設定資料・騎士団女副官『リサ・ヴァルディの非番な一日』軽い百合展開
*物語の設定などすべて流用OKです
物語: 副官リサ・ヴァルディの非番の日
後半に軽い百合展開
副官リサ・ヴァルディが目を覚ますと、日の光が薄く石造りの窓辺を照らしていた。今日は久しぶりの非番の日。彼女は規律に縛られた日々から解放され、ほんのわずかな自由を手に入れていた。とはいえ、騎士団の副官という地位にある彼女にとって、完全な安息などあり得ない。背中に少しこわばりを感じながらも、リサはベッドから起き上がった。
住居の描写
リサの住居は、騎士団の副官としての地位に見合った、城塞近くの石造りの屋敷だった。
彼女が住むのは小規模だが堅牢な建物で、周囲には訓練場と一部の貴族や上級士官の邸宅が点在している。
屋敷は外から見れば威圧感すら漂わせるが、内部は彼女の個性を反映した落ち着いた空間で、騎士団の厳格さと彼女自身の静かな趣向が調和していた。
玄関を入ると、すぐに目に飛び込んでくるのは大きな木製のコートラック。鎧や剣をかけるための場所だ。リサは昨日の勤務で使った剣を丁寧に研ぎ、磨かれた青銅の鎧をラックに戻していた。広い玄関ホールの床は粗く削り出された石でできており、彼女のブーツが歩くたびに響くが、その音は家の中でこそ心地よいリズムを刻む。
奥へ進むと、暖炉の火がほんのりと残り火を見せている居間がある。この部屋には、彼女が戦闘の合間に読んだ書物が並ぶ木製の本棚と、重厚な革張りの椅子が二つ、対面するように置かれている。暖炉の上には一対の大きな盾が飾られており、リサがかつて任務を共にした仲間との思い出の品であった。
寝室は居間の奥にあり、ここもまたシンプルだが彼女の美学を反映している。ベッドは大きく、布団は羊毛で織られ、寒い夜でも彼女を暖かく包み込んでくれる。窓辺には小さな鉢植えが並び、騎士の無骨な生活の中に、わずかだが確かな人間らしさを感じさせるものだった。
非番の日の暮らし
リサは寝室のドレッサーに並ぶ櫛で髪を整え、顔を水で洗うと、一日の始まりを感じた。今日の目標はただ一つ、心身を癒し、明日からの激務に備えること。彼女はいつもの鎧ではなく、柔らかなリネンのチュニックを着て、足元には革靴を履いた。軽やかで自由な感覚が彼女の心を少し弾ませた。
朝食は、近くの市場で買ってきたパンとチーズ、そして城塞から流れてくる清らかな泉の水で作ったスープだ。リサは食卓に座り、静かに窓の外を眺めながら食事を取った。騎士団の訓練場からは、まだ若い騎士たちが剣を交える音が聞こえてくる。それを耳にしつつも、今日は自分がその中にいないという事実が少し誇らしかった。
食事を終えた後、彼女は長椅子に座り、片手に本を取った。書名は「王家の歴史」と書かれた、厚くて重たい本だ。日々の訓練や戦闘に追われる中でも、彼女は知識を広げることを大切にしていた。この本には、かつての王国の戦略や陰謀、騎士団の発展の記録が書かれており、リサはその中で自分の役割がどこに位置しているのかをよく考えていた。
数時間が過ぎた頃、彼女は庭に出た。住居の裏手には小さな庭があり、そこにはリサが育てたハーブが風に揺れている。薬草や癒しの香草を育てるのは、彼女の密かな趣味であり、傷を負ったときや疲れた心を癒すためにいつも頼っていた。今日もハーブをいくつか摘み取り、乾燥させて保存するための準備をした。
日が傾き始めた頃、リサは再び居間に戻り、暖炉に火を灯す。暖かな光が部屋を照らし出すと、彼女の顔に一瞬、安らぎの表情が浮かんだ。しかし、彼女の心はすでに明日の任務に向かっていた。非番の日とはいえ、騎士団副官としての責務は絶え間なく彼女を追いかけてくる。
最後に、彼女は剣を手に取り、重みを感じながら少しだけ振るってみた。これから再び始まる戦いの日々が、どれほど険しいものになるのかは分からない。しかし、リサ・ヴァルディはその全てに立ち向かう覚悟を胸に、静かに一日を終えた。
■
この物語では、騎士団副官としての重責を背負いつつ、非番の日には心身を癒し、明日への準備を整える女性の姿を描いています。彼女の住居は、厳格さと静かな趣味が共存する場所であり、日常の中に感じる彼女の強さと繊細さが物語の核となっています。
■
