貴方を殺してもいいですか。
果名
第1話 崩壊
【プロローグ】
「殺したい。」
そう思った。何回目のことだろう。「死ぬ(笑)」とか「お前マジで次やったら殺すよ?(笑)」とかっていう言葉はおふざけで使われることがあるが、そうじゃない。本当に殺したいんです。
宮川華月。19歳。大学2年生。
殺したいのは、家族です。
【1】
午前8時10分。起床。今日は大学がお休みの日。いわゆる全休ってやつだ。とはいっても普通の金曜日なので家族はバタバタしている。かったるそうに階段を降りて洗面所に向かうと、いかにも不機嫌そうな弟、奏人が一丁前にヘアセットをしている。機嫌を損ねるとめんどくさいので、横からそっと洗面台の前に割り込み、鏡に写る奏人に私の醜い寝起き姿が被らぬようにうがいをする。そしてそっと出る。朝の気遣いには私なりのパターンがあって、今のはパターン1「私は貴方より腰の低い人間ですよ作戦」だ。パターンは全部で3つあり、日によって使い分けている。我ながら賢い人間だ。ちなみに我が家にはおはようの挨拶は存在しない。全員時間ギリギリで、全員自分のことで精一杯だからだ。朝ごはんを何にしようか考えていると母はもう家を出る時間になったらしく、玄関から声が聞こえる。
「じゃあ、行ってくるからね!お昼ご飯冷蔵庫にあるからー」
はーいと返事をし、直後ドアと鍵の占まる音がする。追いかけるように奏人が玄関に向かう。ぶっきらぼうな顔をしているが、一応いってらっしゃいと声をかける。もちろん反応はなく、ガチャンと玄関を閉める音だけが返ってくる。朝の奏人ほど不機嫌なものはないだろう。朝以外なら結構話をしてくれたり、一緒にご飯を食べたりするのに、昔から何故か朝だけは超不機嫌。これでやっと家には私一人になった。外から幼稚園バスが園児を迎えに来たであろう声がする。4月や長期休み明けは泣きわめく声が多数聞こえるが、世間はあと少しで夏休み。園児たちも泣くことなく、元気な行ってきますの声が聞こえる。微笑ましいなぁと思いながら、家の中の静けさが妙に気に食わないのでテレビをつける。つけるだけつけてよいしょと立ち上がり、キッチンへおにぎりと牛乳を迎えに行く。ついたテレビのチャンネルはどうやらニュースのようで、アナウンサーが淡々と原稿を読み上げる声が聞こえる。牛乳を注いで、おにぎりを手にして、テレビの前に戻る。か細い声でいただきますと言う。ぼーっとニュースを見ながらおにぎりを頬張る。どうやら都内で性犯罪を繰り返していた男が捕まったらしい。盗撮やら痴漢やら下着泥棒やら、まぁようやりますなぁとむしろ感心する犯罪内容だ。こんなのダメだってわからないもんかね。加害者の元同級生が取材に応えている。ぼーっと見ている割に、自分の知り合いがこんなことをしていたらどう感じるんだろうとか、家族が犯罪者になったら縁切れるのかな、とか色々考えてしまっている自分が居た。考え始めるとキリがない。カタカタカタと音を鳴らしながら首を振る、古い扇風機の風の生ぬるさが首を撫でる。リモコンを手にしてチャンネルを変える。カチカチとチャンネルを変えると、動物を特集している番組が目に入った。ぼーっとしていたのが嘘のようにテレビに食いつく。子猫が口周りを汚しながら一生懸命餌を食べている。それだけなのに、番組の人達も私も、その子猫に釘付けになる。かわいい。かわいすぎる。癒しとはまさにこのこと。猫もいいが、我が家には唯一私が家族で愛している存在、カメのみーたがいる。みーたは私のことが1番好きらしく、私以外が餌をあげても食べないこともある。動物は人間のことをよく理解している。やっぱりカメちゃんでもわかるよねぇ私の良さってやつが。癒しの動物番組を見つつ、おにぎりを完食していく。ごちそうさまでした、と手を合わせる。コップに残っていた牛乳を一気飲みする。ぷはぁ、と飲み終えると、着信音が鳴り響く。ブーッブーッと細切れに震えるスマホを手に取る。画面には「真冬」の文字。すかさず電話に出る。
「お、でたでた!この時間起きてんの意外だけど助かるぅ~」
「おはよう真冬。こんな朝っぱらから何の用?」
「おはようおはよう!いやぁさ、今日暇かな~と思いまして~」
少々テンション上がり気味の声にいい予感がする。しかし警戒心は高めでいかないと。
「用件を先に言いなさいよ用件を。」
「あのね、今日バイト休みなのよ!」
「うん。」
「それでね、昨日の夜掃除してたら買って一回も使ってないタコ焼き機がでできたのよ!」
「ほぅ。」
「でねでね、今日何時でもいいからタコパしたいなぁと思いましてよかったら…」
「やりましょう。」
「いやっはー!いやその返事を待ってたんですよぅ!」
「でも今日10時から15時までバイトなの。そのあとでもいい?」
「全然かまわん!買い出し一緒に行きたいですぅ!」
「じゃあ真冬んちの最寄り駅に16時ならいけるよ」
「おっけい!部屋片付けて待ってるわ!」
「はーい。」
「じゃ、またあとでね~!」
ティロン、と通話の切れる音がする。なるべく家にいたくないので真冬のお誘いは正直ありがたい。真冬は大学に入ってすぐ仲良くなった女の子で、学校の近くで一人暮らしをしている。最初はとてもおとなしい子という印象だったが、仲良くなればなるほど明るくて、テンションの高い子になっていった。いつだってクールに取り繕う私とは反対側にいるような、そんな子だった。ふと時計を見ると午前9時を過ぎるところだった。そろそろバイトの準備を始めないと間に合わなくなる。その前に、親に連絡を入れる。
「今日はバイトの後、そのまま友達の家に泊まるから夜ご飯いらない。月曜までには帰る多分。」
当たり障りのない文を送信する。そして別のトーク画面を開く。
「今日は友達の家に泊まるから連絡頻度落ちる、ごめんよ(>_<)」
顔文字のついた文章を送信する。彼氏の凪へのメッセージだ。一通り必要な連絡を済ませて、メイクをしに洗面所へ向かう。真冬の家に行くだけならすっぴんでも許されるのに、バイトとなるとメイクなしでは許されない。これは世間が、とか社会が、ではなく私が私を、許せないのだ。別に誰も私の顔面なんて見ていない。私がすっぴんで働く私を許せないだけの話。これが本当の社会人ならまた話は変わってくるかもしれないけれど、学生バイトの身分ではこのくらいの感覚で許されるだろう。壮大な顔面工事を済ませ、バイトとお泊りに必要な最低限の荷物を持ってバイト先に向かう。バイト前にカメのみーたに餌をさらさらとやる。じゃ、いってくるね、と言い玄関に向かう。部屋の電気を切ったことを確認し、スニーカーを靴棚から取り出す。かかとを踏まないように靴を履き、玄関のドアを開ける。想像以上の曇天に一瞬傘の存在が頭をよぎる。うーーん…と悩み、靴棚の横に放ってある誰のものか分からない折り畳み傘を持ち出す。外に出て家の鍵を閉める。晴れていないのに暑いとかいう視覚情報と体感が合わない気持ち悪い天気と、やけに強く吹く生温い風にいら立ちを覚えながらバイト先へと向かった。
【2】
バイトを終え、真冬の最寄り駅に到着した。とりあえず真冬に連絡をする。夕方と言えど暑いので、私が到着してから駅まで来るように伝えてある。真冬は10分ほどで到着するはず。いつもの銅像の前で待つことにする。人通りはそこそこで、近くの高校の制服を着た子たちがスタバを片手に楽しそうに会話をしている。勉強や生徒会活動で埋め尽くされた私の青春とはまた違った青春で、少しだけ羨ましさを感じる。銅像の前にも少しずつ人が増えてきた。まだかなと首を長くしていると、真横から
