ポテト魔王〜転生したらポテトで無双する最強の存在になりました〜
みなかな
第1話 転生
最も栄えた都市の中心部、無数のネオンが瞬き、夜空を照らし出している。
その中でもひときわ高くそびえるビルの最上階に、一人の少年が佇んでいた。
黒い髪が夜風に揺れ、窓の外に広がる景色を静かに見つめている。
その少年はまだ15歳に過ぎないが、その瞳には深い思索と冷静な輝きが宿っていた。
その静寂を破るように、重厚なドアが静かに開いた。黒いスーツに身を包んだ7人の男性が整然と部屋に入ってくる。彼らの後ろには、銀髪の老人がいて、銀色のアタッシュケースを握っていた。老人の存在感はまるでマフィアのボスのようで、その目には深い思慮が宿っていた。
「お待たせして申し訳ない。」
老人の低く響く声が、静かに部屋に満ちた。彼の視線は窓際に立つ少年に向けられ、その声には緊張感があった。
少年はその言葉に反応せず、ただ静かに都市の夜景を見つめ続けていた。その眼差しには、冷徹さと同時に何かを見定めるような深さがあった。
「それが例の品かい?」
ようやく少年が口を開いた。視線を外さずに、静かに問いかける。
「はい、これが我々が新開発した商品です。」
老人はアタッシュケースを差し出した。その手には長年の経験と自信が宿っていた。
少年は無言でケースを受け取り、それを慎重に開けた。中には一本のポテトが収められていた。まるで宝石のように輝くそのポテトを、少年は手に取り、じっくりと観察する。その手つきは、まるで貴重な芸術品を扱うかのように慎重であった。
「これは…『夜空の涙』か。」
一眼見ただけで品種を見抜くその才能に、老人たちはただ黙って頷いた。少年の瞳が一瞬だけ輝いた。彼はそのポテトを一口かじり、その味を確かめる。口の中で広がる味に、彼の表情がわずかに緩む。頬が赤らみ、目が輝きを増していく。その瞬間、彼はまるで光を放つかのように輝いていた。
その光景を目の当たりにした黒服の男たちは、息を呑んだ。彼がポテトを味わう姿は、まるで神聖な儀式を目の前で見ているかのようで、彼らはその光景に心を奪われていた。
少年がポテトをすべて食べ終えた後、静かにこう呟いた。
「ポテトが喜んでいる…」
一言を聞いた瞬間、老人も黒服の男たちも、その場で感動のあまり号泣し始めた。彼らの涙は感謝と崇拝の表れであり、まるで祝福されたかのような喜びに満たされていた。
その後、このポテト――「奪われちゃった私のぽ・て・と」は、全世界で3億食を売り上げる大ヒット商品となった。
部屋を後にする黒服の男たちを見送りながら、少年は再び夜景を見つめ、静かに呟いた。
「ポテト・・・ 僕はまた君に近づいた気がするよ・・・」
その言葉は、夜の闇に溶けるように消えていった。
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お腹が空いた。ご飯が食べたい。おやつが食べたい。
そんな時、あなたは何を思い浮かべますか?
当ててあげようか?
ポテトでしょ?
現代社会の中で、全ての流行や時代が加速度的に進む中、唯一変わらず絶対的な地位を築いているもの、それがポテトである。子供、若者、大人、老人、全ての人間が好む最強の食材。今や、ポテトを制することがこの世を制することと同義である。
彼はその世界で、最もポテトを知り尽くした人間だった。その理由は、彼は特定の食べ物しか食べることができない非常に稀な病にかかっていたからである。この病気によって、彼に食べることが許されたのは「ポテト」だった。そのため、幼少期から他の食べ物を受け付けず、唯一ポテトだけが彼の命を支えていた。
この病気の影響で、彼は栄養の偏りに苦しみ、日々最新の医療技術に頼るしかなかった。都市の中心部に住む理由も、全てはその最新の医療技術を即座に受けられる環境を確保するためだった。しかし、この病気が結果的に彼をポテト業界、そして世界の頂点に君臨する地位へと導くことになったのだ。
彼はポテトについての知識と味覚を極限まで高めた。その知識は、単なる愛好者の域を超え、ポテト業界全体を動かすほどの影響力を持つようになった。「ポテトの裁定者」として、彼は市場を動かし、世界の舵を握っていた。しかし、彼の病は日々彼の体を蝕んでいき、どれだけ最新の医療技術に頼っても、命を延ばすことは叶わなかった。
その影響力は世界中に広がり、ポテト業界の頂点に立ったが、彼の体は限界を迎えていた。そして、15歳という若さで、ついに彼はその命を閉じた。
「また君に会いにいくよ…ポテト。」
最後の言葉を残し、彼は静かに目を閉じた。心の中でポテトに再会することを祈りながら、意識は静かに消えていった。
