06 父からの手紙
脅威ではないことだけは伝わり、子どもたちは大人しくはしごに向かってくれた。
幼児は抱っこが必要かとアッシュは青ざめたが、
最後にもう一度、アッシュはフォルトゥーナを振り返った。
「エアリエルさん、パパはどこに行ったのだ。知ってたら教えて欲しいのだ」
「エアリエル? どうしてあなたが、ジルの好きな人を知ってるの?」
思いがけないところから父の名前を聞いて、アッシュは女の子に目を見張った。
「なあんだ。お前がアッシュか。殴らなくてよかった」
悪びれもなくそう言って笑うのは、
赤毛を下だけ刈り上げて、上は長めに伸ばしている気取った髪型が、一層生意気に見える。
「エデン、預りものがあるでしょ。ジルから」
しっかりしているステラは、九歳の
だが、アッシュを見る桃色の目にはまだトゲがあった。
「あ、そうだった。これ……うわっ、アル! ダメだって! これはおもちゃじゃないの!」
「うーうー!」
そして最年少、好奇心旺盛なアルは二歳八ヶ月の
明るい栗色の髪、ぷっくりした手足、どこもかしこも繊細で恐ろしい。やわらかそうな白い肌なんて、なでただけで裂けるに違いない。
先ほど済ませた自己紹介を整理していたアッシュは、アルを引きずったまま近づいてきたエデンに、肩をびくつかせた。
「そ、それを遠ざけるのだ。壊してしまう前に……っ」
「なに言ってんの? はい、これ。ジルからの手紙。朝あの杖持ってきた時に、アッシュにって渡された」
差し出された手紙の端をちょびっと摘まみ、アッシュはすばやく後退する。冷ややかな目をしたエデンにアルが捕まっていることを確認してから、紙面に目を落とした。
この手紙を見ているということは、
テーブルの手紙に気づいたんだな。
その注意力は、クズ屋に大事なものだ。
忘れるなよ!
なんで孤児院に呼び出したんだ?って
思ってるだろ。
それは見てもらいたかったんだ。
エデンとステラとアルを。
そいつらはな、ギリギリまで頑張ったが
里親を見つけられなかった、
すこーしツイてないやつらなんだ。
アッシュが面倒みてやってくれ。
俺とマルは旅に出る。
自分探しという名の旅だ!
きっと長く、困難な道のりになるだろう。
心配するな。
パパとマルは必ずお前の元に帰る。
それまで子どもたちを頼んだぞ。
あ。あと俺借金あるんだわ。
ついでに返済しといて。
お前今日からクズ屋だから、楽勝だろ。
滞納すると家を差押さえられっから
気をつけろ!
まあ脅さなくたって、
子どもたち見たあとじゃ断れないだろ。
〈ブルーオーシャン〉の未来は
お前に託した!
じゃあね、アッシュちゃん。
寂しがらないでね。
愛しのパパより。
「もお遅いのだあああ!! 家も家具も刀も全部持ってかれたのだあああっ!! 六十も過ぎて自分探しの旅ってなに!? 絶対なすりつけなのだ!! 自分はちゃっかりフォルトゥーナ隠してんじゃねえのだあのぼんくらジジイイイッ!!」
長い銀髪を振り乱し、紫の目をかっ開いて吠えるアッシュは野獣だったと、子どもたちは後に語る。
ジルを見つけたら、心ゆくまで半殺しにすることを、アッシュは胸に固く誓った。
「なんで私が孤児院と子どものめんどう見ないといけないのだ……。電気代もオムツ代も知らないのだ。こっちだってそれどころじゃない!」
孤児院の電気は止められ、アルのオムツを買う金もないそうだ。エデンとステラは、ジルからアッシュがなんとかしてくれると聞いているらしく、当面の生活費を稼いでこいと送り出されてしまった。
いや、あれは追い出されたと言うほうが正しい。
「はあ……。どっちみち稼がなきゃいけないのだ。じゃないと
などと考えごとをしていたら、なにかの列に巻き込まれていた。列の先、大型エアライドから降りた車掌が「
とたん、人々は一斉に車両へ詰めかけ、アッシュも流されるままに進んだ。
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