「華月!」
と呼ばれた。強烈なボディタッチと共に。
「んわぁいってぇよ!」
「うはは~ごめんごめん!おまたせ!」
「買い出しの前に、はい、これ」
「お!今日はなんだ!」
がさがさと袋を漁る真冬。毎回泊まらせてもらう日は差し入れを持っていく。今日は
「ぉあ~!!欲しかったガチャガチャと箱ティッシュだぁ~!マジ助かる!」
欲しがっていたガチャガチャと、万年鼻水垂らし小僧の真冬の必需品、箱ティッシュだ。箱ティッシュといってもビニールに包まれているタイプのティッシュで、こっちの方が使いやすいと言っていたので最近はビニールタイプのティッシュを差し入れしている。
「いつもありがとうね本当に~!」
「こちらこそ泊めてくれて感謝よ。よし、行こうか!」
「行こう!あっちのスーパーが一番安い!」
「おっけい!」
真冬が持っていた差し入れを手に取り歩き出す。
「んえっ、持ってくれるの?」
「もちろん、差し入れたの私だし、この後荷物増えるし。」
「彼氏にしてぇ~!」
「やめとけ絶対。」
そんなこんなで喋りながらスーパーへ向かう。
「そういえば華月はテストありの科目もうないの?」
「うん、もうないよ。」
「レポートは?」
「提出済み。」
「さすがぁ~!」
「ん~まぁ、それほどでも?」
そんなこんなでスーパーに到着。カゴを持ち、タコが売っているであろう鮮魚コーナーへ向かう。真冬は一目散に鮮魚コーナーに向かい、タコをさも大事そうに抱えて持ってきたが、タコだけ買ってもたこ焼きはできないので、具材を真冬に任せてたこ焼き粉やネギなどを買いに行く。さらにタコパ、と言いつつたこ焼きの中身はタコだけだとサイフの中が寂しくなってしまうので、チーズやウィンナー、デザート枠でチョコレートなどを購入した。お会計は仲良く2人で半分こ。たこ焼きの具材やら、思わず買ったアイスやらが入った袋を手分けして真冬の家まで運ぶ。どれくらい食べるだとか、私の方がうまく作れるだとか、くだらない会話を延々とする。夕方なのにまだ空は明るくて遠くの方が紫がかっている。俗に言うエモいってこういう感じなのかな?なんて思ったりもする。でもアイスが溶けちゃう!って言いながら早歩きで、授業より真剣に荷物を運ぶ真冬を見ているとエモいなんて感覚はなくなる。
「ここから人通り減るから走ろうよ!」
あ、一応他人への気配りはしていたのね。
「っしゃ走るか!」
コンクリートの上り坂を二人で駆けていく。途中で真冬が転びかけて思わず笑ってしまう。夏の夕方特有の生暖かい空気も、今なら全く気にならない。私の長い長い夏は、年齢に見合わない青春の欠片から始まった。
…ちなみにガチ走りは久々だったので膝が悲鳴をあげた。
【3】
「うっっっわこれはやだ!」
「でしょ!?結構目障り(笑)」
真冬主催のタコパは中盤を超えて終盤に差し掛かっている。私も真冬もたこ焼き(正確に言うと2人とも作るのが下手で丸くならなかったのでたこ焼き(仮)だが)をたらふく食べて、今はおしゃべりに没頭している。最初は学校の話、授業の話、気になるアイツの話、などなどよくある話をしていたが、夜が更けるにつれ、段々とディープな、そしてネガティブな感情が纏われた話になっていく。
「しっかし華月は本当に家族嫌いだよねぇ~」
「でも好きなところはあるよ?一応ね。」
「ママと買い物行った話はよく聞くし、ぱっと見は仲良さそうなのにね?」
「買い物してる時のママは好き、前よりはママのこと好きかな。」
「お、反抗期終わりか!」
