第44話 魔力測定

自分についての話はもうやめておきたい。


話題を変えるように質問してみる。


「汗をかいたな。清発室はあるのか?」


「ああ、そうだな。案内しよう 」


連れだって歩いて行くと修練場のすぐ近くに清発室があった。内部は仕切りで細かく区切られていてシャワールームのようにも見えるがシャワーヘッドが無く、床から天井まで隙間すきま無く区切られていてドアを閉めると完全に隔離かくりされるような作りだ。


更衣室のようなものは無く中で脱ぐのかと思ったがどうやらここでは服を着たまま清発を行うようだ。


清発を行うとやはりさっぱりするな。できれば服を脱いで行いたかったが。


二人とも清発を終えてギルドのロビーにやってくる。


「今日の予定はこれで終わりなんだが予定より早く終わっちまったんでな。もう終わりでいいんだがなんか気になることとかあるか?」


「そうだな、、、。ああ、前から気になっていたんだが自身の魔力を測る方法とかってないだろうか?」


ウサギ指数の代わりになるものがあるなら知りたいところだ。この世界が魔力や魔石についてどの程度研究しているのか知っておきたい。


まあ、研究機関ではない狩猟ギルドでは十分な情報は得られないとは思う。しかし、なんらかの情報は手には入るかも。そんな期待を込めて聞いてみた。


「ああ~、それか。ない、、、こともない、、、な 」


なんか歯切れが悪いな。有ることは有るがおすすめは出来ない、と言ったところか。


「別に性能に期待はしていないから有るなら見せてもらっていいか?」


「まあ、そう言うなら別にかまわないか。今持ってくるから待っていてくれ 」


そう言うとオードさんはどこかに行ってしまう。しばらく待っていると戻ってくるがその両手には大事そうに大きめの長方形の木箱が抱えられている。


ロビーにある書類に記入するための机のところに行き持っていた木箱を立てるように設置する。設置面はL字になるように木の板が飛び出しており安定するようになっている。細長い四角柱が立っているような見た目だが安定はしているようだ。


近くによって外観を確認すると四角柱の前面はおおっている木が無く、その中にガラス管のようなものが立っている。設置面のこちらに伸びている部分の上には金属の厚い板が取り付けられている。


見た目は小さなパンチングマシーンのようにも見える。木の風合いを見るにかなり古いもののように思える。


「これが魔力圧測定器だ。今はほとんど使われていない。その理由は後で説明しよう。まずは測定してみるか 」


最初はオードさんが見本を見せてくれるようだ。金属の板の上に手を乗せてそこに魔力を流し込んでいく。ある程度流し込むとガラス管の中に下から銀色の液体が上がってくる。最初は順調に上がってくるが徐々に勢いが弱くなっていく。


「ぬぅっ 」


そこからオードさんは魔力を上げて金属板の上に乗せた手に魔力を更に集めていく。表情が苦しそうにゆがむ。銀色の液体は少し勢いを取り戻し上がっていく。


昔の血圧計とか水銀柱温度計みたいだな


そんなことを思っていると液体は再び勢いを減衰げんすいさせてとうとう動かなくなる。安定して動かなくなるとそこの目盛りを読んだのだろう。魔力を込めるのをやめる。


すると液体は徐々に重力に引かれるように下がっていく。見えなくなるまで下がったのを確認するとこちらに振り返って説明を始める。


「今のでだいたい13デントだな。こんな感じで金属板に手を乗せて魔力を込めることで計測するんだ。銀柱がこれ以上、上がらないところで安定したら5秒ぐらい維持する。維持できたところの目盛りが最大魔力圧ってことになる。やってみてくれ 」


「ああ。やってみよう 」


うながされて測定器の前に出る。金属板の上に右手の平をのせると魔力を恐る恐る込めてみる。


結構通りにくいな。この感じは魔鉄か


高額硬貨に使用されている魔鉄と手触りが似ている気がする。意外と魔力が通りにくいんだなと思いながら込める魔力を上げていくと銀柱が徐々にせり上がってきた。


ぐんぐんと上昇していく銀色の液体を見ているともっと速く上昇させてやろうかという気が起きる。


「ふんっ!」


気合いを入れて魔力を込める。それに応じるように速度を増して銀柱は上がっていく。


そのまま上がっていけ!


