魂宿る遊戯銃は相棒になりたい――サバゲー最強才女とライフルに囲まれて送るきっと死なないデスゲーム

宵更カシ

ゼロ

「こっちだよお兄ちゃん!」


 つんと甲高い妹の声。俺はそれを追って走っている。


「あんまり遠くへ行っては駄目よーリコ」

「わかってるよー! お兄ちゃんが付いてるから大丈夫!」

「悠里ーリコのこと、頼むわよー」


 桜舞う麗らかなキャンプ場。テントのペグを打つ父の真横を駆けて行く。


 天真爛漫な妹のリコに面倒見の良いしっかり者の兄、悠里。俺の自己評価じゃなく、近所や世間ではそう言われてる。


 そして今はそんな妹が転んだり迷子にならないようしっかり手綱を握ろうとしている最中……実際は二人っきりの追いかけっこになってる。


「ほーら捕まえてごらーん!」

「待てって!」


 逃げるリコはそんなことを嘯く。


 勿論、本気を出せば簡単に捕まえられるけど、それじゃリコが可哀想だ。


 しばらくして捕まえて、捕まえられて。そんなのを繰り返していた折、ふとリコはムスッと不満げに頬を膨らませた。


「お兄ちゃん、本気出してないでしょ?」

「本気だよ本気」

「嘘、サバゲーしてるときの方が早いもん。本気出してくれないお兄ちゃん嫌い!」


 どうやら本気を出していないことがバレたらしい。弟や妹なら誰しもある兄への対抗心って奴だろう。


 けどまぁ本気でするのが所望なら叶えてあげようじゃないか。


「わかったよ。でも捕まえられなくて泣くなよ」

「捕まえられるもん! じゃあ、ヨーイスタート!」


 そうして俺は呑気に本気で逃げ回ってしまった。これがすべての過ちだったなんて気づかずに。


 リコがどんどん離れていく。キャンプサイトからコテージのある方まで行き、その角を二つ、三つと進んでいく。


 待ってよー。そんな涙ぐんだ声が遠くに聞こえてきた。少しやり過ぎだったかな。そう思い足を止めるが、リコは一向に姿を見せない。


 大分遠くまで引き離してしまったのだな。流石にこれじゃ可哀想だ。そうやって角を二つ戻ったとき、自分の目を疑った。


「リ……コ」


 子供ながらにリコが地面に倒れていること、流れ出ているのが血であることはわかる。まだはぐれてそう時間は経ってない。


 傍に駆け寄ってリコの身体を揺する。瞼は開いたまま、背中は食い荒らされたように穴が空いていて中は生暖かい。


「誰か……誰か!」


 血の池に落ちた桜の花弁。震える声で必死に叫ぶが誰も気づかない。まるで世界にたった一人残されたような不安が襲ってきて、自然と涙が溢れていた。


 そこからの記憶は断片的だ。救急車のサイレンで集まってきた野次馬に囲まれて、泣き崩れる母と宥める父。


 警察の人から事情を聴かれて、リコの傷の生暖かさを思い出して……そして熊に殺られたと父から聞いて。


 俺がリコの煽りに乗らなかったら、きっと死ななかった。俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ。


 リコを終わらせたのは俺だ。両親から慰められても、誰かに同情されても自責し続けた。


 リコが死んでから、俺は学校にも行かなくなって引きこもった。誰とも会いたくなかった。サバゲーもしたくなかった。


 けれどそんなときに、彼女が現れた。


 ある日、父が譲り物と言って部屋に置いてくれたエアソフトガンが暗い部屋の中で光り、人に変身しこういった。


「私はラプア。魂を持つ銃――ドゥーガルガン。人になる為に生まれてきた、貴方の可能性」


 人になる為。俺はその言葉を聞いて直感した。


 彼女はリコの生まれ変わりなのだと――


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