20話 生まれ変わったオリビエ
—―翌朝
いつものように6時半にセットした目覚まし時計でオリビエは目が覚めた。
「う~ん、良く寝たわ」
伸びをして起き上がると、部屋の中がいつもより薄暗いことに気付く。
「あら? もしかして……」
ベッドから降りて、カーテンを開けてみると外は生憎の雨だった。
「雨……困ったわ。自転車で行けないわ」
いつものオリビエなら、遠慮して馬車を出すのを躊躇っていた。けれど、憧れの女性、アデリーナを思い出す。
「そうよ、私だって立派なフォード家の人間。遠慮する必要は無いわ。堂々と馬車を出して貰えばいいのよ」
オリビエは完全に割り切ると、朝の支度を始めた。
7時になり、専属メイドのトレーシーが部屋に現れた。
「おはようございます、オリビエ様。あ……また、お一人で朝のお支度をなさったのですか?」
「ええ、自分の支度位、1人で出来るわよ。あなたはまず自分の仕事を優先してちょうだい」
義母や異母妹には専属メイドが複数人いたが、オリビエにはトレーシー1人のみだった。当然、トレーシーは忙しい。なので出来るだけ負担をかけないようにオリビエは出来るものは自分でやってきたのである。
「ありがとうございます。お仕えする方がオリビエ様のような方で、本当に良かったです」
大袈裟にお礼を述べるトレーシーにオリビエは笑みを浮かべる。
「大げさね、トレーシーは」
「あ、そう言えば仕事仲間に聞いたのですが、昨夜は深夜になっても旦那様の書斎から明かりが洩れていたそうです。珍しいこともあるものだと仲間内で話題になっていましたよ」
「まぁ、そうなの? いつもお父様は22時過ぎには就寝しているのに……何かあったのかしら? でも、どうでもいいことだけどね」
割り切ることに決めたオリビエは潔かった。
「何だか、オリビエ様。たった1日で変わりましたね。まるで魔法にかかったみたいです」
「ううん。魔法にかかったのではなくて、多分魔法が解けたのかもしれないわ」
勿論、魔法を解いてくれたのは……アデリーナであることは言うまでも無い。
その時。
—―ボーンボーンボーン
7時半を告げる時計の音が鳴り響いた。
「あ、朝食の時間だわ。行ってくるわね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
オリビエはトレーシーに見送られ、ダイニングルームへ向かった。
長い廊下を歩きながら、窓の外にめをやると外は本降りの雨になっている。
「酷く降って来たわね……今日は何としても馬車を出して貰わなくちゃ」
その時、2人のメイドが向かい側から歩いて来た。彼女たちはシャロン付きのメイドで日頃からオリビエに失礼な態度を取っていたのだ。
メイド2人はオリビエに挨拶することもなく、すれ違いざまにオリビエに聞こえよがしに言った。
「相変わらず辛気臭い外見ね」
「本当、ただでさえ雨なのに余計気がめいってしまうわ」
いつものオリビエならシャロンの専属メイドという事で黙っていただろう。
だが、アデリーナによって一皮むけた今の彼女は違っていた。
「ちょっと待ちなさい。あなたたち」
オリビエは通り過ぎようとした1人のメイドの手首を掴んだ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます