第24話 宣戦布告

 「……どうしてこうなったんだっけ」


 ゼルアがふとつぶやいた。

 彼の前には、魔法を振るい続ける友達がいるからだ。


「はあああああ!」

「はッ!」

「やあああああ!」


 声を上げているのはクレア、エアリナ、メルネ。

 そして、隣ではミルフィも魔獣を狩っている。


「フッ──!」

「もう趣旨が違ってきてるよ……」


 きっかけはほんの数十分前。

 森林に入ってすぐ、ミルフィが挑発気味に放った言葉だ。


『何匹倒せますか?』

「「「……っ!」」」


 その一言で、彼女たちに火がついてしまった。

 四人は争うように魔獣を倒しているのだ。

 結果、全く真っ直ぐ進めていない。


「あ、あの、みんな──」

「「「はあああああっ!」」」

「ダメだ、聞いてない」


 周囲の気迫に押される中、ゼルアは疑問を抱く。


(みんな、やけに張りきってるような……?)


 クレア達の雰囲気が気になったようだ。

 ゼルアは彼女たちの約束を知らない。

 だが、長年の付き合いだからか、なんとなく察する。


(どうせミルフィが何か言ったんだろうなあ)


 ミルフィは昔から強気な性格のようだ。

 その辺でミルフィは「解せぬ」という顔を浮かべているようだが、ゼルアも取りこぼしを狩っていく。


 理由はどうあれ、森林は抜けられそうだった。


「意外と早く着きそうだね」

「うん! スピードも負けてないだろうね」

「周りは苦戦してそうだった」


 ゼルアの言葉に、クレアとエアリナが答える。


 その言葉に表れている通り、ここにいる全員が思っていただろう。

 回り道をしても一番乗りだと。


 しかし、その予想はくつがえることになる。





「やっと着いたあ」


 広大な森林を抜け、ゼルアが両腕を伸ばす。


「さすがに一番乗りかしら」

「だと思うけど」


 クレア達も順に森を抜けて来る。

 だが、ゼルア派閥に前方・・から声をかけてくる者がいた。


「遅かったじゃねえか」

「「「……!」」」


 ゼルア達が顔を上げると、褐色の少女がいた。


「ゼルア派閥ってこんなもんなのかよ」

「君はたしか……」

「アタシはクルミ。土派閥のクルミ・フォートレスだ」


 侯爵フォートレス家の長女クルミ。

 ゼルアと同じSクラスだ。

 

 褐色の肌に、銀髪のロング。

 ワイシャツは第二ボタンまで大胆に開けており、上着は腰に巻いている。

 男勝りな口調と表情は、一年生の土派閥をまとめるにふさわしい。


 そんなクルミには、クレアが応える。


「いよいよってわけね、クルミ」

「そうだぜ。他の三派閥がこの調子だからな」

 

 土の公爵家は学院にいない。

 そこで、次に位が高いクルミが一年土派閥を仕切っているのだ。

 すると、クルミは早速挑発してくる。


「アタシ達は三十分は早く着いてたぜ」

「は、はやい……」


 例年から見れば、ゼルア達はかなり早い方だ。

 魔獣に夢中で回り道をしていたとはいえ、土派閥はそれを上回ったのだ。

 スピードに関してはよっぽど早いと言える。

 

「アタシ達は強固な連携が取り柄だからな。全員で壁を作りながら真っ直ぐに移動してきたんだ」

「「「そうだ!」」」


 クルミが手を広げると、後方の土派閥が声を揃える。

 言葉通り、連携は相当なものみたいだ。


(僕たちとは違うなあ……)


 対して、ゼルアが思い返すのは先程の光景。

 そこには連携などまるでなく、完全なる個人主義だった。

 勝負をしていたので仕方ないとも言えるが。


 すると、クルミは優勢のまま言葉を続ける。


「そこで一つ提案があるんだけどよ」

「え?」

「この合宿では、いくつか争うものがある。例年は四派閥でバチバチしてるみたいだが、今回は一つ多いわけだ」

「う、うん……」


 なんとなくしていた嫌な予感は、やはり当たる。

 ニヤリとしたクルミは宣戦布告してきた。


「だからよ、この合宿でアタシ達と勝負しねえか?」

「え?」

「勝った方が派閥を全吸収できるってことで」

「ええ!」


 創設したばかりのゼルア派閥に、決死の勝負を持ち込んだのだ。

 それには、顔を青ざめさせたクレアが前に出る。


「ちょ、ちょっと待って! 勝手に話を進めないで!」

「どうしたんだよ。クレアほどの者が」

「だって、そんなこと言ったら──」


 クレアはすでに予期していたのだ。

 次にゼルアから出る言葉を。


「よし、やろう」

「「「絶対言うと思った!」」」


 すると、ゼルアはちゅうちょなく合意する。

 子どもっぽいゼルアが好みそうな展開だ。

 予想通りすぎる言葉に、クレアは頭を抱える。


「せっかく派閥を作ったのに……」

「大丈夫だよ、クレア」


 だが、ゼルアなりにも考えがあったようだ。


「僕は派閥を作ったけど、対立したいわけじゃない」

「え?」

「どちらにしろ同じ派閥になるんだ。だったら仲良くもなれるかなって!」

「……もう」


 ゼルアはあくまで仲良くしたいだけ。

 それを言われると、クレアも納得するしかない。

 そうして、ゼルアは差し出した。


「その勝負受けるよ、クルミ」

「ああ、後悔すんなよ」


 新入生合宿はさらに激化していく──。

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