第18話 御前試合通知三日前(※侍女クロエ視点)

/18

 私はリゼッタ・ウルフィン嬢に使える侍女メイドである。

 最近は家を取り仕切っていた執事のハイゼンさまが解雇クビになり私は侍従長として他の侍女メイドに仕事を振り分けていた。

「……以上が昼までの仕事になります本日も宜しくお願いします」

 私はあまり忙しいのは好きではない。

 出来ればリゼッタさまの隣で楽をしたかったのに執事が解雇クビにされた為に仕事が増えてしまった。

 全くリオベルさまは何を考えているかわからない。

「何をなされているんですか?」

「なにって……洗濯だけど?」

 そんなリオベルさまと出会ったのは洗濯場である。

 今日も剣術の修練を終えたリオベルさまは上半身裸で洗濯物を洗っていた。

 彼は剣術の修練の後に汗の吸ったシャツを洗うついでに他の様々な洗濯物を洗うのが日課になっていたのである。

「リオベルさまは貴族なのですからそんな事をしないで他の仕事をするべきでは?」

「他にする仕事がないからやっているんだよ」

「……やる事がない」

「それに洗濯は重労働だからな執事のハイゼンも大物は男がやるべきだと言っていた」

 手慣れた感じで次々とシーツをリオベルさまは洗って行く。

 私とリゼッタさまが来る前から洗濯を自らしていたのだろう。

「そっちの洗濯物を頼む……女性の物は流石に気が引ける」

 傍らに洗濯籠にまとめられていたのはリゼッタさまと私の洗濯物である。

「リゼッタさまの下着なら飽きるほど見たのでは?」

「お前のも入っているから気が引けるんだ」

 汚れを落とす石鹸でシーツを洗いたっぷりと水を吸ったシーツを絞り上げ吸った水を出す。

 その時に動き弾ける筋肉と汗は色っぽさと早く水浴びをして汗を洗い流せと言う思いがある。

「何しているの……クロエ?」

 背筋が凍る様な殺気と問いかける声が響き私は後ろを見ると其処には壁から少し顔を出したリゼッタさまがいた。

「大丈夫ですよリゼッタさま……そこにいる汗臭筋肉ダルマに私微塵も興奮しませんから……」

「酷い言い草だな?」

 そんな事を言いながらリオベルさまは次々とシーツを絞り乾かしていく。

 そうしてリオベルさまは全ての洗濯物を終わらせてしまった。

「さて……シーツ干すか」

「その前に水浴びをして汗を流して下さい……いい加減ニオイます」

「あぁ……悪かったなハイゼンがいた頃はあまり気にならなかったんだけどな?」

「どうしてハイゼンさまをクビになされたんですか?」

 丁度ハイゼンさまの名前が出たから私はリオベルさまが何故に彼を解雇したのか質問する。

「執事養成学校で校長を募集していてさアイツも歳だし此処で安月給で務めるよりは今後の為にも楽で金の貯まる仕事をしてほしいと思ってさ」

 リオベルさまがハイゼンさまを解雇した理由を聞いた後に私は語りだした。

「リオベルさま一つ宜しいでしょうか?」

「なんだ?」

「侍従にとっての幸せは主人の幸せです……それはお金には代え難いものなのです」

 侍従者は他の侍従と違い生まれた時から付き従う家族以上の存在である。

 父親か母親かあるいは兄弟そんな強い絆を持つのが侍従なのだ。

「何よりハイゼンさまはリオベルさまとリゼッタさまの間に産まれるであろう御子息を楽しみにしていたんですよ?」 

「そう言えばそんな事を言っていたっけ……」

 私はリオベルさまに向かって言う。

 リオベルさまはハイゼンさまが一番楽しみにしていた二人の赤ちゃんを見る前に解雇してしまったのだ。

「そうか……俺も至らない主人だったな」

「大丈夫ですハイゼンさまもきっとリオベルさまの優しさに気が付くでしょうし赤ちゃんが生まれれば客人として向かえて見せるのも良いのではないでしょうか?」

 そう私は言うと振り向き背後にいるリゼッタさまの方を見る。

「リゼッタさま?」

「なっ……なによ?」

「リオベルさまの汗臭さは最早水浴びでは落ちないので湯浴みと香油でしっかりと落として頂けませんか?」

「私がですか?」

「別に私がやっても良いですがリゼッタさまの方が肌と肌を付け合わせる事ができてリオベルさまも嬉しいのではないですか?」

 再び私はリオベルさまの方を見て問いかけると彼は頬を赤くしながらも視線を逸らした。

「いや……」

「いやなのですか?」

 リオベルさまの言葉を遮りリゼッタさまは問いかける。

 するとリオベルさまはまだ乾かしていないシーツを見ながら返答した。

「いやではない寧ろ嬉しいくらいだが……まだシーツが……」

「洗ったシーツは魔法を使って乾かしますからもう戻って来なくても大丈夫です」

 私の言葉を聞きリゼッタさまはリオベルさまの手を握る。

「行きますよリオベル?」

 リゼッタさまは嬉し気に言うと湯浴みをする為に二人は浴室の方に向かって歩いて行った。

「ありがとうなクロエ」

「くれぐれも無理はなさらないで下さいね」

 その去り際にリオベルさまは私に向かって御礼を言う。

 そうして私は何時ものように魔法の杖を振り風魔法を使って洗った洗濯物を乾かし始めた。

 この日から三日後に国王陛下直属の騎士団が私達の家を訪れリオベルさまに後任の国王直属の十二騎士を選出する為の御前試合に出る事が言い渡される。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


読んで頂きありがとうございます!!

ハート・星・レビューのほど宜しくお願い致します!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る