第21話
「いらっしゃいませ! お待ちしておりました」
牧場の建物に入ると、ロビーにいた、感じのよい女性が応対してくれた。
「こんにちは。電話でお伝えした通り、卵を譲ってほしいのですが……」助手君が人当たりの良い笑顔でこたえる。助手君、外面だけはいいからね……。初対面の相手は任せておきましょう。
「はい、承っております♪ですが、当牧場の卵はお求めになる方が多く、市場に出荷していない物をお出しすることになり……」
(ロビーにはガラス張りのショーウィンドウがあって……いろんなお土産も売っているわ♡手ぬぐいにミルクプリンに牛の人形とか……)
「なるほど。たしかにこの辺りは灰濃度が低く、汚染が進んでいない。これなら高品質の卵ができるでしょう♪その分、すこし値が張るということですね?」
「そうですね。だいたいお値段にすると……」
女性がメモ用紙に値段を走り書きした……。
内容を見とめると助手君はうなずいた。
「えぇ! そのぐらいの値が妥当かとおもいますっ! お金の方は準備しておりますので、ぜひ買わせてくださいっ!」
「わぁ♪ありがとうございます」
「じゃあ博士、お願いします♪」
「ン? あぁ、そうね」
(そういえばお金は私が出すんだっけ? すこし高いけれど……高給取りの博士ちゃんのお給金なら、よゆーで買えちゃうわ。えーっとお財布お財布)
ごそごそ……
(……あれ、どこだろ)
ごそごそ……
(ア……これ、やっべーかも~)
チョンチョン……
(ン? 博士がぼくの背中をつついているぞ? なにかあったのかな)
「すこし、後ろで話しましょう」ひそひそ
「はぁ?」
私たちは女性と距離をとった場所で、声音を落として話し始めた。
「あのね~怒らないで聞いてほしいんだけど~」
「ハッハッハッ……怒るわけないじゃないですかっ! もうすこしで念願のおいしい卵をゲットできるんですからっ!」
「……」
「ハッハッハッ……」
「……え、えへへへ」
「……あのどうしたんですか?」
「財布、忘れちった!」てへっ♡
「はぁ?!」
「助手君~昨日、私の白衣洗濯するっていったよね~。その時、お財布だして机に置きっぱなしだったわ~。あーぁ、助手君が白衣を洗濯するなんていわなければ……」
「え……ぼくのせいだといいたいんですか? え、コラ」むんずっ!
助手君は笑顔のまま、私の襟首につかみかかった!
私は首を絞めつけられる苦しさと恐怖で、呼吸困難におちいった!
(あかん……まじでキレている時の助手君の笑顔だわ。すなおに謝りましょう)
「ご……ごめんなしゃい~……許してぇ……」ひっぐひっぐ……
助手君はようやく手を離してくれた……。
(……うぅっ。甘やかしてはダメだとわかっているのに~)
「ど、どうするんですかっ! 車で二時間もかけてここまで来たんですよっ?!」
「それなんだけど……助手君、お金もっているわよね? とりあえずお金立て替えておいてくれないかしら? あとで返すわっ!」
「んー」
「あらあらどうしたの~? 助手君の薄給じゃ卵すらも買えないの~?」クスクス……
(キレそう)
「いえ……卵を買えないことはないんですが、帰りの燃料代が残らないんですよね」
「もうっ! もっと多めにお金入れておきなさいよっ!」
「どこかの誰かさんが道中に食べ物買ったり、射的に金かけすぎたから、足りなくなったんですよっ!」
(いったいどこの誰が助手君の財布を荒らしたというの?! 許せないわ……)
「とりあえず、なにか金策を立てないと……代金のかわりに助手君が一日牛舎の清掃をするというのはどうかしら?」
「博士だけここに置いてって、牛さんといっしょに飼ってもらったらどうですか~? ア、博士のチッパイだとお乳でないかっ!」
「……じゃあ~私たち二人で、騎士になって、牧場の用心棒をやらナイト♪」しゅばばばば「するというのは?」
「本気でいってる?」ギロリ
「……わかったわよっ! いい方法があるわっ!」
(どーせ『どうでも』いい方法でしょ……)
「助手君、軽トラの荷台のガラクタよ! あそこから金目になりそうなものをとってきて、代金のかわりにしましょうっ」
「えぇ……」
「諦めたらそこで試合終了よっ! さぁいくわよっ」ダダダダダッ!
—―三十分後
ダダダダダッ!
「いい物があったわよっ♡」
(いったい、なにを見つけたんだっ?! こんなに自信満々な博士なら『大した物』を発見したのか?!)
「フフ、お姉さん? 卵の代金だけど……これでいいかしらっ?!」ダンっ!
(博士ーーーっ!!!
またそれですか?!)
私は……ガラクタとして一斉廃棄されかけていた『博士ちゃんの自伝(自費出版)』を代金のかわりに提示したっ!
(あぁ……受付嬢の方はうつむいたまま、机に置かれた自伝を睨みつけている……。
きっとあれは、尊厳を踏みにじられた怒りの目だ……。
ぼくたちは今から名誉毀損罪で訴えられ、ブタ箱で余生を送ることになるんだ。
いや、ぼくだけでも逃げてみせる!
そうだ……ここで辞表を提出して、無関係の男性を装えばっ!)カキカキ……
「助手君♪そんなにあわてて、なにを書いているのかしらっ?!
まさか……私の自伝第二巻を執筆するためのメモ書きといったところかしらっ!
ん、お姉さん? どうして黙っているの? あ、わかったサインがほしいのね?」
受付ロビーのお姉さんは、わなわな……と指をわななかせながら自伝を手に取ると、
「えーーーー嘘ーーーホンモノですかーーー?!」と目を輝かせながら、本を抱きしめたわっ!
(うそーーー?!
博士にファンがいたの?!
まだツチノコの方が発見確率高いと思っていたよ……)ツチノコ「俺はいつでもそばにいるぜ」
「まぁ! 私のことをしっているのね?!」
「ハイっ♪先生が執筆なされた『地雷系ハニワサボテンのトゲを使った、ツボ押し健康生活』を読んだ母が、不治の腰患いを寛解したのですっ! 先生は私たち家族の命の恩人ですっ」うるうる……
「代金はいりませんっ! 卵なんていくらでも持って行ってくださいっ!」モッテケドロボー!!!
(受付嬢の方は、牧場主とおもわれる男性に博士の自伝をみせた……。
男性は飛び上がるようにしておどろき、自伝を神棚に飾り、何度も手をたたいて祈りの口上をのべていた……そして)
卵いっぱいもらっちゃったわ♡しばらくオムレツには困らないわね!
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