第24話 忍者の武器
「この頭痛ってアレかなぁ、ひょっとして魔力を使いすぎたサインとかだったりすんですかね?」
しばらく考えて鹿島がふと思いついたことを口にする。
「ええ?」
「いやホラ、最近のファンタジーものとかで魔法を使いすぎると頭が痛くなるとか、そういう設定があったりするじゃないですか?」
馬場はもう頭痛は納まっていたが、相変わらず頭が痛そうな表情のまましばらく考え、そして首を振った。
「ゴメン、思い出せない。
そんなのあるの?」
「ゲームじゃなくてラノベとか漫画とかのファンタジーものでね、たまにあるんですよ。
えっと、ゲームみたいなステータス画面とかで数字で見るんじゃなくて、魔力を消耗すると頭痛がしたり気分が悪くなったりして魔力が枯渇してるのが分かるようになってるってのが……」
「へぇ……」
馬場は気の無い返事をして手にしたバールを見た。鹿島の推測に対して無関心そうな態度だが、興味がないのではなくむしろ興味深く思っている。
鹿島が召喚したのは刺身包丁……重量は200gあるかどうかといったところだろう。対して馬場が召喚したバールは長さ90センチの鋼鉄製で重量は2kgを上回る。仮に召喚に魔力が必要で、召喚する物体の重量と消費する魔力が比例するのだとしたら……鹿島は軽い頭痛を感じた程度で済んだのに馬場は顔色が変わるほどの頭痛に襲われたのも説明がつきそうだ。それが魔力かどうかはともかく、質量が十倍も違う物体を召喚して消費リソースが同じなわけはあるまい。
「たしかにそうかもね……
だとしたらどれくらいが限界かな?」
馬場はバールをお手玉するようにポンポンと軽く上に投げてはキャッチするのを繰返す。
「それって重さどれくらい?」
「確か……2キロちょっとだよ」
鹿島は馬場の答を聞くと、自分の刺身包丁を見ながら顎に手を当てて考えた。
「うーん……ひょっとして重量で限界があるんですかね?」
「限界?」
「ホラ、ボクらさっき刀を召喚しようとして出来なくて、ソレは召喚できたけど結構きつかったんでしょ?
それは2キロぐらいだそうだけど、日本刀って確か3~4キロはあるよね?」
「いやそんなに無いよ」
馬場は鹿島の推測に苦笑いした。鹿島は意外そうに尋ねる。
「そうなの?!」
「普通の人が刀と聞いて思い浮かべるような、江戸時代の侍が腰に付けてた様なのは、鞘とかのこしらえ含んでもだいたい1・5キロから2キロってところだよ。
3キロもあるのは
さらに大きな
「いやいや!」
鹿島は慌てたように首を振った。
「ボクは普通に忍者刀をイメージしてましたよ。
長さが60センチくらいの?」
「それなら多分、コレより軽いんじゃないかな?」
馬場はそう言うと再びバールでポンポンとお手玉してみせる。鹿島はバールを観察しながら再び顎に手を当てて考えた。
「てことは重量じゃないのか……」
「魔力消費は重量が関係するかもだけどね……」
鹿島の結論に同意しつつ、馬場はバールを再び杖みたいに地面に突き立て、手を乗せた。
「じゃああくまでも道具って枠組みじゃないと駄目ってことですかね?」
「ひょっとして自分が使ったことのある道具じゃないと駄目とかかな?
それだったら本物の日本刀なんか触ったこともないから召喚できないのも無理はないけど……」
「え!?
それじゃ弓とか手裏剣とかも無理じゃない!
せっかく忍者になったのに!!」
鹿島が嘆くのを馬場はキョトンとした表情で見、それからパッと手裏剣を召喚して見せた。
「……出た」
「うそぉ!?」
馬場の手には忍者アニメや時代劇でおなじみの十字手裏剣が握られている。
「馬場さん何で!?
手裏剣触ったことあったの!?」
「え!?
あ~うん……」
「何で!?
馬場さんもしや本物の忍者!?」
鹿島の食いつきように馬場は戸惑いながらも答えた。
「いや、本物の忍者じゃないけど……私が小学校6年くらいの時に何か発売されたんだよね。一つ500円ぐらいで……で、それを買って遊んだことがあって……」
「遊んだ!?
手裏剣で!?」
「うん、こう……投げて?」
そう言うと馬場は近くの樹に向かって手裏剣を投げる。手裏剣は回転しながら勢いよく飛んで行き、スカンッという小気味よい音を立てて木に突き刺さった。
「すげー!!」
鹿島は絶賛したが馬場はチョット残念そうに苦笑いしながら、手裏剣が突き刺さった木に向かって歩き始めた。
「いや、でもすぐに取り上げられたんだよ。
危ないからって……手裏剣はそれっきりだったなぁ。
取り上げられた手裏剣は多分、捨てられたんだろうね。
ちょうど刃物やエアソフトガンの規制が強化され始めた時期で、刃物を買う時に身分証提示しなきゃいけなくなったのって、その後すぐぐらいじゃなかったかな?」
馬場や鹿島が子供の頃は色々と規制が緩くて自由だったのだ。小学生が刃のついた手裏剣なんて危なっかしい物を買えたんだから、今の常識からすればフリーダムすぎると評して良いくらいだろう。
「ああ、そういえば『月刊・銃』とか『バトル・マガジン』とかの裏表紙の広告に手裏剣あった!」
手裏剣を回収した馬場はパアッと表情を明るくして鹿島を振り返る。
「でしょ!?
