ライムライト・メモリーズ

幸田 績

プロローグ

 皆さん、こんにちは。バーチャルリポーター・市川いちかわ晴海はるみです。

 謎のAI〈エンプレス〉がサイバーテロによって多数の人間に幻覚を見せ、それを信じた人間が化け物となってしまう宮城県逢桜町あさくらまち。この町は今、日本政府の緊急事態宣言を受け、生き残った人々を中に残したまま封鎖されています。


 ご存じの方も多いと思いますが……私はその際〈エンプレス〉に身体を乗っ取られたのち、自我と意識を切り離されたことで、サイバー空間を漂う人類初のとなってしまいました。

 ですが! 肉体を失ったのち逢桜町役場広報室の職員となった私は、皆さんの温かな励ましとお力添えにより、新たな使命を見出したのです。



 現実と仮想の世界が交錯するこの町には「必ず生き残る」という強い意思を持って、日々住民を襲う化け物と戦いを繰り広げている町民たちがいます。

 彼らが命を賭して描く人生のきらめき、悲喜こもごもの人間ドラマ。閉鎖的な空気と絶望感が支配するこの町で、これ以上に尊いものがありましょうか。


 今、私にできることは「語り継ぐこと」。この町の日常を、あるがままに記録すること。こんな殺伐とした世界にも希望があるのだと、これを見ているあなたに伝えること――。

 ふふっ……なんだか、これまでで一番リポーターらしい仕事ができた気がします。死んでからやりがいを感じるなんて、おかしな話ですけどね。



 ――って、もうこんな時間!? いけない、急がなきゃ! アポに遅れるなんて三流も三流よ晴海、取材パス持った? メモOK?



 〈エンプレス〉にデータ化された私には、愛用の取材バッグが「付属品」でついてきました。現物は警察に押収されてぐっちゃぐちゃになり、仙台市内にあるかつての職場・青葉放送に私の「遺品」として展示されているそうですが……

 これに荷物を詰め込んだら準備完了。いざ、戦場へ向かいましょう。


 そう、真実を包み隠さず伝えんとする報道の現場もまた、言葉を武器に戦うもうひとつの戦場なのです!

 今回は見学者ギャラリーもいますし、張り切って仕事しちゃいますよ、私!



 さあ……今日は一体、どんな物語に出逢えるのでしょうか――?

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