第13話 圧倒的な差

 「白を発現させるのに一番大切なのは──“心”だ」


 ゼルアから圧倒的な威圧感が放たれる。

 同時に、全身からは白く気高いオーラが放たれた。

 ヴァリオスの白属性がかすんでしまうほどに。


「「「……ッ!!」」」


 それには、周囲も大きく目を見開く。


 身体能力をいちじるしく向上させ、全ての魔法を高める効果を持つ“白”。

 人類のみに宿るこの属性は、まさに希望の光だ。

 だが、ここまで純度の高い“白”は誰も見た事がない。

 

 両者の横で、審判のマリエラ先生は口元に手を当てた。


(大切なのは……心?)


 普段のふわふわしているゼルアと、今の彼は雰囲気が違う。

 穏やかな目だがどこか余裕を持ち、凄まじい威圧感を放っている。

 白を宿した瞬間に、別人のように変わったのだ。


(じゃあ白の発現方法は……!)


 この様子こそが、ゼルアの言葉の真意だ。

 様々な要因で発現する白だが、一番大切なのは心。

 “相手に必ず打ち勝つ”という確固たる自信が、白を発動させるに至る。


(この勝負はもう……)


 色々な要因を含めて、ある一定以上の領域に達すると白は発現する。

 実力、血筋、武器など、あらゆる物が加点となるのだ。

 だが、一番の加点となるのが心である。 


 そして、もちろん白には強弱もある。

 ヴァリオスはギリギリ領域に達した程度だが、ゼルアはすでに圧倒的高みにいる。

 それが威圧感となって表れているのだ。


「ふ、ふざけやがって……!」


 対して、ヴァリオスは歯を食いしばる。

 数々の屈辱を晴らすため、白を発現させられるという武器を持ってきた。


 しかし、ゼルアに言わせればまだまだだ。

 さらなる屈辱にヴァリオスは怒りの目を向けた。


「ここでお前を斬ってやる!」

「……」

「くらいやがれえええええ!」


 ヴァリオスの剣はまるで当たらない。

 しかし、ゼルアは回避していない・・・・・


(な、なんだ……!?)


 よく見れば、ヴァリオスの腕自ら・・・がゼルアをけていた。

 自分でも気づかぬ間に、ゼルアの威圧感におびえていたのだ。

 ヴァリオスの筋肉、皮膚、細胞全てが、ゼルアに恐怖している。


「ク、クソがああああああ!」

「……!」


 声を上げたヴァリオスは、手に火属性を宿す。

 ヴァリオスも淡いながら“白”を発動しているのだ。

 なんとか恐怖を振り払い、魔法の構えを取った。


「こいつで焼き尽くす!」

「じゃあ僕も」

「……ッ!」


 すると、ゼルアもぼっと火属性を灯す。

 見た目だけでも、ヴァリオスの十倍以上の大きさだ。

 火派閥のトップ家系であるはずのヴァリオスの魔力が、まるで話にならない。


「な、なんだそれはあ!」


 両者の差は、“白”の差だ。

 白は魔法を高める効果を持つ。

 つまり、白が強力なほど、自身の魔法は大きくなる。

 

「ハッ、ハッ……!」


 ヴァリオスは再び恐怖しかけている。

 すると、頭には数々の嫌な記憶が想起された。


『お前は火派閥のトップなのだぞ』

『兄に比べてお前は……』

『次男はダメだな』


 思い出すのは、ヴァリオスに向けられた言葉だ。


「チィッ……!」


 派閥トップなりに何かとあるようだ。

 それらがヴァリオスを怒らせ、攻撃に転じさせる。

 無謀な魔法の対決だろうと、ヴァリオスは放った。


「俺の火は至高のはずだああああ! ──【業火廻インフェルノ・ヴォルテクス】……!」

「──【業火廻インフェルノ・ヴォルテクス】」


 ヴァリオスから、せん状に炎が放たれる。

 それにはゼルアも全く同じ魔法で応戦した。


 両者の魔法は衝突する──が、全く拮抗はしなかった。


「バカなっ……!」


 ヴァリオスの魔法は、ゼルアの魔法に一瞬にして喰われる。

 大きさから考えれば当然だ。

 その隙にゼルアは、瞬間移動並みの速さでヴァリオスの懐に迫っていた。


「僕の勝ちだ、ヴァリオス君」

「……! はや──がはッ」


 決着は一発。

 目にも止まらぬ速さの手刀を首に入れ、ヴァリオスは気絶した。

 その様子に、審判のマリエラ先生は手を挙げる。


「しょ、勝者! ゼルア君!」

「「「……っ!」」」


 対して、周囲は驚きより困惑が勝っている。

 炎がぶつかり合ったかと思えば、次の瞬間にはヴァリオスが倒れていたのだ。

 しかし、ハッとすると大きなどよめきが起こった。


「「「んなああああああああ!?」」」


 周囲からすれば、大金星だ。

 火のトップ“レグナルト公爵家”の者が、一平民に負けたのだから。


「な、何が起きたんだ?」

「とんでもない火魔法だったぞ」

「それよりも白持ちだと?」

「レグナルトより綺麗だったような……」

「ヴァ、ヴァリオス様が……」


 すると、中央舞台のゼルアはふっと力を抜いた。

 同時に白いオーラも消え、表情も戻る。


「はあ、緊張したあ~」


 いつものふわふわしたゼルアである。

 そんなゼルアにマリエラ先生は興味を持つ。


(戦いの時だけあの雰囲気になるなんて、逆に難しいわよ。一体どんな鍛え方をされればこう育つの……)


 舞台に立つゼルアは、若干緊張気味にぺこりと頭を下げて戻った。

 この様子に存在感はないが、マリエラ先生は確信している。


(やはりとんでもない逸材だわ!)


 こうして、ゼルアとヴァリオスの対人戦は、ゼルアの圧倒的な勝利で幕を閉じたのだった。





 そして、放課後。


「あ、あの!」

「ん?」


 ゼルアが帰ろうとしていたところ、ふいに声をかけられる。

 ミルフィでもなく、クレアでもない。

 振り返った先にいたのは、クラスで見た少女だった。


「わ、私と友達になってくれませんか!」

 




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白属性は、人間を力・血統・持ち武器などの“色んな要素”で計測して、100点以上超えたら発現するみたいなイメージです。(100点は仮の点数)

その色んな要素の中で、一番加点となるのが“心”です。


ヴァリオスは色んな要素をかき集めて101点ぐらい。

ゼルアは……ご想像にお任せします、ぐらいの点数だったわけですね!


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