「いや反抗期で嫌いなわけではないのよ(笑)」
かく言う真冬も親とは相当な不仲らしく、実家に嫌気がさして大学進学を機にこっちに越してきたらしい。
「親とか家族って、この年になると要らなくない?とか思っちゃう。」
「それな~!こうやって華月とご飯食べれればいいや~」
「私が凪と結婚したらどうする?」
「んん!その可能性があるのか!」
うーむとわざとらしく悩む真冬の姿はなんだか面白くてふふっと笑ってしまう。
「そしたらあれだな、たこ焼き器持って2人の家押しかける!」
「なんでたこ焼き器(笑)」
「タコパしたくない?(笑)」
「たこ焼き器がない家でやらんだろ(笑)」
「だから持ってくんじゃん???いや知らんけどな!」
実にくだらない。だがそれでいい。某芸人の持ちネタのようになってしまったがそれは本心だ。こういうやりとりができる人間がそばにいてよかったと心の底から思う。
「お酒飲んでないのにもう眠くなってきた…」
ふわあああああと真冬が大きすぎるあくびを一つ。
「あくびまで騒がしいの才能じゃん。」
「でしょ~?今何時~?」
スマホに目をやると時刻は午前1時。そりゃ眠くもなるわけだ。
「もう寝る?」
「そうしよ~メイク落としてきな~風呂は朝シャンでいいよね?」
「そうしよ、メイク落としシート持ってきたからすぐ寝れるよ。」
「寝泊まりする側の進化えげつないぃ」
よっこいせと立ち上がり、自分の荷物からメイクシートと手鏡を取り出す。
強くこすりすぎないようにそっとメイクをふき取る。私が私に戻る瞬間。朝の努力を水に流す瞬間。別に自分のすっぴんが死ぬほど嫌いとかではないけれど、この顔を自信ありげに世に晒すことはできない。
「彼氏にすっぴん見せたことある?」
眠いと嘆いていた真冬がニマニマしながら聞いてくる。
「今はないよ」
「今は…?」
「来週お泊りデートなのよ。」
「うわっ…!まじか!えぇー楽しみじゃん!」
「正直結構緊張してるけど。」
「華月が緊張とか珍しいじゃん!どの授業のプレゼンも余裕綽々だったのに。」
「いやプレゼンとお泊りは別物でしょ…(笑)」
「その不安、真冬様が解決してあげましょう!!」
「寝るんじゃなかったの?」
「目覚めた!」
「長い夜になるよ~?」
「受けて立つ!!」
そういうと真冬は起き上がってスマホをいじり始めた。すっかり目が覚めってしまったようで、明日のアラームの設定を全消ししている。
「よし、これで寝坊仲間!!」
「明日用事なんもないけどね。」
メイクを落とし終わった私はいそいそと真冬の横に座る。早く話せと言わんばかりの真冬のまなざしに、思わず笑ってしまった。
「なんでも聞くしアドバイスもあげちゃう!どんとこい!」
「ガチきもくても許してね。」
「それはいつもだ!」
「おいてめぇ。」
わちゃわちゃと話をしていく。男の子との交際経験がないわけではないが、凪のようにここまでまともに自分を受け入れてくれる男の子は初めてなので、付き合って1年以上経つのに、未だに何をするにも緊張してしまう。お泊り1週間前ですでに昨日から緊張で上手く寝れていないから、真冬に話を聞いてもらうのがとてもありがたかった。中高生のように甘い恋バナできゃっきゃする時間ではなく、本気の恋愛相談。生々しい言葉が飛び交っていく。もうあの頃のように綺麗ごとだけで恋愛をするなんてできない。「頭がいいから」「足が速いから」「優しいから」だけであんなに盛り上がっていた時代とは程遠い。これが成長というものなのか。大人というものなのか。だとしたら少し寂しいと思ってしまう。純粋な恋心はどこに置いてきたのだろう。
「まぁ確かにこの歳のカップルでお泊りはもう身体の関係作る確定演出だよね。」