リサが夕暮れ時、庭で摘み取ったハーブを整えていると、遠くから聞こえてくる足音に気がついた。静かな庭の中で、その軽やかな足音は聞き慣れたものだ。部下のエリスヴァーレンだとすぐに分かった。
「リサぁ~!副官どのぉ~!遊びに来たよ~!」
明るい声とともに、エリスヴァーレンが勢いよく庭の門を開け、手を振りながらリサに駆け寄ってきた。彼女は若い騎士で、活発で快活。リサとは対照的な、感情をストレートに表すタイプだった。リサはその様子に軽くため息をつきながらも、微笑みを浮かべて出迎えた。
「エリス、急に訪れるのはやめてって言ったはずだけど?」
「そんなこと言わないで~! 副官と過ごす非番の日なんて最高じゃない!」
エリスヴァーレンは言葉と同時に、リサの肩に手を置き、すぐさま馴れ馴れしく寄り添ってきた。いつものことだが、彼女の積極的な態度にリサは苦笑せざるを得ない。
「今日もお肌がピカピカだね! リサがこうして家でのんびりしてる姿、すっごく素敵だよ。ああ、こんな時間がずっと続けばいいのに~」
エリスはまるで恋人のようにリサの腕を取って寄り添ってくる。彼女の目はまっすぐリサを見つめ、その瞳には明らかな情熱が燃えている。リサはその視線を感じながらも、柔らかく彼女の手を外した。
「はいはい、ありがとう。でも、そろそろ離れてくれる?ハーブの束が崩れちゃうから」
「えぇ~、もうちょっとこのままでいいじゃない。リサはいつも冷たいなぁ~」
「冷たいんじゃなくて、ただ…私はそんなに近づかれるのが得意じゃないだけ」
エリスは肩をすくめて笑い、無邪気な顔を見せたが、その瞳の奥にはまだリサへの熱い思いが渦巻いている。彼女の愛情表現は隠すどころか、むしろ増長していくようだ。
「副官どの! 今日こそは私と夜を共にしましょうよ! 美味しいワインを持ってきたんだから、二人で飲んで、語り合って、その……いろいろ楽しもうよ」
エリスはリサの手を再び取り、今度は手の甲にキスをしようとする。リサは素早く手を引き、微妙な距離を保ちながら苦笑いを浮かべた。
「エリス、毎回言ってるけど、そういうのはもう少し別の相手にしてくれない? 私はただ、普通にお茶でも飲みながらのんびりしたいだけなんだから」
「でも! 私は副官どのと特別な時間を過ごしたいんだ! あなたは私の唯一無二の存在なんだよ!」
「そうかもしれないけど、残念ながら私は君に同じ気持ちを返せないんだよ。それに、副官と部下の間でそういうことは……ねえ?」
エリスはがっくり肩を落としながらも、すぐに明るさを取り戻した。彼女の打たれ強さはリサにとって、ある意味では驚異的だった。
「まあ、今日はこの美味しいワインを飲むことだけにしようか。夜通し飲んだら、そのうち君の方が先に酔っ払って倒れるでしょ」
「ふふ、リサ、そんなこと言って本当は私と一緒にいたいんでしょ?」
「…はいはい、そういうことにしておくよ」
リサは笑って肩をすくめ、家の中にエリスを招き入れた。エリスは勝ち誇ったように笑みを浮かべながら、リサの後ろをついていく。その顔には明らかな期待が漂っていたが、リサは内心で軽くため息をつきつつも、彼女をかわす手段を頭の中で巡らせていた。
家の中に入ると、リサはキッチンの戸棚からワイングラスを取り出し、エリスの持ってきたボトルを開けた。リビングの重厚な革張りの椅子に腰を下ろし、エリスと向かい合う形で座る。
「乾杯、リサ。私たちの特別な夜に」
「はいはい、乾杯」
リサは軽くグラスを合わせ、エリスがどんな手で迫ってくるのかを察知しつつ、絶妙にかわす準備を整えていた。エリスの瞳は相変わらず熱を帯びていたが、リサはそのエネルギーを上手く受け流し、微笑んで相手をいなす。
「リサぁ……本当に素敵だよね。君の強さと優しさ、その全てが私の心を捉えて離さないんだよ……」
「ありがとう、エリス。でも本当に今日はただ、静かに過ごしたいんだ。非番の日だしね」
「うーん、非番の日だからこそ、副官ともっと特別な時間を…」
「明日の朝も早いんだから、無理はしない方がいいと思うよ。ほら、ゆっくり飲もう」
そう言って、リサは一瞬エリスの言葉を遮るように笑顔でワインを勧める。エリスは少し不満そうな顔をしたが、それでもリサの巧妙な切り返しに屈し、結局は静かにワインを味わい始めた。
