第26話





シマ達の補習も終わり、久しぶりの四人での下校にシマはいつも以上にテンションが高くなっていた。補習から解放された喜びもあるみたいだけど、家でもお姉さんに監視されながら勉強をしていたみたいで、そのお姉さんの監視付きの勉強会も補習が終わるまでとの約束だったらしいからこんなにテンションが高くなっているようだった。

学校にいても勉強、家に帰って来ても勉強でとんでもなくストレスが溜まっていたシマはこの日の放課後はいつも行くゲームセンターではなく駅前にあるカラオケに行かないかと誘ってきた。シマ曰くストレスが溜まったら歌って発散するのが一番いいとのこと。



「カラオケ、か……」


「あれ?一輝、嫌い?」


「嫌い、というか行った時ない」


「「え」」


「え?」


「え、一輝、ホントに高校生?」


「どういう意味だ、それ?」


「ありえなくね?カラオケ、行った時ないとか」


「え、そうなん?」


「燈!お前もか!!」


「珍しいよね!行った時ないの!」


「だよな、ハル!一瞬、オレがおかしいのかと思ったわ!」


「俺達、おかしいの?」


「おかしい、って言うか……、いや、おかしい。だって、絶対誘われるし行こうってならん?」


「……そう、なんだ?」



余程、カラオケに行ったことないことに驚いたのか目をかっぴらかれてこっちを見てきた。俺がこの表情をさせた原因だけど、その顔と声の迫力に圧倒されて後退りした。

カラオケに行こうなんてアイや結城からは絶対に誘われることはないし、俺も行かなくてもいいと思っていたから行った時ないことがそんなに珍しくて変なことだなんて考えたことがなかった。



「アイと結城は休日も部活だしな」


「あー……ね。そういう……」


「燈も?」


「……ま、そんなとこ」


「じゃあ!尚更、今日行こう!」


「そうだな。行こうぜ」


「カラオケか……カラオケって何するの?合いの手?」


「それはライクア○ラゴンの話じゃん」


「違うの?」


「歌うとこだから!いや、まぁ、合いの手してもいいけども!合いの手だけで終わんなよ!」


「一輝、アレ歌えるじゃん」


「どれ?」


「アレよアレ」


「どれだろ?」


「駄目だね~のやつ」


「……いや、それもライクアド○ゴンじゃねーか!」


「歌えるの?なら、良かったね!カラオケに入ってるよ!」


「え、あの歌、ガチでカラオケにあるの?」


「あるよ!」



カラオケに行く方向で話が纏まったことで駅前に向かうことにした。鞄を背負って急いで教室から飛び出した。学校を出てからカラオケに向かう道中に何を歌うのか4人で話しながら歩く。各々歌う候補を挙げるが、気づけばアニソンばかりになっていた。でも、4人が知ってるとなるとアニソンかゲームの曲くらいで。その話し合いの最中に燈が何か言いたげに俺を見つめているのに気づいて、どうしたのかと聞いても何でもないと言って話の輪に戻っていった。











「ここが、この街唯一の!カラオケ!」


「ここがあの……」


「これから長く世話になるところだから、受付の仕方も教えるから覚えろよ」


「わかった」



駅前にある噴水の真ん前にそのカラオケ店はあった。赤くドデカイ看板で目立つ外観に存在だけは認知していたけど、入店するのは初だから無駄に緊張していた。そんな俺達とは裏腹にいつもと立場が逆転したことで元気になったシマが意気揚々と入店した後に金魚の糞な俺と燈が続いた。ミハルは鼻歌を歌いながら一番最後に入店した。



「なてか、なんで二人共そんな固くなってんの?ただのカラオケだぞ?」


「そうだよ!楽しもうよ!」


「人前で歌うの合唱以外でした時ないから……」


「合唱と違って音外しても下手でもいいんだよ!てか、オレ達だってそんな上手かないからな!」


「下手で上等!さっきも言ったけどお互い楽しめればそれだけでカラオケに来た価値があるから!」


「それなら、いいけど」



カチコチに固まった俺達の背をシマとミハルに押されながら指定された部屋へと向かった。







  




「一番手、いただいてもよろしかー!!」


「いいぞ!いけ、ハル!」


「なんでそんなすぐに決められんの?」


「ハルはもう一曲目が決まってるから」


「オレの歌を聞けー!!」


「その台詞……、まさか?」



挙手して元気よく立ち上がったミハルはマイクを取って聞いてきた。そんな歌う気満々な姿を見せられて、駄目なんて言う奴いないしそもそも俺と燈は初カラオケで一番手になる勇気と度胸は持ち合わせてない。だから、必然的にシマかミハルのどちらかに歌ってもらわなきゃいけない。……何が言いたいかと言うと、ミハルの自主的な一番手への立候補は非常に助かるという話だ。ミハルの歌う前に言った台詞でとある曲を思い起こして燈と俺は期待から目を輝かせて歌い出すのを待った。