「だよねぇ…絶対無理なんだけど。」
「でも華月ナイスボディじゃん?」
「そこは個人の判断だからどうだっていいんだけどさ、」
「純粋に嫌だってこと?」
「そういうこと。何かグロくない?」
「言いたいことはわかる、万が一…とかね」
「いやぁそこなのよ!でも身体の関係なしなんて浮気されて終わるよ…」
「素直に凪くんに言ってみたら?お得意のプレゼン方式で…(笑)」
「プレゼンなら緊張しないか…っておい無理だろそんなん。」
リアルな悩みは尽きることなく、どんどん夜が更けていく。冗談を挟みつつも真剣に聞いてくれる真冬は、さっきまで眠そうにしていたのが嘘のようにはきはきと喋っている。なんなら集合した時より元気だ。こんなディープな話は真冬以外にはできないなと思う。そもそもの友人の数が少ないが、ここまで話のテンポがあって、さらに困っているときに頼りになる人間はそういない。喋る喋る。どんどん喋る。言葉に詰まることはない。無数の言葉が流れる川のようにすらすらと、時に激しくなりながら、2人の間を走り抜けていく。
時刻は午前4時。2人で唐突にやりたくなったアクションゲームをやっているうちに真冬が寝落ちした。数分後、自分の右側に真冬の温かさを感じながら、私も夢に導かれていった。
午前7時ちょうど。遠くの方から聞こえたスマホのバイブ音で目が覚めた。隣で真冬はすやすやと寝ている。起こさぬようそっとそばを離れる。音のする方に行くと、どうやら私のスマホが鳴っているようだった。こんな朝から何事だよと思いながら電話に出ると声の主は母親だった。
「やっとでた、華月?」
「朝から何よもう、寝てたのに。」
「ごめんね、ちょっと取り急ぎ話が合って、」
「なに?」
「あのね、奏人がね、」
そういうと少し間が空く。すぅっと一息。
「捕まったの。警察に。」
「え、」
母親の声は震えた声だった。
「え、なにしたのあいつ。」
「なんかね、盗撮だって…」
消え入りそうな母親の声。奏人が、盗撮、ね。
「いや、あんな小心者が犯罪?できるわけないでしょうよ。」
「もう確定だよきっと。じゃなきゃ家に警察来ないでしょ…」
どうやら朝一で家に警察が来たらしい。でも信じられなかった。奏人だよ?今じゃぶっきらぼうだけど、姉である私の後ろをいくつになっても着いてくるような弟だった。今だって機嫌のいい時はくだらない話に付き合ってくれる。家族で唯一、支え合いたいと思える人間だった。
「まぁそういうことだから。また何かあったら連絡するね。」
「待って、パパは?パパはいるの?」
「もう仕事行った。」
「そう。分かった。明後日には帰る。」
「わかった。帰る前に連絡してね。」
通話を終えた。なんだか他人の出来事を聞いた気分だった。家族が、犯罪者?よりによって奏人が?犯罪をしそうかしなさそうかで言ったらしそうだと言える。失礼な話、奏人は真面目ではあるがどこか抜けてて危なっかしいところがある。なにかしでかしてもおかしくない危なっかしさだが、さすがにこんな、しかも性犯罪だなんて。ぞくっと鳥肌が立った。私だって女だ。弟が「男」である現実を無理やり突き付けられた気がして、気持ち悪くなってきた。悲しさはないのに目から涙が出てきた。何の涙なんだろう。じわじわと視界を奪い、ぽたり、ぽたりと徐々に雫になって落ちていく。怒りと失望。悔しさもある気がしてきた。言葉にできない感情が、代わりに涙になっていく。涙がズボンを濡らし、手の温度を奪っていく。犯罪者。弟が。血縁関係にある人間が。
じゃあ私は、
犯罪者の姉じゃないか。
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