第6話 宣戦布告は社交パーティで

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 侍女のクロエから事の顛末を聞き悪名の数々が濡れ衣である事を知った。

「なるほど……にしてもまさか婚約破棄した相手があのルマリ・エール卿だとはな?」

「はい……これはもやはや運命と言うよりは天命でしょう」

 応接室の座席に着く俺は隣に立つ執事のハイゼンを見ると彼は笑みを浮かべている。

 そうして再び立ち上がると目の前にいる侍女のクロエに向かって言った。

「君は主人に着せられた濡れ衣を晴らしたいんだね?」

「はいもちろんでございます」

「ならもろもろのついでに彼女の濡れ衣を晴らそうじゃないか」

「もろもろのついで……ですか?」

 侍女のクロエは首を傾げる。

 まぁ……そんな反応をするのが普通だろう。

「それに濡れ衣が晴れれば彼女も少しは俺と接してくれるんだろ?」

「はい……極度の人見知りですが一度心を開けば今以上に素直になると思いますよ?」

 ならなおさら彼女の濡れ衣を晴らそうではないかとそう思い傍らに置いていた刀を手に取り歩き出す。

「どちらへ?」

「リゼッタ嬢の所だよ」

 応接室を出ると俺は真っ直ぐにリゼッタ嬢のいる部屋の前に立ち扉を叩く。

「リゼッタ嬢……リオベルです少しお話があるのですが宜しいでしょうか?」

「………」

 部屋にいるリゼッタ嬢に反応はない。

 まぁいきなり来てもそうなるのが普通だろう。

「部屋に入れて下さらないのでしたら扉を切って入るしかありませんね?」

 俺は手に持った刀を構える。

 同時に部屋に掛かった鍵を開ける音がした。

「なんですか?」

 不機嫌でいて少し恥ずかし気なリゼッタ嬢を見てフッと笑みを溢しつつ率直に可愛いなと思う。

「どうしたんですか……こんな大勢で押しかけて」

 リゼッタ嬢の居る部屋に俺を含めた三人が押しかける形で入ると頭を下げながら言った。

「侍女のクロエからこれまでの経緯を聞きました」

「でしたら……」

「はい……故に不肖このリオベル・ウルフィンがリゼッタ嬢に掛けられた濡れ衣を私が晴らして見せましょう」

 俺の言葉を聞きリゼッタ嬢は驚き目を丸くする。

 そうして彼女は問いかけた。

「貴方……何を言っているのかおわかりになっていますか?」

「重々承知の上です」

 俺は顔を上げ懐から一通の招待状を取り出した。

「今日より二日後……ルマリ・エール卿主催の社交界の宴が開かれるそうです……それに妻として同伴して頂けますか?」

 問いかけながら俺は招待状を彼女に手渡すとリゼッタ嬢は本物である事を確認しつつ更に驚愕する。

「馬鹿じゃなくてどうして濡れ衣を着せられ婚約破棄をした男が主催するパーティに行かなくてはいけないの?」

「その場で俺がリゼッタに掛けられた濡れ衣を晴らすからだよ?」

 敬語を辞めて俺はリゼッタ嬢を見つめながらに問いかけた。

 すると彼女の顔は真っ赤になり視線を逸らす。

「ッツ!!」

 そんな彼女の顔を持ちこっちに向けると媚びる様に再び問いかける。

「大丈夫……君は着いてきてくれるだけで良いそれとも俺の事が信じられないか?」

「どうなっても知りませんからね?」

 こうして俺はリゼッタ嬢と共に婚約破棄をし悪行の全てを擦り付けたルマリ・エール卿主催の社交パーティに参加する事になった。

 そして三日が経過しルマリ・エール卿の主催する社交パーティに参加する為に俺はリゼッタ嬢と共に馬車に乗りルマリ・エールの邸宅に向かう。

「一体……何をお考えなんですか?」

「何って?」

「相手は粛清騎士の息子……悪行を明るみにすれば私も貴方も執事も侍女も殺される事になりますよ?」

 ルマリ・エール卿の父親は王家直血貴族であり粛清仮面騎士のボンボニ・エール伯爵である。

 彼の持つ権力は絶大で対立する勢力があるとわかれば問答無用で制圧する正に力の権現とも言える。

「そうだねでもまぁとりあえず事が終わってから全て話す事にするよ」

 リゼッタはため息を吐く。

 事の重大さをわかっていないとそう呆れている様だった。

「それよりも今日の青いドレスとても似合ってるよ」

「えっ……」

 唐突に着ているドレスを褒められリゼッタは困惑し自身の青く美しい髪を触り始める。

 それからまじまじと彼女のドレス姿を見てニコニコすると終始彼女は顔を赤くしていた。

「母が着ていた物で申し訳ないけれどサイズも何もピッタリで良かった」

「いえ私も社交用のドレスがなかったので助かりました」

 仕立ての良い上質な布を使用した青いドレスは母が生前使っていたものである。

 本来なら使いたくないと言う女性も多い中でリゼッタは嫌な顔一つせずに青いドレスを着てくれた。

「お母様……お亡くなりになったんですね?」

「あぁ……俺が五歳の誕生日を迎えた夜に父と一緒に粛清騎士に殺されたんだ」

 何の気なしに両親が粛清騎士に殺された事を言うと彼女は驚いた顔をする。

 そう言えばリゼッタに両親が粛清騎士に殺された事は言っていなかった。

 そうこうしているうちに馬車は止まる。

 扉が開きリゼッタの手を取り馬車から降りると彼女は腕を回しピッタリと傍らに寄り添う。

「離れない様にな?」

「えぇ……」

 招待状を入口に立つ執事に渡し邸宅に入ると既にルマリ・エール主催の宴は始まっていた。

 招待状に書かれた時間通りに来たつもりだが大方わざと遅れてくるよう招待状に遅い時間を記載して寄越したのだろう。

「……やっぱり」

「怖気づいたか?」

「なんですって?」

 リゼッタに問いかけると彼女はキッとした視線で睨みつける。

「大丈夫……俺を信じてくれ」

「わかってる……わよ」

 頷くリゼッタの手は少し震えていた。

 確かに怖気づかないと言う方が可怪しいのかもしれない。

「それじゃ行くぞ?」

 そうして宴が開かれている大広間の扉が開き高らかに俺とリゼッタの名前が呼び上げられる。

 こうして俺は何気に社交界に初めて当時する事となったのだ。


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