このように、エリスヴァーレンの大胆で情熱的なアプローチに対し、リサは巧みに受け流し、かわしながらも相手に不快感を与えない柔らかな態度で対応する。二人のやり取りはどこかコミカルでありつつ、リサの冷静さが際立つエピソードとなっている。
■
もう少し違う角度からの百合展開
■
非番の日、リサはいつもの静かな時間を過ごしていた。だが、その静けさが長く続くことはなかった。扉が勢いよく叩かれ、やがて聞き覚えのある陽気な声が響いた。
「副官!エリスヴァーレンです!開けてください!」
リサはため息をつきつつも、ドアを開ける。そこには、元気いっぱいのエリスヴァーレンが立っていた。彼女は満面の笑みを浮かべ、馴れ馴れしくリサに抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと!エリスヴァーレン、やめなさい!」
リサはすぐに距離を取ろうとするが、エリスヴァーレンはますます力強く抱きしめてくる。
「副官、今日はあなたと一緒に過ごすために来たんですから、そんな冷たくしないでくださいよ~」
エリスヴァーレンはリサの顔をじっと見つめ、彼女の髪に手を伸ばす。
「何で私の髪をいじるのよ?」リサは眉をひそめながら、エリスヴァーレンの手を払いのける。
「だって、リサ様の髪、いつもきれいで、触りたくなっちゃうんですもん!」エリスヴァーレンは悪びれもせずに答える。
「おいおい、それ以上はやめてよ。私はあなたの上官だって忘れてないでしょうね?」
エリスヴァーレンは肩をすくめ、悪戯っぽく微笑む。
「分かってますけど、副官があまりにも魅力的だから、つい触れたくなっちゃうんです。私、リサ様のことが好きでたまらないんですもん!」
リサは苦笑しながらも、彼女の言葉をうまくかわす。
「ありがたいけど、そんなに近づかないで。私はあなたの恋愛相談には乗るけど、そういう意味じゃないわよ。」
エリスヴァーレンは、リサの肩に頭を預け、甘えた声で言う。
「ああ、副官、あなたが誰よりも素敵に見えるのに、どうしてそんなに冷たいんですか?私はこんなにあなたを想ってるのに…」
リサは彼女の頭を軽く叩きながら、笑いをこらえた。
「それはきっと、私があまりに真面目だからね。あなたみたいに甘えん坊にはついていけないのよ。」
「副官は冷たい…でもそこがまたたまらないんです!」
エリスヴァーレンは大げさに胸を押さえ、まるで舞台の役者のように感情を込めて続ける。
「私はもっとあなたに近づきたい!副官の心に触れたいんです!」
リサは呆れながらも、楽しげに微笑む。
「わかったわかった。でも、私はあまりそういう気持ちには答えられないから、悪いけどお手柔らかにね。」
「ええ~、副官はいつもそんな風にかわすんだから。でも、私諦めませんからね!」エリスヴァーレンはウインクをしながら笑う。
「それはそれで、私も困っちゃうわね。でも、まあ元気があっていいことだわ」と、リサは少し疲れたように座りながらも、心の中では少しほっとしていた。エリスヴァーレンの情熱的な感情は時に過剰だが、彼女の明るさと正直さが、リサにはどこか憎めないのだった。
その後もエリスヴァーレンは、何度もリサに甘えたり、ふざけた口説き文句を投げかけたりしたが、リサは巧みにそれをかわし、上手く冗談に変えてしまう。エリスヴァーレンの馴れ馴れしい態度も、リサにとってはもう日常の一部になっているようだった。
結局、彼女たちは笑い合いながら、いつものように過ごすことになった。リサは心の中で感謝していた。エリスヴァーレンのおかげで、少しの間でも悩みを忘れられる、そんな一日がまた訪れたのだ。
■
恋愛相談を受けるリサ
■
リサはまた非番の日を過ごしていた。広い窓から差し込む午後の陽光が、部屋全体を穏やかに照らしている。読書にふけっていたリサは、突然扉を叩く音に顔を上げた。
「副官、リオナフェルドです。少し、お話が…」
リサは本を閉じて立ち上がった。リオナフェルドは頼りになる部下で、どんな時も礼儀正しく、感情を押し殺すような冷静さを持っている。しかし、今日の彼女の声にはどこか緊張が漂っていた。
「入っていいわよ」
リオナフェルドが部屋に入ってきた。彼女は落ち着いた表情を装っていたが、その瞳の奥には何か不安を抱えた色が見える。リサは軽く微笑み、対面に座るよう促した。
「どうしたの?今日は随分と緊張してるみたいね」
