第8話 汗と泥と、ちょっとの自信

「汗と泥と、ちょっとの自信」



住み込み研修が始まって数日。

リナは毎朝、まだ空が白んでいるうちから動き出す生活を送っていた。


最初の頃は、

(え…無理…朝、早すぎ…)

と弱音を吐きそうになっていたけど――


今では、寝ぐせのままでも小走りで飼育小屋に向かう毎日。


「リナちゃん、おはよう!」

「今日はワラビー担当お願い~!」


スタッフたちとも打ち解けて、笑いながら働けるようになっていた。


動物たちの餌やり、水の交換、ケージの掃除、園内の見回り。

どれも地味で大変な仕事だけど、リナにとっては全部が新鮮だった。


特にお気に入りは、レッサーパンダのミナミ。

小さな手でリンゴをもぐもぐ食べる姿を見るたびに、疲れも吹き飛んだ。


(動物って…なんか、言葉じゃないけど、伝わるものがあるなぁ)


都会でのひとり暮らしでは感じられなかった“つながり”が、ここにはあった。



そんなある日。

昼の休憩が終わり、そろそろ仕事に戻ろうとしたとき。


「真田!」


――背後から、ズンッと地を揺らすような声が。


(えっ、怒られる!?)

一瞬ビクッとしたが、そこにいたのは園の部長だった。


リナは慌てて立ち上がり、背筋を伸ばす。


「はいっ!部長!」


「あと2日で研修も終わりだな。スタッフから聞いたぞ。

 真田、お前は気が利くし、動きもいい。なにより面白いってな」


「えっ……ほ、本当ですか!?」


リナの目が丸くなった。

まさかそんなふうに評価されてるなんて、思ってもみなかったのだ。


「お前の明るさで、場の雰囲気が和むって話だ。

 最初は心配してたけど、正直…来てもらってよかった」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじわりと熱くなった。


(がんばってよかった…)


「こちらこそ、本当にお世話になりました!

 初日は不安しかなかったけど、今は毎日が楽しくて…

 この場所に来れて、本当に感謝してます」


リナは深く頭を下げた。


部長はニカッと笑って、


「じゃあ最終日、送別会でもやるか。みんな集めて」


「えっ!?そ、そんな…恐縮です…!」


「なに遠慮してる。リナにはそのくらいの価値があるよ。

 お前が来てから、スタッフの笑顔も増えたからな」


リナは、もう何も言えなかった。

自分の存在が“誰かの役に立っている”と感じたのは、生まれて初めてかもしれない。


(私…ここまで来てよかった。進学して、来て、動いて、本当に…)


目頭が熱くなるのをごまかすように、リナは空を見上げた。


どこまでも青く澄んだ空が広がっていた。

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