10 豪邸探索!

「ううん、いいのだ。うれしい。誰かに『仲間』って言ってもらったの、はじめてなのだ」


 なんだか照れくさくなって、アッシュは先に歩き出す。目をまるくしていたノアも、すぐに追いついてきて、声を弾ませた。


「僕もです! 友だちはいましたけど、仲間はアッシュさんがはじめてです!」

「む。それは友だちもいなかった私に対するマウントなのだ? ノアひどいのだー」

「うええ!? 違いますよ……! そんなつもりじゃなくて、あの……っ」

「冗談なのだ」


 慌てるノアをくすくす笑って、アッシュは最初に見えた扉を開けた。

 そこはリビングとダイニングがフラットにつづく広間だった。アッシュは思わずノアと顔を見合わせる。

 孤児院と遜色そんしょくない広さの部屋は、きれいだった。埃が積もった床には、アッシュとノアだけの足跡がつている。壁も天井も、穴や誰かの手垢などは見当たらない。


「これってつまり私たちが」

「最初に踏み入れた、ってことですよね?」


 状況を噛み締めるような沈黙が流れて、数秒後。アッシュとノアはぱちんとハイタッチを交わし、互いの手を握り合った。


「未探索の家なのだー! お宝の可能性大!」

「ですねですね! うわやばい! 興奮で手汗にじんできました……!」

「早く物色するのだ!」


 リュックを放って、ふたりはさっそく探索に取りかかる。

 果たして豪邸は、アッシュとノアの期待を裏切らなかった。


「なぬ!? 戸棚にお財布があったのだ! 昔の硬貨と紙幣がたくさん入ってる!」

「やりましたねアッシュさん! 前時代のお金はその値段のまま換金できますよ! うわ!?」


 伸び過ぎて天井を這う観葉植物の向こうから、ノアが悲鳴を上げる。


「どうしたのだ!?」

「ついに銀食器を見つけました! セットで、こんなにたくさん……! グラム一〇〇〇コインだから……ああ何グラムあるんだろう! 数えきれない!」

「根こそぎ持っていくのだ! 計算は換金所がするから。あっ、これはアルバムなのだ? 写真もお金になったよね!?」

「はい。一枚一〇〇コインで聖府が引き取ってくれます。名前が書かれた遺品なら三〇〇コインですよ!」

「やったあ! 五、六……七冊あるのだ! これだけ大量にあれば、まとまったお金になるのだ!」


 アッシュはさっそく、財布とアルバムをリュックに詰め込む。戸棚にはまだまだお宝が眠っていそうだったが、もっと探索すべき場所をハタと思いついた。


「そうだ寝室! 寝室にはアクセサリーとか大事なものがよく置いてあるって、パパ言ってたのだ。ノア! 私二階見てくるのだ!」

「はい! 僕は一階を見ますので、あとで合流しましょう」


 銀のカラトリーを抱えながら、包丁に見惚れているノアを横目に、アッシュは廊下へ戻った。

 その時、耳鳴りのような高い音が鼓膜をつんざく。心臓をわし掴みにされたような緊迫感に、アッシュは動きを止めた。

 足裏に伝わる振動、重い地響き、駆け上がる高音。次の瞬間、外からけたたましい物音がして、アッシュは叫んだ。


「ノア伏せるのだ!」


 自身も頭を下げた直後、天井にパッと赤い線が走る。その線上から壁はヂリヂリと燃え出し、境目のまわぶちがゆっくりとずれていく。

 アッシュはリビング・ダイニングに駆け戻った。キッチンの床で這いつくばっているノアの腕を掴んで引き起こす。


「ア、ア、アッシュさん。今なにが……」


 強い光がアッシュとノアを照らす。陽光だ。ずれた屋根の間から降り注いでいた。

 と、その日差しを遮る巨大な影がぬっと現れる。切り口を滑り、一気に崩れた屋根から、影は全容をあらわにした。


「まずいのに見つかったのだ」


 逆三角形の細い顔。その半分を占める赤いセンサーアイ。背中のブースター二基を羽のように稼動させ、二本のブレード型前肢部を赤くたぎらせる。


「マ、マンティス!? 自立警備機兵ガーディアンがどうしてここに……!!」


 戦慄わななくノアを抱え、アッシュは断ち切られた壁から外へ駆け出す。

 ふたりを追って振り上げられたヒートブレイドは、キッチン台をプリンのように容易く焼き切った。


「たぶんあの家のセキュリティシステムがまだ生きてたのだ! 私たちの侵入を感知して、あのマンティスが向かってきたのだ!」

「そうか。だからあの家は手つかずだったんですね……!」


 ノアの言う通りだ。アッシュは内心で舌打ちする。ジルに散々注意力を養え、想像力を働かせろと言われてきたのに、すっかり失念していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る