25話 綻びる家族 3

 4人の視線が一斉にゾフィーに向けられる。ついに家族全員が揃ったのだ。


(まぁ、今度はお義母様まで出てくるなんて……これはますます騒ぎになりそうね)


オリビエは一歩下がると、騒ぎの行方を見守ることにした。


「あなた! 今ミハエルが言っていたことは本当なの!?」


ゾフィーは険しい顔で、ヒールをならしながら近づくとランドルフの前で足を止めた。


「ち、違う! 彼女はただのウェイトレスで、私は単なる客だ! それだけの関係だ! 断じてお前が考えるようないかがわしい関係では無いからな!」


ランドルフは早口でまくし立てる。


「何ですって!? いかがわしい関係ですって!!」


ゾフィーの顔が増々険しくなる。


「そんな! 汚らわしいわ! お父様!」


自分のことを差し置いて、父親に文句を言うシャロン。傍観者を決め込んでいたオリビエであったが、さすがに今の台詞には一言物申したくなった。


「あら、シャロン。人の婚約者に手を出しておいて、どの口が言うのかしら?」


「うるさいわね! オリビエのくせに口を出すんじゃないわよ! 大体あんたに魅力が無いから、ギスランに捨てられたんでしょう! あの男も単純よ。ちょっと笑顔と甘い声ですり寄っただけで、簡単に落ちるんだから!」


「シャロン! オリビエに何て口を利くんだ! 大体、ギスランはオリビエの婚約者だ。それなのに手を出すとは……このあばずれめ!」


ミハエルは先程オリビエから『賢明なお兄様』と言われたことで、オリビエの肩を持つ。


「誰がアバズレよ! こっちだってねぇ、好き好んでギスランに声をかけたわけじゃないのよ! お母様に陰気なオリビエから奪ってやりなさいって言われたからよ! そうでなければあんな男、私が相手にするはずないでしょう!!」


噛みつくように叫ぶシャロンに、ギョッとするランドルフ。


「シャロン……今の態度は一体何だ? いつもの可愛らしいお前はどこにいったのだ? 仮にもギスランはオリビエの婚約者なのだぞ! まだ15歳の子供が男を略奪など、もってのほかだ!」


そして、ついでにゾフィーにも怒鳴りつけた。


「大体ゾフィー、そもそもお前が悪い! 自分の娘になんて真似をさせるのだ!」


「何ですって!? 自分のことを棚に上げて、どの口で言っているのよ! あなたこそ、年若いウェイトレスの愛人を囲っているくせに! 非の打ちどころの無い妻であるこの私がいながら!」


「どこが非の打ちどころの無い妻だ! お前が、違法賭博場に出入りしているのをこの私が知らないとでも思っているのか! 若いディーラーに入れ込んでいることだって知っているぞ!!」


「「「え!?」」」


これには、さすがのオリビエ、ミハエル、シャロンの3人が驚く。


「……ど、どうしてそのことを知ってるのよ……」


ゾフィーの顔が青ざめる。


「どうしてだと? 私は町の飲食店をあちこち歩いて食のコラムを書いている。お前が違法賭博に出入りしている姿をこの目で何度も見ているのだ!」


「だったら何故その場でお母様を止めなかったのよ! い、違法賭博なんて……最低よ!」


シャロンが半泣きで訴える。


「そ、それは……」


言葉に詰まるランドルフにミハエルが冷めた声で言う。


「どうせ愛人のウェイトレスと一緒に居たからだろう?」


「う!」


図星なのか、ランドルフは言葉に詰まる。


「まぁ! やっぱり……! あの賭博場はいかがわしい場所にあるわ……いかがわし場所で、さては愛人といかがわしい行為をしていたのね!」


「このバカ!! 子供たちの前で何てことを言うんだ!!」


ヒステリックに叫ぶゾーイに、ランドルフは顔を真っ赤に染めて怒鳴りつける。


大きな声で揉める4人の家族を、オリビエは半ばあきれた様子で眺めていた。当然、2人のメイドは騒ぎが大きくなる前にとっくに逃げ出している。


(まさか私がほんの一石投じただけで、このような事態になるなんて思いもしなかったわ。面白いくらいにメッキが剥がれていくわね)


そのとき。


「もう……やってられない! あんたたち、皆最低よ!!」


シャロンは叫ぶと、走り去って行った。


「チッ! 俺もこんなところにいられるか!」


ミハエルも捨て台詞を吐くと、大股で歩き去る。


「私もこれ以上、浮気男の顔なんか見たくないわ! 今朝は自室で食事を頂きます!」


「ああ! 勝手にしろ! こっちもな、賭博に狂った女の顔など見たくもないわ!」



ゾフィーはドレスを翻して立ち去り、ランドルフとオリビエのみがその場に残されたのだった――

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