第46話



「話を戻しますね。私が調べて、相手が魔族とわかったら合図をしたいのですが……それを何段階か分けて決めておこうかと」


「……? どういうことだ?」

「相手は魔族、つまり討伐対象としては、最低でも上級冒険者の領域です。用心に越したことはありません」


 冒険者の間で、魔族はドラゴン並の脅威と言われている。

 とはいえその話も、滅多に会えず、というか会っても分からない非常に珍しい魔物であるがための噂話にすぎない。

 実際に魔族に会ったという冒険者の知り合いも俺にはいないし。


 魔王軍とかみたいに自分から名乗ってくれたらいいんだけどな。

 流石に人間で魔族を名乗るやつはいないだろう。


 強さの話も実際のところ使用する魔法によって幅があるらしく、誇張されている部分もあるらしい。

 魔物の中では確実に強い、というのは間違いないのだろうが……。


「ししょー曰く、魔族って大体4段階に分けられるんだそうです。下位、中位、上位、そして最上位。魔王は別枠とのことですが」


「へー、冒険者的には単に魔族としか言われてないけど違いあるんだ? 強さの違い?」

「……教会では特に区分はありません。……特定の魔族は討滅対象として名簿に載りますが」


「まぁ魔術院でも具体的な区別はされていないのですけどね。魔術師にとっては全部等しく脅威ですし。世代的なものもあるらしいんですが私も正直違いがあまり分からなかったので、ししょーに分かりやすく強さや危険度の数値で例えてもらいました」



 と、エステルの指が光り、空中に文字が書かれた。これも魔術なんだろうが……すごいな。

 まるで、当たり前のように何気なく、不思議なことを見せてくれる。本当にあいつみたいだ。



「まず、前置きの強さ指標としては、中級冒険者が20から40くらい、上級冒険者が30から100くらい、らしいです」


「いや、上級の幅広すぎない?」

「冒険者ギルドには上級より上の区分が無いらしいので……」


 それは俺も思ったが。まぁ確かに上級って言われてるやつの中にも、聖剣無しで勝てそうなやつとかチラホラいるな。


 逆に、聖剣があれば戦えるだろうけど勝てるかはわからない、というようなとんでもないやつも見たことある。

 そういう奴らは英雄とも呼ばれ、特別な依頼が来たり来なかったり……まぁ縁が無いからこれも噂なんだが。



 ……聖剣から若干抗議の意思が届いた。そうだな、お前と一緒ならどんな相手にも勝てるはずだ。うん。


 むしろ俺が聖剣の足を引っ張ってるというか、使いこなせてないというか……。

 もっと頑張らないとな……。



「ドラゴンの平均が40くらい。そして魔族の平均もそれくらい、らしいです」

「なる。それが魔神さまの見立てなら、ドラゴン並っていうのも誇張じゃないってことね」


「……その数値は、経験などに基づく判断なのでしょうか?」

「知識と経験と鑑定、らしいです。魔術も使っているようですが、私は未熟なのでよくわかりませんでした」

「鑑定魔術……」

「実際は持っている技術や知識、武器などで数値より多少上下するらしいんですが、、らしいです」


「…………そうですか」


 ?

 なんかアリアが珍しくドン引いてる気がするが、今の話の中に何かあっただろうか。

 要するに、達人が相手を見て実力を測る、みたいなもんじゃないのか?



「うーん。要するにさ、人間みたく魔族にも強さの幅があるってことでしょ?」

「そうですね。といっても魔力生命体に近いので、人間とは違い眷属的な関係性が存在の力に直結するようです。具体的には、魔王に近いほど強くて偉いとかなんとか」

「えぇ、やだなぁ……なんか血統主義みたいでエルフっぽいじゃん。こっちは強さとかあんま関係ないけど」

「もちろんその中でも個体差はあるみたいですけどね。私たちの実力であれば、中位魔族ぐらいまでなら特に問題はないかと。ですが……上位になるとそれなりの消耗を覚悟する必要があると思います」


「上位魔族……」


「街にいる魔物の反応は1つって話だったっけ? 魔族ってあんまり群れないって聞くし、そもそも数少ないって話だし、戦ったとしても4対1になると思うけど、上位魔族ってそんなヤバい?」

「まぁ私とアリアさんの2人で回復できるので、それなりの怪我くらいで済むんじゃないでしょうか……? 私自身、ししょーの話と素材化した魔族の成れの果てを見ての推測なので、見立てがどれくらい当てになるかはわかりませんが……」

