第15話 1ー15 話題の人と体育祭

 月曜日、普段通り東斗高校に登校したのだが、教室に入ってすぐに同じクラスの野郎ども五人ほどに囲まれた。

 かなり敵意が見られるんだが、なんのこっちゃ?


 中の一人、斉藤浩二が言った。


「お前、日曜日に小林梓とカラオケに行ったんだってな。

 何時から付き合っているんだ?」


「なんでお前がそんなこと知ってるんだ?

 それに俺と小林さんの付き合いを一々お前に報告する義務は無かろうが?」


「馬鹿言え。

 梓ちゃんは、俺ら一年男子のマドンナなんだぞ。

 ただでさえ、クラスの中でお前が梓ちゃんと親しくしているのを見て頭に来ていた奴がどれほどいたことか、お前は知ってるのか?

 それを二人っきりで、しかもカラオケでデートなんて、お前は俺たち1年男子の敵に回ったも同然だ。

 このまま無事で済むなんて思うなよ。」


 周りにいる数人の男どもがうんうんと頷いてやがる。


「何を馬鹿な事をほざいている。

 仲良くなりたかったら、話しかけてみろよ。

 小林さんが拒まないなら俺は構わんが、ストーカーは止めろよな。

 それと交際を断られたらすっぱり諦めろ。

 それが男ってもんだ。」


「こンの野郎、自信満々に言いやがって・・・。

 そんなに自信があるのか?」


「自信?

 そんなものは無いな。

 だが、俺は小林さんを好いているし、彼女も俺を好いていてくれていると思っている。

 その中に別の友達が入ってきても何ら支障はない。

 そういうことだ。」


 俺はそう言い切って、周りのやつらを言い負かした。


 次いで梓ちゃんが教室に入ってきて、今度は女の子数人が梓ちゃんを取り囲む。

 で、同じようなやり取りがあって、俺が梓ちゃんを好いていると言ってるけれど、あんたはどうなのと聞かれて、梓ちゃん、はっきりと言ったね。


「私も英一郎さんのことが好きですよ。

 だからきちんとお付き合いしています。」


 この言葉で俺と梓が付き合っていることがクラス中に公言された。

 斉藤たちからは歯ぎしりが聞こえそうな雰囲気なんだが、同級生たちは半ば呆れながらも二人の付き合いを認めるしかなかったようだ。


 この騒ぎの所為で、事故の救助の一件は騒がれなかったんだが、朝一番のホームルームで担任がわざわざ話題を提供してしまいやがった。


「ところで、秦山。

 日曜日に人助けをしたらしいな。

 親子の一家四人を助けるという新聞に載るほどの善行を施したのは、東斗高校生徒全体の評判にもつながる。

 よくやった。

 校長も誉めていたので一応知らせておく。

 場合により、警察あたりから表彰があるかもしれんぞ。」


 俺は目立ちたくないのに、この一言で俺を見るみんなの目が変わったよ。

 変わらないのは梓ちゃんだけ、にこにこしながら俺を眺めている。


 ◇◇◇◇ 


 6月18日土曜日、今日は東斗高校の体育祭が県営施設のマヌア・ドゥ・シャトーで開催される。

 ここは全国的にも10か所しかない一周400mのトラックを内包した屋内陸上競技場なんだ。


 9コース400mの走路は、全天候型の樹脂製だから、専用スパイクでも行けるんだが、高校生の体育祭では普通の運動シューズだな。

 スパイクシューズは、生徒個人で購入させるには高価すぎるし、こうした樹脂を使った陸上競技場のトラックでしか使えないから、陸上競技部員ならともかく、他の生徒には無駄に過ぎるんだ。


 フィールドには、走り幅跳び、走高跳、棒高跳び、投擲とうてき競技の場所も揃っているんだが、ウチの体育祭でフィールドを使うのは、待機場所と例のマスゲーム、それに名物競技の『四陣玉入れ』と『四面サッカー』だけだな。

 体育祭のメインは、走路を使って行われるさまざまな競技になるんだ。


 体育祭では、全校生徒が参加する色分け対抗と、学年別クラス対抗との複合形式になっており、百メートル、二百メートルの徒競走、400mの障害レース、5000m耐久レースなどがある。

 俺たちはクラス別での得点と、もう一つ全学年での色分け別の得点を競い合うことになる。


 因みに色分けは、無作為抽選により三学年を縦断的に分けて白、赤、青、黄色の四色に分けられている。

 俺は青組で、小林梓は白組の所属になっていた。


 前述したようにフィールドを使って行われる女子の四陣玉入れ競技、フィールドとトラック双方を使って行われる男子の四面サッカーは、クラス別対抗戦になっており、各学年ごとに行われるのが東斗高校の伝統になっているらしい。

 玉入れ競技は、底抜け状態の高さが3mの位置にあるかごにソフトボール大の軟式手毬てまりを放り込むだけなんだが、籠に入れた手毬はその籠の下部にあるサークルに溜まる。


 この敵方の陣にある手毬を自由に取り出して自陣の籠に放り込めばいいんだが、間違って自分の陣にある手毬を放り込むと減点になる。

 因みに自分達の得点になった場合は、手毬についているLEDの色分けでわかるようになっているんだ。


 つまりは相手の得点から取り出した手毬で自分の得点にするという無限の競争だ。

 手毬に触れても構わないんだが、相手の身体に触れて邪魔したりするのは反則になる。


 このために審判の人数が凄く多いのが特徴だな。

 20分間の戦いで点灯しているLEDの色がそのまま得点になり、得点の多かったチームの勝利となるんだが、これも四チーム同時に対戦するんでかなりの混戦模様となる。


 一方の男子サッカーは競技場の中で造られた120m四方の四隅に設置されたゴールにサッカーボールを蹴り込む競技なんだが、実は競技場の中にあるボールの数が全部で8個も有る。

