第22話 クレアとミルフィ
「聞かせてよ。ゼルアとの本当の関係を」
大浴場にて、クレアはミルフィに対抗するように胸を突き出す。
そのまま、じっと見つめて尋ねた。
「まだわたし達に言っていない何かがあるんだよね?」
「……」
対して、ミルフィは答える。
「ありますよ」
「「「……ッ!」」」
それには、周りのエアリナとメルネも目を見開く。
だが、ミルフィは口にしなかった。
「ですが、教えることはできません」
「なっ! どうして!」
「これは私の優しさですよ」
「え?」
ゼルアとミルフィの本当の関係とは、魔界からの付き合いということ。
しかしそれは、人間と魔族に関する真実への第一歩だ。
ゼルアが魔界育ちと知ると、彼女達はいずれ気づくことになる。
いま人間と戦っている魔族は、ほんの下っ端に過ぎないということを。
「ショックを受けるのはあなた達です」
「……」
それは人間界では誰も知らない真実である。
ミルフィは優しさで教えないであげているのだ。
だが、クレアは首を横に振った。
「けど、わたしは知りたい!」
「ほう」
「たとえショックでも、ゼルアのことはたくさん知りたいから!」
「……そうですか」
クレアの言葉に、ミルフィは口元を
彼女が本気だと理解したのだろう。
ならばと、ミルフィは条件を突きつけた。
「では、私があなたの力を認めた時に教えましょう」
「ほんと!」
「ええ。もちろん簡単ではありませんがね」
「そ、それは……!」
ミルフィがすっと取り出したのは──持ち武器のクナイ。
クレア達には見覚えがある武器だ。
入学実技試験で叩き出された、謎のクナイの跡(307点)。
歴史的な記録にもかかわらず、『伝説たちの跡』に名前が載ることを拒否した人物がいたという。
その正体はミルフィだったのだ。
「あ、あなただったの……」
「そうですよ。まあ、ご存じの通りゼルアはもっと強いですが」
「……っ!」
ミルフィがふっ浮かべた笑み。
それは、ゼルアとミルフィが遥か高みにいることを突きつけるような表情だ。
彼女を認めさせるのは、相当な困難だろう。
それでも、クレアは引き下がらない。
「今度、『新入生合宿』があるよね」
「らしいですね」
新入生合宿とは、一年生の最初のイベント。
全クラスが一つの目的地に集まり、様々な活動を行う。
別名、“学院の洗礼”と呼ばれる地獄のイベントだ。
ビシっと指を向けたクレアは、堂々と宣言する。
「そこで認めさせるよ。ミルフィ」
「ふふっ」
すると、負けてられないと後方の二人も立ち上がる。
エアリナとメルネだ。
「私もゼルア君を知るために!」
「あ、あたしも!」
「そうですか。では──」
対して、ミルフィは
「皆さんの活躍を楽しみにしてますよ」
その頃、ゼルアはリビングでぼけーっとしていた。
「みんなでお風呂なんて、仲良しだなあ」
風魔法を扇風機代わりにして
すると、ミルフィ達が大浴場から戻ってくる。
「「「……」」」
「あれ、仲悪い!?」
だが、一瞬にして認識を改めた。
みんな機嫌よく向かっていったはずが、無言で帰ってきたからだ。
不安になったゼルアは、おどおどと尋ねる。
「み、みんなどうしたの?」
「「「……」」」
中でも、クレアとミルフィはバチバチと視線を交わす。
まるでライバル心を燃やしているようだ。
しかし、二人もふいに口元を緩める。
「ま、こっちの話だから一旦置いとくよ」
「ええ。坊ちゃ──ゼルアは気にしなくても良いです」
「めっちゃ気になるけど!?」
大浴場で話したことは、ゼルアには内緒のようだ。
表情が戻ったクレアは、早速ゼルアに声をかける。
「じゃあさっきの続きを話そっか」
「あ、新入生合宿の話?」
「そうそう」
ニヤリとしたクレアは、いつもの調子で口にした。
「これはゼルア派閥にとっても大チャンスだから」
★
次の日。
「大変だー!」
学院には激震が走っていた。
特大のニュースが入ってきたからだ。
『第五の派閥、“ゼルア派閥”現る』
ゼルアが正式に派閥を作ると宣言したようだ。
新聞部を中心に、ニュースはすぐに学院中に広まった。
すると、方々で動きが見られる。
火派閥の集団。
「ゼルア派閥だって。どうする?」
「入れてもらうなら早い方が良いぞ」
「バカもの! 火を裏切るのか!」
水派閥の集団。
「クレア様がゼルア派閥に……」
「もうあれを実行するしかないわ」
「ああ、そうだな」
そして、学院のとある場所。
大きな会議が行われていたのは、土派閥の拠点だ。
「昨日に続いて面白い奴だ」
筋肉質の大男が、太い声を出す。
見た目はゴツゴツだが、これでも学院生だ。
すると、対面にいた“男勝りな
「だね。
「むしろ狙ったんだろう。本人ではないだろうが、頭がキレる奴がいるな」
「周りも優秀だからな……」
少女が浮かべるのは、クレアやエアリナ。
他派閥のトップを抱えるゼルアは、すでに強力である。
しかし、少女はニヤリと笑った。
「行動を起こすなら、新入生合宿かな」
「ああ、間違いねえ」
ウルドを倒した次の日に、派閥を創設したゼルア。
その影響は大きく、各地で仕掛けが始まろうとしていた。
そうして、一週間後。
「よし!」
拳を握ったクレアは気合を入れた。
ゼルアとミルフィについて真実を聞くため、燃えているのだ。
当然、エアリナとメルネもだ。
「頑張りましょう」
「ミルフィに吠え面かかえせてやるわ!」
また、ゼルア達も初のイベントを楽しみにしている。
「いよいよだね!」
「ええ。坊ちゃま」
継続する派閥争い。
新勢力のゼルア派閥。
そして、ミルフィとクレア達。
様々な思惑が
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いよいよ新入生の初イベントです!
すでに無双し始めているゼルアですが、今度は何を起こして、何に巻き込まれるのか……?
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