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目を開けた瞬間、彼は自分がどこにいるのか全く分からなかった。広がるのはただひたすらに白い空間。壁も天井も床も見えず、まるで世界が消え去ったかのような無機質な空間が、彼の視界を埋め尽くしていた。
「ここはどこだろう・・・」
どこを見ても何もない。ただ、自分がぽつんと一人立っているだけだ。
その静寂は、あまりにも圧倒的だった。心の中に不安がじわじわと広がっていく。胸の奥に冷たいものが絡みつくような感覚が、彼を包み込んでいた。自分の存在がこの広大な空間に吸い込まれてしまいそうな、そんな恐怖がふと湧き上がる。
「誰か…ここに誰かいないの…?」
声を発してみたが、その声さえも白い空間に吸い込まれ、どこかに消えていく。返ってくるのは、ただの静寂だけだった。心細さが次第に恐怖へと変わり、彼の心を締め付ける。
その時、とー!と戦隊ヒーローかのように飛翔し、着地と同時に目の前に現れたのは、全身がポテトで覆われ、顔だけが覗いている奇妙な存在だった。
「初めまして!私はポテトの神だ!」
その声は朗らかで、どこか懐かしい響きを持っていた。彼は驚きとともに、その存在を見つめた。
そしてポテトの神という言葉を自分の中で咀嚼し徐々に感動の気持ちが込み上げる。
彼が心から愛してやまなかったポテト、その象徴が目の前に立っている。
その現実は、彼の心に温かく染み渡り、全身に感謝の気持ちが広がっていった。
しかしまだ信じることができない彼は震える声で尋ねた。
「本当に・・・ポテトなの?」
その問いには、長い間探し求めていた答えを得た喜びと、信じられない気持ちが混ざっていた。
「そうだよ。君のことはここからずっと見ていたよ。僕のことを愛してくれてありがとう。」
その言葉に彼は驚きを隠せなかった。気づけば、彼の頬を静かな涙が伝っていた。
その様子を見て、神は微笑んだ。そして両手を広げてこう言った。
「そこで! こんなにも僕を愛してくれた君の願いを僕は叶えてあげたいんだ! 何か願いはあるかい?」
まだ心の整理がつかない彼は突然の問いに戸惑いながらも、
「ポテトと暮らしたい」
と即答した。
神はその回答を聞いて声に出して笑った。
「そんなに僕が好きか、ははは!」
その言葉に、彼は全身を使って力強く頷いた。
神はその様子を見て、嬉しそうな顔になり、「そういうと思った!」と言った。そして、突如として彼の隣に現れたのは、緑の服をまとった美しい少女だった。
「彼女の世界にはポテトがあるから、僕がお願いしておいたんだ。」
神がそう言うと、彼女は微笑みながらゲートを広げた。
「この先に入れば、私の世界へ転生できます。」
彼女の優しい声に誘われ、彼はゲートの方へと足を向けた。
しかし、その途中で彼の足が不意に止まった。ポテトの神に背を向けたまま、彼の心に様々な感情が押し寄せてきたのだ。迷い、恐れ、そして新たな世界への不安。
しかし、何よりも彼を立ち止まらせたのは、ポテトの神との別れが現実のものとなる瞬間への寂しさだった。
彼は振り返り、ポテトの神の姿を再び目に焼き付けた。その存在は、自分がこの世界で過ごした全ての時間、そしてポテトへの深い愛の象徴であった。この神を残していくことへの戸惑いと、再び会えないかもしれないという恐れが彼の胸を締め付けた。
「僕はどこに行っても君を見守っている。だから、精一杯生きておいで!きっとまた会えるよ。」
ポテトの神の言葉は、まるで暖かな光のように彼の心の中を満たし、不安と寂しさを和らげた。神のその揺るぎない言葉に、彼は深い安堵と勇気を得た。
彼は再び足を進め、ゲートの前に立った。しかし、再び込み上げてきた感情に突き動かされるように、彼はゲートに入る直前で振り返り、叫んだ。
「ありがとう!!僕は君を愛してる!」
その言葉は、彼の中にある全ての感情を込めた、ポテトの神への最大の感謝と敬愛の表れだった。彼の叫びには、別れの悲しみと新たな始まりへの決意が込められていた。そしてその言葉と共に、彼は新たな運命へと歩み出した。
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そして場面は移り変わり、ある豪華な装飾が施された広々とした一室。その部屋では、今まさに一人の男の子が生まれようとしていた。母親に抱きかかえられたその子は、生まれて最初の一言を口にした。
「ぽてとぉ…」
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