第7話 1-7 山中での検証

 『剣術』は、振り回すだけじゃなく、足で踏み込む動作が一緒について回る。

 相手の打ち込みに対して受ける場合にも、足捌あしさばきが重要らしい。


 そうして足捌きという奴は、柔道や空手などの格闘技にも相通じるものがあるらしい。

 俺は仮想の敵をイメージし、それに対する打ち込み、あるいは相手が打ち込んできた時にハスに受けて力を分散させるような練習をゆっくりと繰り返す。


 ある意味でそんな一人芝居をしながらの稽古けいこだった。

 1時間を『剣術』の稽古に、更に1時間を『棒術』の稽古に費やして、お昼にした。


 わずかに一時間程度の稽古だけで『剣術』と『棒術』がそれぞれLv1からLv2にアップしていた。

 おそらくは最初だからアップ率も早いのだろうけれど、『剣術』も『棒術』も汗が噴き出るほど懸命にやったからね。


 その努力の成果と思いたいね。

 午後は、『採掘』を検証してみる。


 『採掘』とは言いながら、単に土を掘ればいいというものでもないだろう。

 有用な金属なり元素なりの採取を目標にする必要がある。


 そこで『鑑定』の出番だ。

 『鑑定』Lv2でどれぐらいまでわかるかだな。


 お昼の休憩の後、練習場所付近の地面の『鑑定』をやってみた。

 見たまんまの『鑑定』では、表層の石ころ、砂、泥、木くず、雑草、虫などが次々に脳内で選別されるが、家でやった時のような項目が一々ついて回るので情報量が多い。


 少なくとも製作年月日まがいの生成年月日や製作者名代わりの生成先なんぞは当座要らないかな。

 色々試行錯誤で脳内の表示メニューをいじっていたら、不要部分を不表示にできることが判った。


 どうも必要に応じて表示をオン・オフできるようだ。

 さっき目で見えた部分の表示は地表の一部なわけだが、鉱物や有用元素で露出しているものも場所によってはあるかもしれないが、その大部分は地下だろう。


 で、鑑定先を地下に変えるべく色々と再度試行錯誤でやってみた。

 ここにも『Resistance』の加減能力が機能するようだ。


 単純に俺がそう感じているだけかもしれないが、鑑定で地中に押し入るには、一先ず大地が持っている表層部分の『鑑定』に対するバリアのようなものを突き抜けねばならないようだ。

 約1時間にわたって悪戦苦闘しながら、ようやく突き抜けた瞬間新たな世界が見えた。


 俺を中心とした概ね半径10m前後の球状範囲の構成素材が見えた(というより判った?)んだ。

 驚いたことに、地中だけではなくって、空気中の水分やフォトン、樹木の構成などさえも見えた。


 ある意味で周囲全部が化学の記号で埋まっていて、俺の頭がパンクしそうになる。

 何とかその一部だけに対象を絞れるようになるには、更に15分ほどを要したよ。


 何と説明してよいのかわからないが、俺は感覚的に全周囲を把握していて、目で焦点を合わせるようにその一部をピックアップして詳細鑑定ができるようになった。

 ステータスでは、鑑定がLv3にアップしていた。


 取り敢えず、俺の稽古場になっている30平米余りの平たい場所の地下を探ってみた。

 殆どが、火成岩からなる岩なんだが、それを詳細にみて行くと、希少元素が分散しているんだ。


 量は少ないが、間違いなく金もあるし、銀もある。

 但し、相手は岩だから、持ってきたスコップじゃ何の役にも立たない。


 但し、そのことにちょっと違和感があった。

 俺は、抵抗を加減できる能力が有る。


 ならば岩の硬さなんぞも加減できるんじゃないのだろうか?

 で、その思い付きのままに、折り畳みスコップで露出した岩場に突き立ててみた。


 その際に行ったのは岩の硬さと言う抵抗を減少するイメージだった。

 驚いたことにサクッとただのスコップが岩の中に入り込み、応分の岩を削り出したんだ。


 感覚的には砂場の砂をスコップですくっている感じなんだが、岩だから掘り起こすのもかなり重いんだぜ。

 しかしながら、こいつは『採掘』なのか?


 『採掘』とは有用元素を取り出すまでが採掘なんで、これじゃ単に掘っているだけの『掘削』じゃないのか?