更に気合いを入れて魔力を込めるがそれとは裏腹に勢いは途中で弱くなっていった。意地になってもっと勢いを付けようとするが反応はよろしくない。とうとう止まってしまった。


止まった位置を維持するのもなかなか大変だ。気を抜くと下がっていくような感覚がある。


5秒も意外と長いもんだな


5秒間、最大圧力を維持するのは思いのほか大変だった。指先がしびれるような感覚があり途中でやめたくなる気持ちがでてきた。なんとか維持できたがこれがすたれた一因いちいんなんじゃないだろうか。


「13.6デントぐらいだな 」


内心を出さないように読んだ目盛りを伝える。コアの力を同時に使えばもっといけたと思うが今回は魔石だけで行った。あり得ない動きをしたら不審がられるからな。


「そうやって読んだ数値をグラフに当てはめて魔力量に換算かんさんするんだ 」


オードさんは箱の部分に挟まっていた紙を取りだすとそれを机の上に広げる。そこには縦軸に魔力量、横軸に魔力圧を取ったと思われる座標軸があった。右肩上がりに上昇していく指数関数のような曲線がかれていてこれを使うらしい。


「俺が7500ベルでお前が9800ベルか。あまり実感はわかない数字だと思うがかなり高い方だ 」


「今はあまり使用されないんだったか 」


「そうだ。開発者が言うには魔力圧と最大魔力には一定の関係性があるってことだが例外はいくつも存在する。魔力量は少ないが魔力圧が高いって場合とかな。5秒以上維持するのはそれが理由だ。魔力量が少ないと圧を維持し続けるのは難しい。逆に魔力量は大きいが圧が出ないって場合もある。その場合は訓練で圧が出るようになることも多い。それだからあまり当てにならない部分があるってことだ 」


なるほどな。測定方式に問題が有ると言うことか。俺も心当たりはある。難しいよな。


「そして、一番大きな問題だが測定がどれだけ正しく行われたとしても狩人としてはあまり参考にならないってことだ 」


「それはどういうことだろうか?」


「狩人にとって大事なのは実際に戦ってみて強いかどうかってことだ。魔力の絶対量が必ずしも強さに繋がらないってことだな、問題は 」


「そうなのか?」


「ああ。どれだけ戦闘で魔力を使ってきたのかがひとつの要因になる。同じ魔力量の持ち主でも実戦の経験が無い人間とずっと最前線で戦ってきた人間とじゃ相手にならないほど開きがある。肉体的な戦闘技術の差だけでなく魔力の使い方も根本的に異なるからな。工業的に魔力を使う技師の魔術と狩人や騎士の使う魔術は同じ系統でもかなり違ったものになるしな。相当魔力量に差が無い限り戦闘術の差を覆すことは難しいな。そもそも魔物と戦うことが魔力量を増やすための最も効率のいいやり方の一つでもあるから戦闘術に差がないならそこまで魔力量に差が出る状況は考えにくい 」


「結局は自分の魔力量を知るより実際に魔物と戦って自分の強さを確認した方が確実と言うことか 」


「そうだな。使える魔術の系統や性質によって得意とする相手も違ってくる。体術や魔術以外にも知識や装備によって結果が変わるときもある。単純に強ければ勝てるってわけじゃない。狩人の目的は獲物を安全確実に価値を保って狩ることであって勝てればいいってわけでもない。物差しはいくらでもあるからな。魔力ばかりにこだわってもしょうがない。まあ、魔力を伸ばすのは強くなる確実な道の一つではあるがな。」


まあ、強くなるのはコアの性能を引き出して出来ることを増やすための一つの手段だ。金を稼いで金属、主に鉄を購入するためでもある。目的はロボットを作ることだ。


仕事にする以上真剣に取り組まなければならないが現状だいぶそこにのめり込みつつあるように思う。寄り道が多い。道のりはなかなかに遠いな。狩人の仕事も楽しそうではあるけれど。


「魔力量のベルって単位は今は使うことはないと思うがデントは使うことがあるかもしれないな。俺も単位については詳しくは知らないが魔鉄に対してどのぐらい魔力を通せるかの指標になっている。魔鉄製の武器の性能評価になっていたりもするな 」


単位の設定に魔鉄の性質を使っているってことか。測定器も魔鉄を使っているしな。


「もういいか? 昼飯には少し早いが早いほうが店も混んでなくていいだろう 」


もうそんな時間か。


「ほかに聞くこともないな。ありがとう。勉強になった 」


「おう。それじゃあな 」


そういうとオードさんは計測器を持って戻っていく。俺は昼食を取るためにギルドを出て地下軌道の駅に向かった。昼食を取った後は王都を散策して回り、情報を集めて帰路についた。

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