ

 奇食を制する者は、すべてを制する。


 奇食――それは奇妙で常識外れな食材。食す者に超常の恩恵、あるいは災いをもたらすモノ……。


 ここに美食で溢れた帝国がある。その初代皇帝は美食だけでは飽き足らず、奇食を大変好んだことで知られている。


 彼は数多の奇食伝説を残した。


 悪魔の吐息

 一度その匂いを嗅いだ者は、どんな魔薬をも凌ぐ最高の快楽を得る。だが、一度匂いを嗅げば、永遠に吐息の中毒者となる。


 天使のラッパ

 脳がとろけるような甘美な音色を響かせる。一度聴けば、万物の理を超越する幸運を手に入れる。


 闇の果実

 月が見えない夜にのみ咲くという禁断の植物。その実を口にした者は、因果律を捻じ曲げ、己が望みを叶える力を得るが、同時に深い狂気に囚われ、決して戻ることはない。


 吸血鬼の生き血

 幾千万の人間の血を吸血したが故に、糧にした命の分だけ旨みが凝縮されている。その香りは、芳醇なワインをも思わせる。食した者が醜女の場合、女神の如き美貌が手に入る。


 アンデッドの肉

 この世にこれ以上の肉は存在しない。最高に熟成された究極の熟成肉である。肉は非常に柔らかく滴る肉汁は止まることはない。しかし、時期を見誤れば、ただの腐った肉であり、食した者もアンデッドと化す。


 人魚の脳

 口にした瞬間、濃厚な磯の香りと共に幾億の海の記憶が押し寄せる。食した者は、不老を手に入れる。


 これらは、その奇食伝説のほんの一部分である。


 そして、現在。初代皇帝没後千年が経過した中で、貴族、富豪、時の権力者達もまた、美食だけでは飽き足らず、奇食を求めていた。


 その声に応えるようにして、依頼を受け奇食を入手するハンターの出現は必然であった。


 奇食の入手には、死に直結する危険が伴い、卓越した技術と力が必要とされる。


 だからこそ、あらゆるハンターの中でも全頂点に君臨し、桁違いの報酬を得ることができた。


 人は彼等はこう呼ぶ。


『奇食ハンター』と。

 


 

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