第29話
「トゥンク…?」
健人は不思議そうな表情で私を見つめた。
「いや、なんでもない」
私は急いで答えた。
自分の内心を悟られたくなかった。
別に、ときめいたりしてないんだから。
「何か顔赤いぞ。熱でも出たか?」
今度は、瑞稀が心配そうに私を見つめた。
「瑞稀がそんな風に言ってくれて嬉しかったからかなぁ」
なんてね。
「酷いなぁ。俺の時と反応違う」
健人は少し拗ねたように言った。
「え、そう?」
私、健人の時どんな反応したっけ。
「俺の時はときめいたりしなかった癖に」
瑞稀は少し不満そうに言った。
その言葉に私は笑いを抑えきれなかった。
「別にときめいてないよ。健人はきっと携帯よりも私のことを心配してくれるって分かってたから特に反応しなかっただけ」
健人は常に優しいから。
「ふーん」
健人は納得したような、していないような返事をした。
「ほんとにほんとだよ」
私は強調して言った。
「仕方ないからそういう事にしといてあげる」
健人は笑って言った。
なんて話をしている間に、注文した飲み物が届いた。
「ブラックコーヒーとキャラメルマキアート、それからカプチーノです。お待たせしました」
店員がトレイに載せた飲み物をテーブルに運んできた。
「ありがとうございます」
私は感謝の気持ちを込めて店員に微笑んだ。
カプチーノの香りが鼻をくすぐり、ほっとした気持ちになった。
「どうぞ」
私は瑞稀にブラックコーヒーを手渡した。
「キャラメルマキアートは私の」
私は自分のキャラメルマキアートを手に取り、笑顔で答えた。
キャラメルの甘い香りが心を落ち着かせてくれる。
「それから、カプチーノは健人」
私はカプチーノを健人に渡した。
「それじゃあ早速、いただきまーす」
私は一口飲み、温かさと共に心が落ち着くのを感じた。
瑞稀もブラックコーヒーを飲みながら、少しリラックスした表情をしていた。
健人はスマートフォンを取り出し、写真を撮っていた。
「あ、私も写真撮れば良かった…」
健人を見て、少し後悔した。
もう飲んじゃったから、キャラメルも泡も台無しだ。
楽しい時間を記録に残したかったのに。
「俺も普段は撮らないけど、せっかくハート描いてくれたから撮っただけで。暖かいうちに飲む方がいいんだよ」
健人は優しく言った。
「それもそっか。瑞稀は、いまからでも撮れば?」
ブラックコーヒーはただの茶色だから、見栄えはそこまで気にならないだろうし。
「いや、いい。写真苦手だから」
瑞稀は首を振って答えた。
「あ、そうだったね。瑞稀はいつもカメラ避けるもんね」
瑞稀は撮るのも写るのもどっちも嫌いだから、一緒に写ってる写真はほとんどない。
24年間も一緒にいるのにだ。
瑞稀がカメラを避ける姿を思い出して、思わず笑ってしまいそうになった。
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