《七章 正義と正義》
「目的を言いなさい!!」
ルナは詰め寄る。しかし老人はルナの周囲を回りながら口を開いた。
「……めんどくせぇな、嬢ちゃん。でも、嫌いじゃねぇ。いいだろう、俺たちが何者かくらいは教えてやる」
「あら、意外ね?」
「ド直球な奴は久しぶりでな。グッと来ちまった」
「私はタイプじゃないわよ。そんなのどうでもいいから、早く教えて」
組織に魂まで売ってると思ってたけど、案外そうでもないみたい。
自分の周りをウロウロする老人のうざったい動きに少しイラつきつつも、ルナは話に耳を傾けた。
「急かすなよ。俺たちは【ウロボロス】。悪魔を使って、いろんなことをしてる“正義”の組織だ」
「……“正義”? よく言えるわね、これだけ他人を巻き込んでおいて」
怒りが湧くが、ここで感情を爆発させても何も得られないため、ぐっと堪える。
「ああ、正義だ。腐った奴らを潰す、正しい行いをしてるからな」
「何が腐ってるっていうの?」
「簡単なことだ。“世界”さ。ろくでもねぇ奴が蔓延ってる今の世界は腐ってる。だから全部壊して、新しく作り直すんだよ」
あまりに極端な思想に、ルナは眉をひそめた。
確かに世界には黒い部分がある。それでも────
「────暴力じゃ何も解決しないわ。それに、そのやり方では無関係な血が流れすぎる。ただ混沌を生むだけよ」
「その混沌こそ新たな秩序だ。流れた血は、そのための”尊い犠牲”だ」
「何が“尊い犠牲”よ。私はそれを絶対に許さない」
「だからこうして戦ってんだろ。結局、意見の違いは暴力でしか決着しない。嬢ちゃんだって分かってるだろ?」
老人の言葉に、ルナの視線が揺れる。
────そう、今まで自分も力で物事を解決してきたからだ。
数々の事件を解決してきたルナだが、戦いに発生したものが殆どであり、その全てにおいてルナは拳を振るってきた。これまではそれが正義であると疑わなかったが、老人の話を聞いて信じきれなくなってしまった。
言い返そうとした言葉が、喉の奥で詰まる。
「
老人はルナの沈黙を“勝利”と受け取り、ルナの身柄を取り押さえようと肩を掴んでいた手に力を込める。
だが、次の瞬間。
「────違うわよ」
ルナは老人の手を振り払い、振り返って睨みつけた。
「あ? 何が違ぇって言うんだ?」
立ち上がってきた相手の気迫に、老人の視線が引き寄せられる。
ルナの目には、迷いがなかった。
「少なくとも私は、最初から暴力には頼らない。一度は、必ず対話で解決しようとするわ」
「それが意味ねぇって話を今言っ────」
呆れたように返す老人の言葉を、ルナが遮った。
「アンタたちみたいに、すぐ話し合いを諦めて暴力に走るような真似はしないわよ!何度も何度も話し合おうとして、失敗して、苦しんで……それでも分かり合おうとする。でも、どうしても伝わらなくて。相手が自分の意見しか認めないって分かったとき、私は、初めて力を使うのよ!」
ルナは人生の中で、一度たりとも相手の意見を聞こうとしなかったことはない。必ず相手に寄り添い、”言葉”でぶつかり合おうとしてきた。
それが、彼女が“聖女”と呼ばれる所以だった。
「理屈をいくら並べたって、結局お前も暴力で解決してるだけじゃねぇかよッ!!」
老人の言う通り、ルナの発言も暴力を肯定するものであることに違いない。しかし、ルナと老人は決して同じではない。近づこうとするものと、近づくことを諦めた者は決して交わることはない。
老人はルナを再度掴み、声を荒げた。
なおも老人は食い下がる。ルナの腕を掴み、怒鳴る。
だが、
「違うッ!」
今度はルナがその手を叩き落とし、逆に相手の肩を掴んで叫んだ。
「アンタたちは無関係な人たちを巻き込む!列車の事故、街の人々……どれだけの被害が出たと思ってるのよ!?私なんかより、アンタたちの方がずっと“悪”だわ!」
この議論は、もはや交わらぬ平行線。
互いに心の奥を曝け出しながら、それでも交わることはない。
「結局、テメェも暴力を肯定する奴には変わりねぇ────」
「私は、自分を“正義”だなんて思ってない!でも、私を信じてくれる人を、皆に嫌われるような私に絶対したくないのよ!」
「……何言ってんのか、さっぱりわかんねぇな」
老人がぽつりと一言だけ呟く。
「私も同じこと、アンタに思ってるわよ」
互いに理解し合えない。だが、それでいい。
「「────じゃあ」
「勝ったほうが、“正義”ね」
「勝ったほうが、“正義”だな」
正しさは相対的。だからこそ、信じる“正義”をかけて人は戦う。
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