 で、新たなイメージで俺の周囲にある金の元素若しくは粒を意識し、大地から絞り出すことを考えた。


 無論、大地からの抵抗があるんだが、そいつを加減してやり、金の粒子の重力のベクトルを変えて俺の足元に集中するようにしてやると、地表に砂金がわずかにいてきた。

 勿論純金なんだが、凄く小さい。


 俺の鑑定の中で判るぐらいで、地表に置いたままではちょっと見分けられないかもしれないぐらいの量だ。

 そりゃあそうだよね。


 昨夜、念のためにネットで調べたけれど、金鉱山と呼ばれる場所は、トン当たり数グラム程度の金が産出すればとっても有望な金山なんだそうだ。

 俺が垣間見た大地の体積はおそらく1800㎥ぐらいだろうと思う。


 普通の火成岩ならば比重は3ないし4程度、つまりは5000トンを超える岩の中の金を抽出したわけなんだが、仮に含有量が金山並みにあったりすれば、10キロ単位の金があっても全然おかしくは無い。

 ここは間違いなく金山ではないから、その含有量をトンあたり数千分の一グラムと仮定すれば、1グラム~3グラム程度の金と想定できる。


 改めて『鑑定』を掛けてみると、【金3.24g、時価40,370円】と出たよ。

 え?


 凄いよね。

 実際に金の採掘に要した時間は多分5分に満たない時間だぜ。


 それで4万円を超える金を生み出すなんて、・・・。

 時給にすれば48万円を超えるぜ。


 同じく銀でやってみた。

 金があるところには銀も産出するからね。


 さらに、銅や鉄などの金属元素も試してみて、一番量が多かったのがアルミニウムだった。

 あれ?


 アルミニウムって、ボーキサイトから精錬するんじゃなかったっけ?

 でも『鑑定』ではアルミニウムがいきなり出て来たぜ。


 後で調べたら、アルミニウムは地中に結構含まれているらしいが、余りに含有量が微量なので精錬するコストがかかりすぎて採算に乗らないらしい。

 本来ならば採算ベースに乗らないものを、俺は簡単に生み出すことができるみたいだ。


 まぁ、大した量じゃないよ。

 試したのは一辺が50センチ程度の立方体(125リットル程度)の岩の中から、アルミの塊3リットル程度が分離できたんだ。


 但し、3リットル程度でも8キロ程度あるからな。

 そんなもの持ち運びするのも面倒だし、その辺に放置もできないだろう。


 止む無く地中に戻してみた。

 含有していたものを抽出できたのなら分散して元に戻すことだってできるだろうってことで、やってみたら何故かうまくいったよ。


 無駄な作業をしたわけではあるが、うん、こいつは確かにチートだ。

 資源の少ない日本でも、俺が居れば資源立国になる可能性が生まれたよ。


 しかも色々な精錬過程をすっ飛ばして、純金属を生み出せるのがすごいぜ。

 採掘するのが鉱石じゃなくって、いきなり鉄やアルミニウムの塊だからねぇ。


 それと、スコップやバールは全く不要だった。

 まぁ、硬いものを柔らかくして削る方法を覚えたから、それはそれで良しとしよう。


 あ、もしかして逆もできるのかな?

 柔らかいものを固くし、硬いものをさらに硬くする?


 それができるなら鍛冶の方で物凄く役立ちそうだよね。

 5月3日の屋外活動は、有益な検証で終わった。


 さて、明日は、梓ちゃんとデートだな。

 何せ、デートとは意識しなかった幼い頃の女の子との遊び以外では、人生初めてのデートだから、とっても楽しみだよ。



 ◇◇◇◇


 5月4日、朝6時半いつも通りに起床。

 10時の現地待ち合わせだから、遅くても9時20分過ぎには家を出なけりゃならん。


 女の子を待たせないためにも、少なくとも20分前ぐらいには着いていたいよね。

 世の中、お休みの日だけれど、朝食は8時にしてもらった。


 お袋が妙に勘ぐっているようで、俺の服装をチラチラ見ているぜ。

 同じラフでも、昨日のラフな格好とは雰囲気が異なっているからだと思う。


 おまけに普段は余り気にしていない髪までしっかりくしを入れている。

 今日のお出かけスタイルは、胸の横文字のロゴ入り萌黄もえぎ色の長袖Tシャツに、鼠色というか岩井茶のジーンズパンツ、靴はお出かけ用の紺瑠璃こんるり色のコンフォートシューズ。

 

 腰には少し大きめのウェストポーチ。

 スマホ、財布、生徒証、ハンカチ、ポケットティシュその他を入れている。


 今日のお出かけスタイルの衣装で一番高いのは家の中だからまだいてはいないけれど、ヤッパ、靴だよね。

 スマホほどは高くないけれど、確か一万円を超えていたはずだ。


 親父と妹二人はまだ起きてこないが、祖父母はそろって一緒に食事だ。

 お袋は何となくわかっていても口にしなかったが、祖父が唐突にしかも遠慮なしに口にした。


「英一郎も15か、そろそろ色気づく頃合いでもおかしくは無いが、異性交遊はほどほどにな。

 何事も中庸ちゅうようが大事じゃぞ。

 やり過ぎては、はたが迷惑する。

 それと、そのうちに家に連れて来なさい。」


 まるで彼女が居るのが当然と言った口調で言う。

 祖父はエスパーか?


 何で分かった?

 俺が呆気あっけに取られていると、祖母がニコニコしてうなずいているし、お袋は苦笑している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る