第4話

ウサギ狩りから数日間、周辺の探索を進めている。ネズミやウサギなどの小動物は数匹狩ることに成功した。どれも好戦的でこちらを発見すると向こうから襲いかかってきた。


魔物ってそういうものなのか?


亜空間に収納して分析してみるとどれも魔石を持っていた。


この世界の生き物はすべて魔石を保有しているのか?、、、結論を急ぎすぎか?


魔石を分析して新たにわかったこともあった。魔石は心臓に付着していて赤い色をしているらしい。それが何を意味するのかはわからないが。そして、大きい生き物ほど魔石も大きく内包する魔力も大きいようだ。獲得した魔石は結局ストックせずに分解して吸収してしまった。しかし、おもわぬ収穫があった。魔石の魔力を吸収すると魔力が回復するだけでなく上限値が上がるようだ。


魔力最大値 452


感触的には機能が強化されたというよりか制限されていたものが解放されたような印象だ。最初から無制限でお願いしたいところだが、、、。また、戦闘技術面でも収穫があった。攻撃や防御、移動の瞬間だけ局所的に魔力を込めて消耗を減らすことが可能になった。よくよく考えてみれば最初の戦闘でもウサギはこの技術を使っていたと思う。ごり押しで勝てたのは幸運だったか。当たり前のように魔力を使用して生きているものはしたたかだな。なんにせよもともとの魔力量ではこちらが上だったので戦闘技術が身につけば楽に戦えるようにはなる。


そして、俺はさらに戦闘を有利に進めるために試行錯誤を行った。その末に一つの考えが浮かんだ。結晶体の視覚から魔力を見ることができるが俺はそれを魔力視と名付けた。それを応用して相手の最大魔力なんかを計測できないかと考えた。まだ実用できるものじゃないが可能性を感じている。


戦闘技術が向上すれば探索も進めやすくなるだろう。できるだけ早く金属素材を求めて探索を開始したい。鉱山という言葉があるくらいだから山に行けばひょっとする金属があるのではと思う。とりあえず山を探してみようと思う。


土製の体、首の部分を細長く上に伸ばして足りない分はストレージから土を足す。そうして頭部を樹冠から上にだす。周りを見回すとそう遠くない場所に山が見えた。山脈ではなく単独の山が一帯にぽつぽつとある。一番近い山に焦点を当てどのくらいの距離かなんとかわからないものかと凝視しているとコアの機能が働いたのかふと5キロメートルほどかと思った。山の方向を記憶して伸ばした首を縮める。山を目指して森の中を進んでいく。


この森は広葉樹がある程度の間隔で生えていて、膝くらいまでの草がそこかしこに茂っているという具合で歩きづらくはない。そこまで迂回せずにある程度真っ直ぐに山に向かっていると思うのだが木が邪魔で視線が通らない。時折首を伸ばして確認するのだが進行が大分遅くなってしまった。出発は日が傾き始めた頃だったが半分もいかないうちにあたりが暗くなってきた。魔力残量を確認してみる。


現在魔力/最大魔力 276/452


半分より少し多いくらいか。ウサギぐらいなら数匹同時でも問題ないがここは慎重にいこう。魔力回復のために休憩をはさむ。木の根元に腰掛け広い視野を活用して周囲を警戒する。


回復を待っている間は手持ち無沙汰になるので視界を可視光から魔力視に変えたり、倍率を上げたり下げたりしていると静かすぎて木々の枝葉がこすれる音が気になってきた。今更ながら音が聞こえていることに違和感を覚える。


俺の本体である結晶体は空気の振動まで検知することができるのだろうか?


聴覚に神経を集中すると音の感度も調節できることがわかった。指向性も調整できるようで音を聞きたい方向に意識を向けるとその方向の音がより精細に聞き取れる。そこで今度は赤外線を捉えられないかと思い暗視スコープをイメージしてみる。


おお! うまくいった!


モノクロだが輪郭が鮮明な視界が得られた。サーモカメラをイメージすると温度の違いもわかるようになる。どうやら俺のコアは光や音などの波動をとらえることができる機能があるようだ。なぜもっと早くに目や耳がないのに見えたり聞こえたりすることに疑問をもたなかったのか。前の肉体の感覚を引きずっているからだと思う。結晶体の性能を引き出すには人間だった頃の感覚は邪魔になるのだろうか?しかし、人間性を捨てていくとなんのために生きているのかわからなくなりそうだ。


あたりはすっかり暗くなっている。視界を可視光から赤外線に切り替え周囲を確認しているが音で確認する方がより広範囲をカバーできると思い。視覚を閉じて聴覚のみに集中する。


遠くの方で犬の遠吠えらしきものが聞こえた。この世界にもイヌ科の動物がいるんだ~などとのんきに考えていた。


あれ? 足音が近づいてきてないか?


遠吠えからしばらくたつとかすかに足音のような音が聞こえてきた。それは少しずつ大きくなってくる。、、、通り過ぎるだけだよな。しかし、音はさらに近くなってくる。近づくにつれ詳細がはっきりしてくる。四つ足の動物が駆けている音のようだ。それが4つ。明らかにこちらを目標に向かってきている。


なぜだ? どうやってこちらを把握している?