「なるほどな」


 例えば、ドラゴンを基準に当てはめるなら、下位がレッサー級、中位がノーマル級、上位がエルダー級といったところか。

 そんな依頼滅多にないが、エルダードラゴンの討伐は上級冒険者が複数人であたるようなクエストになる。上位魔族はそれほど危険、ということだろう。


 俺たちのパーティとしての実力はおそらく、上級冒険者たちと比べても遜色ないはずだ。

 俺は聖剣頼りなのがちょっと情けないが……大抵の魔物には勝てると思う。


 ……夢の中の勇者は、どういう風に魔族を倒していただろうか。

 内容をあんまり覚えていないのが残念だ。


「なので、下位か中位の魔族なら、周りに影響が出ない形で、私がそのまま攻撃します。それを合図にしてください。流石に一撃で仕留めるのは難しいかと思うので、追撃をお願いします」

「おっけー」

「わかりました」

「了解だ」


「もし上位なら、補助に徹します。時間を稼ぐので、アルさんがぶった斬ってください。その剣の力なら、当たりさえすれば仕留められるはずです」


 聖剣がやる気マンマンにビカビカ光っている。

 まぁ御伽話の中でも、魔族を斬るための神剣だと言われているほどだ。やれるだろう。


「……というか魔族って、聖剣の魔力無効化で無力化はできないのか?」


 魔族が魔力生命体に近いという話であれば、うまくやればそれだけで倒せるんじゃないか?

 と思ったんだが。


「その剣の無効化の仕組みがわからないのでどう作用するかは不明ですが……おそらく魔法を封じるに留まると思います」


 どうだろう。夢の中なのではっきりとはわからないが……言われてみれば過去の勇者も聖剣の光だけで倒すことはなく、直接斬っていたような気もする。

 いくら魔力に近い、といっても生き物として存在している以上、生命としての機能は残るということなのだろうか。


「弱体化はするでしょうけど、魔族は身体能力も高いですからね。肉体派の魔族も珍しくないって話ですし、油断は大敵ですよ」


「……それで、あのさ。もしも、最上位魔族ってやつだったらどうするの?」


「皆さんに逃げてもらいます」


「え?」


 恐る恐る、といった調子で聞いたベルに、真顔で応えるエステル。

 当たり前のように。最初から答えが決まっているかのように。


「最悪その場合、判定術式で触れた瞬間に気づかれる可能性が高いでしょう。フィードバックが来るはずなので即座に転送術式で皆さんを安全な場所に送ります。同時に、隔離用の結界術式で相手を閉じ込めます。これはししょーが術式実験用に使う特別な結界なので、何があっても周囲に被害は出ないはずです」


「え……どういう……?」

「おいちょっと待て。……そのあとエステルはどうなる?」


 逃げる、それはいい。

 戦わないことも戦術の一つだし、冒険者の鉄則として、勝てない勝負にこだわるべきではない。


 だが、この話の場合、エステルは残らなければならないことになる。

 エステルが一人だけ残って、対応することになる。一人で、何ができる。何をするつもりだ。


「その時は奥の手を使うので大丈夫です。私にも切り札の一つや二つ、ありますから。強力すぎるので隔離するための結界が必要になってしまうだけって話で」

「本当に大丈夫……なのか?」


「大丈夫、大丈夫ですって。……あれですよ、師匠にどんとまかせんしゃいってやつです」

「……そう、か」


 エステルは俺よりも間違いなく頭がいい。

 おそらくこれが最適解だと思ってるし、実際そうなのかもしれない。

 つまり、俺たちを足手纏いと判断した?


 多分違う。

 前に模擬戦をした時の感覚では、俺個人はともかく、聖剣を含めた俺たちの実力とはそこまでかけ離れていないはずだ。

 それでも俺たちを逃がすということは、誰かがいては出来ないことを、やろうとしている。


 でも、そんなの、勇者としても、俺の気持ちとしても、見逃せそうにない。



「……その剣は無敵かもしれません。ですが、アルさんは生身です。どれほど凄い剣でも、自分で動けない以上……身体的実力を大幅に上回っている相手と戦うのは無謀です」

「っ……だけど」

「勇気と無謀は違いますよ。仮に無謀にしか見えない状況になったとしても、勝算があればこその、勇気なんです。私には、後先も状況も関係なく、全部壊せる最後の手段がありますから」



 一人なら、そんな相手にも勝てるというのか。それを、勝算と呼ぶのか。

 エステルがどうなるかわからないという結果の上で得た勝利を、俺たちは勝利と言えるのか。


 それも、これも、全て俺自身の弱さがもたらすかもしれない未来。



 本当にそれで、いいのか。


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