 合図のホイッスルと共に、それぞれのチームが中央付近で自分たちのしま(クラスごとに異なる縞、例えば三組ならば三本縞の白色)のついた二個のサッカーボールを蹴ることから競技が始まるんだが、クラスの男子22名が参加するんで広い競技場ではあるんだが、88名が入り乱れて大変な状況になる。


 この競技で得点になるのは、自分のクラスの縞が付いた二個のボールだけであり、他のクラスの縞が付いたボールを蹴り込んでも点数にはならない。

 但し、オウンゴールならぬ自殺点はある。


 間違って敵方の色のボールを自陣のゴールに蹴り込むと、その敵方の得点になってしまうんだ。

 点数は、自陣色のボールを自陣以外の何処のゴールにでも良いから蹴り込んだ数で決まる。


 この試合は、審判がどのクラスの者か区別がつかないと困る。

 従って、選手は全員縞々のついた帽子をかぶっているし、上着にはクラスの番号のゼッケン番号が付けられている。


 このゲームでは、下手をすると敵方の6つのボールが同時に自陣を襲うこともあるからキーパーは大変だ。

 因みにゴールキーパーは二人まで配置できる。


 概ね、作戦としては自陣を守る勢力と敵方の陣を責める勢力に二分して競技を進行させることになる。

 チーム全員を守りに徹しても差し支えないんだが、この場合には得点は得られないから絶対に1位にはなれない。


 概ね普通のサッカーとほぼ同じルールが適用されるが、スローイン、コーナーキック、ゴールキック、それにペナルティキックは適用されない。

 大事なルールとして危険行為があった場合は、審判の判断で失点が課されることがある。


 この場合は、一度に他の敵陣営への加点になってしまうので、1失点じゃなく3失点になる。

 従って故意に人を蹴るとか、腕や衣服を引っ張って相手の動きを邪魔するとかの危険行為はしないことになっているんだ。


 ゴールに関しては、玉入れと同様に、サッカーボールに取り付けられたICにより得点の有無がすぐに表示される仕組みになっている。

 これがはまると結構面白く、見ている方もかなり面白いようだ。


 何しろ少なくとも120m四方の域内で8つのボールを巡っての攻防が続くから見ていて飽きが来ない。

 因みに自陣のボール以外は、連続して蹴られないというルールが有るので、パスはできても敵方のボールをいつまでも保持しておけない。


 このために、ボールの取り合いが至る所で常時続くことになる。

 120m四方領域の周囲はネットで覆われているので、原則的に場外にボールが出ることは無い。


 高さが6mもあるタッチライン(四方にゴールがあるためにエンドラインとタッチラインの区別がない)のネットを超えた場合は、殆どノータイムで審判が近場にボールを放り込むことになっており、選手によるスローインは一切無い。

 また、エンドライン(四方にゴールがあるためにエンドラインとタッチラインの区別がない)を割った場合も同様で、その場でボールが投げ込まれるから、ゴールキックもコーナーキックも無いんだ。


 ゲームの開始時及び点数が入った場合には、審判の手によりボール・キャノンでグランドの真ん中近辺にボールが打ち出されて開始され若しくは続きが始まることになる。

 従って、最初は真ん中付近にボールが集中するけれど、とにかくゴール近辺での混戦模様が続くのがこの競技の特徴であり醍醐味の様だ。


 15分ハーフで10分間の休憩を挟み、前半戦と後半戦の合計得点の多いチームが勝利するが、同点の場合はサドンデスのPK戦になる。

 この体育祭での俺の出場は、四麺サッカー以外では、全員出場の100m徒競走と男子400m障害競走、それに5000mの耐久レースとクラス対抗男女混合リレーがあり、幸いにして色分け別リレーからは逃れられた。


 事前に学校のグランド等でクラスの予選会があったんだが、多少の手抜きはしたもののできるだけ二番手に徹したからクラスで二番目に早い奴と認定されて、5000m走とリレーに出される羽目になった。

 他にも応援合戦だのマスゲームだのも有るんだが、そちらはまぁ、同級生に合わせるだけだな。


 男女混合リレーは200mずつを男女各10名ずつで交互に走ってバトンをつなぐもので、多少の差が有っても挽回できるところが結構面白いと言える。

 逆に速い者が揃っていたりすると、とんでもなく差がついてしまうこともあるようだ。


 何せ総延長で4000mの長丁場だ。

 四面サッカーの場合、1チーム22名が原則であり、俺のクラスの男子は総勢で22名しかいないから、四面サッカーには絶対参加しなければならないんだ。


 ウチのクラスは、入学当初は男子が23名いたんだが、例の不良グループ7名が一斉に転校したことで、クラスの編成替えを余儀なくされ、途中でウチの一名が2組に移動したんだ。

 まぁ、他のクラスでも似た様な状況が有って、本来は予備を入れて23名1チームだったものが22名になってしまったわけだ。


 ルールを変えて21名編成で実施する案も出たようだが、病気や怪我人等の発生で人員が減らない限り、例年通り22名1チームで実施することになったらしい。

 まぁ、クラスの名誉のためにもサボるわけにも行かないよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る