青田と渡瀬

魚飼

第1話

「ごめんな、家まで来てもらって」

「ううん、大丈夫。なんか久しぶりだね」

「先々月、東京で飲んで以来か」

「青田のお母さんに会ったの十年ぶりかな。あんまり変わってないね」

「渡瀬が変わりすぎなんだよ。お袋、ドア開けた瞬間、お前の姿見て固まってたぞ」

「まあね」



「今日は外に出られそう?」

「あまり遠出しなければ大丈夫だと思う。車でもいいか?」

「ドライブいいね、学生のときみたいで懐かしい。でも、療養中なのに無理やり連れ出して、運転手までさせちゃって、なんか悪いね」

「いや、むしろありがたいよ、休職してまだ半月だけど、毎日とにかくヒマなんだ」



「青田、電車が怖いの? さっきお母さんが言ってた」

「電車がというか、線路のつながってる先にある職場が怖いんだろうな。改札を通った瞬間、笑っちゃうくらい足が動かなくなる」

「けっこう重症じゃないのそれ」

「だから休職してるんだよ。ついでに言うと、大きな音と、強い光も無理だ。花火とか、映画とか」

「ずいぶん大変な目に遭ったんだね」

「まあな」



「で、その格好のことは聞いてもいいのか?」

「これ? 青田のお母さん驚くかなと思って」

「まず俺が驚いたわ」

「いいじゃん、似合ってるでしょ。初めてスカート穿いて外に出てみたけど、結構気分上がるねこれ」

「まあ、俺が穿くよりは似合うかもしれないな」

「丈が短いのは病人へのサービスでーす。これで元気出してね♪」

「ありがてえな、三十四のミニスカ」

「歳のことは言うな」

「はいよ。車出すぞ」

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