そして、イントロが流れ出した。



「ん?」


「あれ?」


「ふはははっ!」



予想していたイントロとは違うものが流れて驚く俺達を見て笑うシマに気にせずに歌うミハル。

一瞬にしてカオスな空間になった。



「いや、これ○いてセニョリータじゃん」


「どうして山○?」


「この曲、ハルの十八番!」



ノリノリでキメ顔をして歌う(ちなみに、振りも完璧だった)ミハルに腹筋を破壊されたのと一緒に緊張していた心も身体も壊された。そのお陰で燈も俺も初めてのカラオケを楽しんで過ごせた。












「一輝、めっちゃいい声だったな!」


「褒めてもなんも出ないぞ。……それに俺なんかより燈の方がハスキーでいい声だった」


「ぅぇっ……」


「か細い声出たな!」


「でも、確かに!一輝とは違った良さがあったね!」 


「……」


「褒められ過ぎて死んでる……」


「死んでねーし!」


「意外と楽しかったろ?またカラオケ来ようぜ!」


「ね!燈も楽しかった?」


「まぁ、予想以上に楽しかったから、……また来てやらんこともない」


「めっちゃ上からだな!何様だよ!」


「俺様」



わいわいと楽しそうに戯れ合うシマと燈が微笑ましくて無言で見ていると、ミハルがそっと俺の所に来た。



「一輝と燈って曲の趣味も同じなの?」


「ん?そうだな……、肯定も否定もしづらいな」


「え、どうして?」


「俺と燈は行き帰りは電車だろ?」


「そうだね」


「駅に着くまではウォークマンで音楽聴く時もあるんだけど、そん時に俺のウォークマンに入ってる曲聴く日もあれば逆の日もあって」


「うんうん」


「そこでお互い知らない曲とかも聴かせあっててそれでいい曲じゃんってなるとCD貸してお互い沼に落としあってたから、趣味が一緒だったというよりは一緒にされた?いや、したが正しいか」


「わかるようなわからないような?」


「俺はアニソン以外にもロックバンドとか好きでそれを燈に強制的に聴かせてたらハマってくれた」


「なるほど!燈はアニソンしか聴いてなかったのを、一輝の好きな音楽(もの)で染め上げたのね!」


「……んん?あってる、か?」


「てか、聴かせ合うって?どうやってなの?」


「どうやってって……イヤホン片耳ずつに入れて聴いてたけど?」


「ほーほー……」


「え、何?フクロウの真似?」


「仲良きことは素敵なことかな!」


「あれ?急に噛み合わなくなったけど。誰かに妨害されてる?」




片耳イヤホンと聞いた瞬間にミハルの目の色が変わったことには気づいたが、どうしてそんな目になるのかわからずに混乱する。何か話してはいけないことだったのだろうかと思っていると、ミハルは途轍もなく楽しそうな顔して「後でオレにもCD貸して!」と話がだいぶ前まで巻き戻った。さっきの反応は何に対してどんな感情だったのか気にはなるけど、ミハルはもう別の話題に移り話していたから聞く機会を逃してしまった。













「ただいま」


「……おかえり、一輝」



今日はカラオケに行って遅くなったから父さんがカラオケがある駅まで迎えに来てくれた。それなのに、家に帰って来ると癖になってる「ただいま」を無意識で言ってしまった。てっきり、父さんからも「それ車の中でも言った!」とツッコまれると予想していたのに、返ってきたのは「おかえり」の言葉だった。普段なら揶揄ってくる筈なのにどうしたんだろうかと心配していると父さんが何故か緊張しているような顔で話し始めた。



「一輝、最近、どう?」


「最近どう?……ってどういうこと?」


「え、あ……えーと、何も、変わらない?」


「別に何も……普通だけど?」


「あー、それなら良かった……」



俺の返事を聞くと心底安心した顔をした後にそそくさとキッチンの方へ行ってしまった。

お喋りな父さんのことだ。何か話したいことがあるなら、俺が聞かなくても話す筈だ。だから、今話さないってことは何か話したくないことなのだろうと自己完結した俺は二階の自分の部屋に鞄を置きにいく。

それにしても、最近変わったこと、か。

父さんの変な質問に俺まで落ち着かなくなって、さっきのやりとりばかり頭に浮かぶ。

何を聞き出したかったのか。あの時の父さんの表情からはさっぱり読み取れなくて胸が騒ついて仕方ない。深く聞きも話もしなかったということは、きっと解決したから話すことが無くなったんだ。内心もやもやが止まらないが、そう言い聞かせて部屋着に着替えた。

これ以上気を揉んでも仕方ない。

気持ちを切り替えて父さんがいる一階に降りる。キッチンへ行って話をしながら料理の手伝いを申し出た。料理をする父さんもいつも通りに戻っていたから、やっぱり杞憂し損だったかと安堵した。


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