23話 綻びる家族 1
「あ……! お、お兄様……!」
まさかミハエルに見られていたとは気づかず、真っ青になるシャロン。
「シャロン……一体、どうしたんだ? さっきの姿は、まるでお前らしくないじゃないか」
ミハエルが尋ねると、オリビエは大げさな素振りで否定した。
「いいえ? 今の姿がシャロンの本当の姿ですけど? もしやお兄様は何も御存知無かったのですか? 同じ家族なのに?」
「何だって? それは本当の話か?」
オリビエの話にミハエルは目を見張ると……。
「はぁ!? オリビエ! いい加減なこと言うんじゃないわよ!」
再び噛みつくように叫ぶシャロン。
既に頭に血が上っているシャロンは、まともな思考能力を失っていた。ミハエルの眼前で、本性を現してしまったのだ。
「あら? いいの、シャロン。大好きなお兄様の前でそんな態度を取って……ほら、御覧なさい。お兄様ったら……あんなに驚いているじゃないの」
「え……あ!!」
シャロンは振り向き。呆然とした顔で自分を見つめるミハエルとまともに視線が合ってしまった。
その瞬間、一気に冷静さを取り戻す。
「あ、あの違うんです! お兄様! こ、これは……そ、そう! 全てお姉さまがいけないんです! 悪いのは私では無く、目の前にいるお姉さまなんです!」
シャロンはオリビエを指さし、必死で訴える。
「シャロン……」
ミハエルには先程のシャロンの激高した姿が頭から離れずにいた。
佇んでいるとオリビエが追い打ちをかける。
「人を指さし、姉である私を呼び捨てする段階でどちらが悪いか……賢明なお兄様ならお分かりになりますよね?」
(賢明……? 俺が賢明だと?)
オリビエの言葉に、ミハエルの心が大きく揺さぶられる。
ミハエルはオリビエを嫌悪し、無視してきた。オリビエは大好きだった母の命と引き換えに生まれてきたからであった。
だが、それは建前に過ぎない。
本当の理由は、オリビエに対する劣等感だ。ミハエルはフォード家の長男であり、いずれは家督を継ぐ存在。それゆえ父からの期待は厚く、ミハエルはその期待に応えるために勉強も剣術も必死で努力を積み重ねてきた。
剣術の腕前は確かなものになったが、いくら努力してもオリビエに敵わなかったのが勉強だった。
優秀な貴族だけが通える難関大学に入学する為、ミハエルは寝る間も惜しんで勉強したが不合格だった。
けれど、オリビエは違った。左程勉強する素振りも無かったのに、あれほどミハエルが渇望していた難関大学に上位の成績を収めて入学したのだ。
当然、ミハエルは面白くない。
その劣等感から、ますますミハエルはオリビエを嫌悪するようになったのだが……その相手から「賢明なお兄様」と言われたのだ。当然悪い気はしない。
そこで、ミハエルはシャロンに向き直った。
「シャロン……。先ほどの会話、俺にも聞こえていたがお前のメイドがオリビエに失礼な態度を取ったのだろう?」
その言葉にメイド達の肩がビクリと跳ねる。
「だから、オリビエはメイドの教育を出来なかったお前に注意しただけだろう? それなのにお前は反発し、一方的に姉であるオリビエを怒鳴りつけているようにしか見えなかったが、違うか?」
「お、お兄様……?」
「仮にもオリビエはお前の姉なのだから、失礼な態度を取ったことを詫びた方がいい」
まさかミハエルがオリビエの味方をするとは思わず、シャロンの目が見開かれる。
「そ、そんな……嘘ですよね? この私に謝れと言うのですか?」
「そうだ」
ミハエルは頷くが、気位の高い……ましてオリビエを馬鹿にしているシャロンにとっては耐え難い屈辱だった。当然怒りの矛先はミハエルに向かう。
「な、何よ! あれ程、オリビエのことを無視してきたくせに何故ここで肩を持とうとするの!? この女の味方をするっていうなら、お兄様が本当は賄賂を払って、騎士団に配属されたことをお父様にばらすわよ!」
「あらまぁ。それは知らなかったわ。お兄様、それは本当の話ですか?」
オリビエは興味深げに尋ねた。
「な、何を言っている! そんなはず無いだろう!? シャロン! いい加減なことを言うな!」
ミハエルは誰の目から見ても明らかな位動揺している。
「いい加減なことを言ってるのはお兄様でしょう! 私、賄賂を渡している瞬間を見たのだから!」
「ば、ばか! シャロン! やめろ!」
ミハエルが叫んだそのとき。
「ミハエル! その話は本当なのか!?」
廊下に大きな声が響き渡った——
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