アレだよアレ!
コイツがまさにそう!!」
馬場は鹿島に十字手裏剣を見せびらかすように
「馬場さん、他にも手裏剣召喚できる?」
鹿島は期待に目を輝かせて尋ねたが、馬場は残念そうに首を振った。
「いや、私は十字手裏剣だけだよ。
同じ時期に棒手裏剣とか八方手裏剣とか色々発売されたんだけどね。
私の当時のお小遣いじゃ、一つしか買えなかったんだ」
当時漫画の単行本だって400円しなかったぐらいで、小学生にとって500円はじゅうぶん大金だったのだ。小学6年生の月々のお小遣いが500円ぐらいが相場だったから、サラリーマンの金銭感覚に合わせれば10~20万円に相当するだろうか。
「ん~……じゃあ、その十字手裏剣を更に何枚か召喚できる?」
「え!? うーん……」
戸惑いながらも馬場は手裏剣の召喚を繰返す。
「2枚、3枚、4枚、5枚……なんか、いくらでも召喚できそうだな。
8枚、9枚、10枚……まだ出す?」
馬場が鹿島の方を見ると、鹿島は目を閉じてギューッと顔に力を入れて小さな唸り声を上げていた。
「鹿島さん?」
馬場の呼びかけに鹿島はハッと我に返る。
「あ!? ああ、大丈夫……ボクじゃ手裏剣召喚できないみたいだ。
やっぱ触ったことがあるのじゃないと無理なのかな……
試しに1枚貸してくれますか?」
「いいよ……はい」
馬場から手裏剣を受け取った鹿島はそれを眺めまわし、それから手裏剣を左手に持って目を閉じた。
「んん~~~~……ダメだ。やっぱ召喚できない」
「ええ~~~……向こうの世界で触るか使ったことのある道具じゃないと召喚できないってこと!?」
「そうかもしれませんね」
鹿島は残念そうに言いながら馬場に借りた手裏剣を返そうと差し出した。が、馬場は受け取りを拒否する。
「いやいいよ、あげる」
「え!? いいの?」
「うん、私らにとって貴重な武器らしい武器だし、あった方が良いでしょ。
私はまだ召喚できそうだし、この10枚は鹿島さんにあげるよ」
そう言うと馬場は手持ちの9枚の手裏剣を鹿島に差し出した。鹿島はそれをオズオズと両手で受け取る。
「ええ……じゃあいただきますよ。
なんだか悪いですね」
「代わりに何か召喚してくださいよ。
武器になりそうなの。
できれば野犬とかぐらいには立ち向かえそうなのがいいんだけど……なんかないですか?」
受け取った手裏剣を“収納”した鹿島は馬場の注文に苦笑いしながら首をひねった。
「そうは言ってもなぁ……
ああ! そう言えば!!」
「何かあった!?」
表情を明るくした鹿島に馬場が期待を寄せた次の瞬間、鹿島の手には
「やった!」
「なにソレ、銛!?」
長さ1mくらいで緑のビニールかなにかでコーティングされたパイプの柄の先に、まるで針金のような四つ叉のフォークが取付らえたものだ。フォークの一本一本には返しが付いていて、突き刺した魚に逃げられないようになっている。
「そう! 実家でダイビングとかやってた時に使ったんですよ!
懐かしいなぁ……」
「ええ~、鹿島さん銛で魚とか突いたんですか!?」
「小魚ぐらいですけどね~
野犬ぐらいはコレでも何とかなるカモだけど、イノシシとかは無理かなぁ」
鹿島は言いながら思い出に浸るように銛を眺めまわした。しかし、馬場はそれを使いたいとは思わない。魚を獲るのが目的ならその銛でもいいかもしれないが、欲しいのはこの森で遭遇するかもしれない危険な動物に対処するための武器なのだ。鹿島自身がイノシシは無理と言っているんだから、危険な獣に遭遇したら役に立たないだろう。
「か、鹿島さん、他にはないですかね?」
馬場に催促され、鹿島は銛を“収納”しつつ考えた。
「ほかにですか……うーん、そうだ!」
「何!?」
鹿島は表情を明るくしたが、馬場の鹿島への期待は前回ほど盛り上がらない。
「これなんかどう!?」
そう言って鹿島が召喚したのは草刈り鎌だった。
「か、鎌?」
馬場の表情は明らかに困惑気味である。
「そう、忍者といえば鎌でしょ!?」
「いや、それを言うなら
てか、鎖鎌って言ったら
忍者じゃないし!
そもそもソレ、鎖がついてないから鎖鎌じゃないし!!」
ムキになって否定する馬場に鹿島は呆れたように苦笑いを浮かべた。
「細かいなぁ馬場さんは」
「こ、細かくないし?」
「まぁ忍者はさておき、この鎌見てくださいよ!
この鎌の輝きこそ、ボクらを象徴しているとおもいませんか?」
鹿島はそう言いながら悪戯っぽく笑い、鎌を翳してその鋭い刃をキラリと光らせた。
「わ、私らを?
どこが?」
「ふっふっふ、この鉤型に曲がった鎌の輝きですよ……すなわち!」
自信満々の鹿島はキメ顔で言った。
「ハーケン【
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