第11話 本物の悪党貴族

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 俺が転生した冷徹悪役貴族のリオべル・ウルフィンは今日までに執事のハイゼンと協力し慧眼術『梟』を最大限に活かせる装備を選定した。

閃光手榴弾フラッシュバン』強烈な光を放ち目と耳を潰す。

『気配消しのマント』気配を消し位置を分からなくする。

『妖刀『朧』』ウルフィン家が保有する数少ない妖刀であり東方の刀鍛冶とドワーフによる合作で精霊を宿している。

「こんなもんか……」

 邸宅に突入してきた数十名の暗殺者達は『閃光手榴弾』で目と耳を潰しされ一方的に倒された。

 目を瞑り再び体から『魔力』を放ち残党がいないかどうか確認する。

「リオベルさま!!」

 背後からリゼッタの声が聞こえ振り向く。

 同時に彼女の背後から迫りくる暗殺者の気配を捉えた。

「リゼッタ後ろ!!」

 リゼッタの名前を叫びながら俺は走り出す。

 しかしそれはいらぬ心配だった?

「えっ?」

 暗殺者は声を漏らす。

 何故なら唐突に身体が動かなくなったからだ。

「女性に刃を向けるとは相応の覚悟があっての事でしょうね?」

 振り向く事もなくリゼッタは問いかける。

 呼応する様に彼女に襲い掛かった暗殺者は凍り倒れ跡形も無く砕け散った。

「危ないから呼びに行くまで待っていろって言っただろう?」

「ごめんなさい……でも心配で居ても立ってもいられなかったの」

 リゼッタは嘘をついていない。

 再び邸宅の中に暗殺者がいない事を確認すると彼女の方を見た。

「それじゃ行くか」

「はい」

 嬉し気にリゼッタは頷く。

 全く息は上がっていない。

 しかしリゼッタは浮遊魔法を使い邸宅の外で待っている重装甲冑を装備するボンボニ・エール卿とハビ・エール卿夫人のもとに向かった。

「思ったよりも早くきましたね?」

「あぁ……どうらや暗殺者達の修練が足りなかったらしい」

 二人は会話をしながら待ち受けていた。

 双方共に仮面を被り素顔は見えない。

 そしてボンボニ・エール卿が被る仮面は誕生日の夜に両親の首を切った粛清騎士が身に着けていた仮面そのものである。

「お初にお目にかかりますボンボニ・エール卿……隣にいるのはハビ・エール卿夫人でしょうか?」

 問いかけるが返答はない。

 何も答えない二人に対して俺とリゼッタは共に頭を下げ最低限度の貴族の礼を尽くした。

「私はリオベル・ウルフィン隣にいるのは妻のリゼッタ・ウルフィンです……今日は何故に屋敷に暗殺者集団を送りつけたのですか?」

 問い掛けずとも殺す以外の理由は無い。

 しかしそれが決闘を行う上での礼儀作法であるのだ。

「息子の無念を晴らす為だ……濡れ衣を着せられ死んだ彼の名誉を回復し貴様らを地獄に落とす為に殺す……それ以外に理由はないだろう」

「なるほど……我々を殺して悪逆非道を私たちに擦り付け剰えその影に隠れてやっていた自分たちの悪行も全て無かった事にするわけですか」

 直ぐに反論するとボンボニ・エール卿は仮面はこちらを向き憤りを示す鼓動が聞こえると身体から魔力が立ち上る。

「聞き捨てならんな……貴様らが社交パーティで辱めた故に息子は命を絶った更に我々の名誉を汚すとは冷徹悪道貴族らしい言い草だ」

「その言葉そのままそっちにお返しするよ」

 俺は事細かく文字の書かれた紙の束をボンボニ・エール卿の前に投げ捨てた。

「今から十年前にお前らは両親が治めていた村の畑に対魔法耐性を持つ虫を放ち農作物の収量を著しく下げた」

 冷徹悪役貴族でも当時の事は良く覚えている。

 当時は冬の寒い時期で食べ物がなくよく腹を空かせていた。

「冬を乗り切る事が難しいと危惧した両親は周辺の領主に頼み食料を分配して貰おうとしたが周辺の領地も同様の被害を受け余裕はなく断られた」

 それも可怪しい話である。

 しかし周囲の領地も同様の被害を受け食べ物がなかったのだ。

「目処がついた領主は離れた場所で分けてもらう食料を荷馬車で運ぶ必要があったが殆どの荷馬車が出払い直ぐに食料を運ぶ事が出来ず……後に目処がついた領主も何故か一様に食料の供与を断った」

 そうして俺はボンボニ・エール卿に向かって二本の指を出した。

「お前の目的は二つ『穀物の価格操作』と『他国で余った麦を消費させる』それがお前が虫を放った理由だ」

「証拠はあるのか?」

「いいや……食料供与を断った領主は全員が不良の事故か病で亡くなり当時荷馬車を買い占めた人間もわからない」

 当たり前だ。

 わざわざ足が着くような証拠は残さない。

 きっとボンボニ・エール卿は思っているに違いない。

「ならば言いがかりだな?」

「それはどうかな?」

 ボンボニ・エール卿の動きが止まる。

 同時に俺はスッと彼の目の前に投げ捨てた紙の束を指差した。

「ダリル・エール卿……ルマリ・エール卿の腹違いの弟であり唯一の証言者で彼は荷馬車を全て借上げる担当で当時の事をよく覚えていた商人に荷馬車に虫壺を乗せさせた事もな?」

「なるほどルマリだけではなくダリルも言葉巧みに欺いたか其処にいるお前の妻でも差し向けたか?」

 瞬間ボンボニ・エール卿の目の前から姿を消し一気に間合いを詰め刀を振り下ろす。

 その一撃をボンボニ・エール卿は大きな剣で受け止めると眼前まで顔を近づけ語り掛けた。

「ボンボニ・エール決闘を受けろ……妻子の侮辱は決闘に足る理由だ」

「望む所だ…二枚舌……」

 こうして息つく暇もなく俺とボンボニ・エール卿の決闘が始まったのである。


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