考えていてもしょうがないので戦闘準備だ。魔力は最大値まで回復している。行動の合間合間で準備していた素材をストレージから出して体に仕込む。


木を背にして到着を待つ。それらはこちらを囲むようにゆっくりと近づいてきた。赤外線のモノクロの視野でも明らかに狼とわかるような地球の狼とたいして違いのない姿をしている。正面付近の2匹が大きめで、左右に1匹ずついる個体がそれよりも少し小さい。


親子か?


大きさは体高1メートル、体長1.2メートルぐらいか。ぐるるるrrとうなり声を上げこちらを威嚇してくる。いきなり襲いかかってこないあたりウサギより知性を感じる。


こちらは両手を少し前に出し腰だめにかまえる。しばらくにらみ合っているとこちらからは動かないと判断したのか4匹が一斉に動き出す。左右の2匹が先行し俺の真横に来ると全身が一瞬淡く光を発し同じタイミングで跳躍してくる。


足のふくらはぎあたりを魔力を込めた光を放つ牙で噛みついてくる。俺はかまれる瞬間にその部分に魔力を込め対抗する。噛みつかれた瞬間には正面の2匹は目の前に迫っていた。一匹は腹部に、もう一匹は頭のコアを狙って飛びかかってくる。


腹部に向かってくる個体は左腕を噛みつかせて防御することにする。俺は右腕の中に仕込んだセルロースを固めた杭に魔力を一気に込める。口を開けて顔面めがけて迫ってくる狼をスローモーションのように見る。


その口をつかむように右手の平を突き出した瞬間、前腕部に魔力を込めて杭を射出する。手のひらを突き破るように飛び出した杭は狼の喉奥に突き刺さりそのまま小脳を破壊し後頭部から飛び出した。間を置かずセルロース杭をパージ、指から虎や熊を思わせる鋭い鉤爪を生やし左腕に噛みついている狼の腹に先端を突き立て一気に引き裂く。血しぶきを上げ腸が飛び出してくる。たまらず口をゆるめ後退する。足に噛みついていた狼もそれに併せてすぐさま距離をとる。


地面に落ちている木の枝をコツコツと集めそれを亜空間で分解してセルロースを集め、圧縮し固めた杭。ウサギの爪や毛のケラチン質を固めた鉤爪。用意していた必殺の武器で2匹戦闘不能にできたか。


少し得意になった俺は以前から考えていた敵の魔力量測定を試みる。魔石は魔力を内包しているがそれを外から測定することはできない。ならば攻撃時に魔力を使うなどして表面に現れた魔力の強弱から推定できないかと考えていた。平常時と噛みつくときの魔力を魔力視で観察して適当に作り出した式に当てはめコアの演算能力で計算する。


結果がこちら、

腹を割いたやつ 941

左のやつ    798

右のやつ    259


、、、。多分だいぶ違う。これじゃないな。やはり難しいのか。


魔力視で観察していると爪で腹を裂いてやった狼の体が赤く光り出した。飛び出た腸が体内に戻り裂けた皮がつながっていく。


えっ! なにそれ?


あっけにとられていると再び連携して襲いかかってきた。今度は左右の2匹が正面から同時に首をめがけ襲いかかってくる。とっさに両腕をあげる。かろうじて前腕をかませてガードしたが二匹の陰に隠れてもう一匹が見えない。すると突然二匹の間に割り込むようにもう一匹が出現し押し倒される。目の前に狼の牙がせまる。


まずい!


俺は視界がなくなるのもかまわずに急いでコアを後頭部側に寄せる。狼の牙がもとあった顔面部分を噛みちぎるのを感じながら右膝からカルシウムを固めた牙を出して狼の胸を肋骨のしたからえぐるように必死に膝蹴りをかます。牙は心臓あたりまで届いたようだ。


さらに2匹に噛まれている箇所から魔力を込めたセルロースの棘を何本も突き出す。口内を突き刺された狼は俺から離れる。そのすきに力をなくして俺の体の上に倒れ込んだ狼の死体を左の狼に投げつけつつ、コアを前面に戻しながら右膝の牙を右手にとりナイフのように持つ。


この牙はウサギの歯や骨からカルシウムを精製して構築し直したものだ。理由はわからないがセルロースより魔力を通しやすかった。今後の主力になりそうだ。右の狼は口腔内の傷を癒やすために先ほど見たように魔力を放出し始める。さっきの狼より明らかに回復が遅い。


チャンス!


その隙を逃さないように魔力を足に込め一瞬で目前まで迫り心臓めがけ魔力の輝きを帯びた牙を突き立てる。後ろでは体勢を立て直した狼が傷を回復し終わっていた。最後の一匹となった個体は戦意を喪失するどころか仲間の敵と言わんばかりに敵意をむき出しにする。


ちっ。この状況でも引かないのかよ。


心の中で悪態をつきつつ牙のナイフを構え直して向き合う。魔力残量は150程。魔力切れにならない程度に残量を調節して余剰分を一度に使い切ると決める。今回の戦闘において最速のスピードで接敵する。その動きについてこれなかった最後の一匹は驚いたような表情をみせて絶命した。


4匹の狼の死体を亜空間にしまいこみ離れた場所に移動する。自分には遠くからでも敵に発見されやすい何かがあるのではないかと思い始めた俺は土をストレージにしまう要領で地面に穴を開ける。穴の上で体の構成を解きコアを穴の中に入れる。地面をならして穴を塞ぐ。これで魔力放出を抑えれば敵に見つからないはず。体を維持をする魔力を必要としない分、回復量も稼げる。


安全を確保し、とりあえず狼の魔石を分析する。色は赤。大きさはウサギより大きい。


魔力量は以下の通り。

現存魔力/最大魔力

304/356

168/325

184/274

152/259


やはり魔力量鑑定の結果は当てにならなかった。数字がだいぶ違う。数字が違うと言えば個体差がかなりあるように思える。魔石を亜空間で分析すれば最大魔力量がわかってその生物種のおおよその魔力量がわかるかとも思ったがそれも難しいようだ。それぞれの成長段階にあわせていくつものサンプルを集めれば鑑定精度を上げることができるだろうがその時点ではもう鑑定するまでもなく強さがわかっている。未知のものを計測できるようにしなければ意味がない。俺はいったん鑑定については諦めることにした。


こちらが強ければ問題はない。そんな負け惜しみとも脳筋ともとれる思考になり魔石の分解吸収の作業に移る。分解して魔力を吸収する。ストックして戦闘中の回復手段にする案は不採用にした。今は強くなることが最優先。それに戦闘中に魔石の分解吸収ができる暇があるとは考えられない。


現在魔力量/最大魔力量 634/935


だいぶ最大魔力量が上昇した。これでとれる戦略が増えるというものだ。吸収した魔力量より現在魔力量が少ないのはなぜだろう?魔力量を増やすときになにかしらで消費したか?それとも吸収効率とかもあるのだろうか?考えてもわからないので記憶にとどめて次にいこう。


戦闘ではセルロースの杭や棘、ケラチン質の鉤爪、カルシウム性の牙を武器として使用した。どれも一定の効果はあったと思う。しかし、素材の特性を比較するとセルロースは魔力効率があまりよろしくないようだ。魔力を通すときに抵抗のようなものを強く感じる。一番魔力効率がよかったのがカルシウムだった。セルロースにおいては構造の工夫による効率化は見込めるのかもしれないが狼4匹分の素材が手に入ったことでカルシウムのストックに余裕はある。


俺は狼の骨を使って前世の自分の体をイメージして亜空間の中に人型の骨格を作り出した。頭蓋骨は中央にコアの部分が収まる穴があるだけ。コアへの攻撃を頭蓋内に逃げることで躱し、骨で防御する算段だ。


骨と骨の間はコラーゲンから作り出した腱でつなぐ。コラーゲンが腐敗しないか心配なところがあるが、古代では動物の腱を服の縫い糸に使っていたこともあるらしい。動くときは魔力を通すのである程度は持ってくれると思う。


骨格の周りは土で肉付けし、その土にセルロースの繊維を練り込む。魔力を込めなくても形が保たれるようになった。


土に魔力を込めて成形して魔力で動かすより維持費が安くなるし動作効率も出力も上がる。その代わり柔軟性が低下して可動範囲が狭まったり腕を鞭のように使うとか変則的な戦いはできなくなるし、破損したときの修復は難しくなるのだが。まあ、どのみち土の体では魔力効率が悪すぎるな。


人間だった頃の意識のせいか人型により近い方が維持や動作に対して高効率を得られるようだ。人間とのコミュニケーションに備えて人体に近い体を製造したいという思いもある。道は険しいが。現時点ではこれが最良だと思う。


次に武器の作成に入る。やはりメインの武器はカルシウムで作る。なるべくリーチを長くとれる槍を作りたいが素材の残量を考えて剣にする。切ることと突くことに特化した刀の形状を模した剣だ。亜空間から取り出せば鞘はいらない。


相手は動物を想定してつばぜり合いにはならないので鍔はつけない。刀身50センチメートルほどの白亜の直刀が完成した。サブウエポンは爪にする。刀を持つ関係から大きさは小さくして両手足の指先に装着する。さらに肘と膝に角のような爪のような形状の突起を装着する。組み合いになったときに効果を発揮しそうだ。


体を作り終わったのでとにかくじっとして魔力量の回復に努める。その間に今後どうするかを確認しておこう。狼との戦闘でこの後どうするか忘れていた。、、、一番近くの山に行って金属鉱石がないか調査するんだったか。今はそれだけか。山まであと2キロメートルといったところか。途中でなにかに襲われなければ40分程度の行程でいけると思う。俺はじっと息を潜めて時が来るのを待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る