リオナフェルドはしばらく言葉を選ぶように沈黙し、そしてようやく小さな声で口を開いた。
「実は…少し、恋愛のことで相談したいことがありまして」
その言葉に、リサは心の中で軽くざわめきが広がるのを感じた。恋愛相談…誰のことだろうか。彼女は平静を装い、優しく相手を見つめた。
「もちろん。相談に乗るわよ。誰か気になる人がいるの?」
「ええ…その、団長の…ミハエル様のことなんです」
その瞬間、リサの心は一瞬凍りついた。ミハエル――彼の名前を聞いた瞬間、自分の胸の奥に押し込めていた感情が不意に解き放たれたような感覚がした。ミハエルはリサにとっても特別な存在だった。だが、その思いを誰にも打ち明けたことはない。特に部下たちには絶対に見せたくない弱さの一部だった。
「ミハエル様のことを…?」
リサは何とか平静を保ちながら、リオナフェルドの言葉に耳を傾けた。しかし、胸の奥が強く締め付けられる感覚は抑えきれない。彼女が話すたび、リサの心は複雑な波紋を広げていく。
「そうなんです…団長は、とても強くて優しくて…いつも私たちを導いてくださる。でも、あまりにも手の届かない存在で…どうしても自分の気持ちを伝える勇気が出なくて」
リオナフェルドの言葉には、純粋な憧れと切なさが混じっていた。彼女の気持ちは、リサにも痛いほど理解できる。リサ自身も、ミハエルの堂々とした姿や優雅な振る舞いに心を奪われていた。だが、リサは騎士団副官としての立場がある。自分の気持ちを押し隠し、冷静でなければならないという義務感が、彼女の感情を抑え込んでいた。
「そう…団長は確かに手の届かない存在のように見えるかもしれないけれど、彼だってただの人間よ。感情もあるし、誰かを好きになることだってある」
リサは努めて冷静に答えたが、自分の言葉がまるで他人事のように聞こえるのが自分でも分かる。その瞬間、心の中にあるもう一人の自分が、静かにささやいているのを感じた――「ミハエルに思いを寄せるのはリオナフェルドだけじゃない」。だがその声を押し殺すように、リサは微笑みを浮かべ続けた。
リオナフェルドは視線を落としながら、さらに言葉を続けた。
「副官は…どう思いますか?ミハエル様が私のような者に、少しでも気を留めてくださると思いますか?」
その問いに、リサは一瞬返答に詰まった。自分の気持ちを無視し続けることが、これほど難しいとは思わなかった。胸の奥でくすぶる感情は、まるで火種のように静かに燃え広がっていく。
だが、リサはその感情を押し殺し、再びリオナフェルドの方に目を向けた。
「リオナフェルド、あなたは自分を過小評価しすぎているわ。あなたは美しく、強く、忠誠心に満ちた騎士よ。ミハエル様も、きっとあなたのことを評価しているはず。でも…」
リサは深く息を吸い、慎重に言葉を選びながら続けた。
「…もし彼に告白するなら、それはあなた自身の覚悟と責任で行うべきことよ。騎士団の一員として、私情をどこまで押し殺せるか、そしてその結果がどうであっても、受け入れる覚悟が必要だわ」
リサの言葉には、自分自身への戒めが込められていた。ミハエルへの想いを押し隠し続けることの苦しさを感じつつも、リサは副官としての冷静さを崩さなかった。リオナフェルドの相談に答えることで、彼女は自分の心の痛みにも向き合っていた。
リオナフェルドは静かにうなずき、感謝の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、副官。おかげで少し、勇気が出てきました」
「そう…それならよかったわ。焦らず、じっくり考えてみて」
リサは微笑みながらリオナフェルドを見つめた。しかしその微笑みの裏には、自分の心を押し隠す苦しい感情が渦巻いていた。ミハエルへの秘めた想いを胸に秘め続けることの難しさと、部下への冷静な助言との狭間で揺れるリサの心――その繊細な感情は、彼女の微笑みの奥深くに隠されていた。
リオナフェルドが部屋を後にした後、リサは静かに窓辺に戻り、再び読書を始めようとした。しかし、ページをめくる指先は落ち着かず、心は今もミハエルへの想いでざわめいていた。
■
さらに複雑な恋愛相談をうけるリサ
■
リサはまた非番の日を過ごしていた。広い窓から差し込む柔らかな光が、静かな午後の空気を穏やかに温めている。いつも通りの静寂に満ちた日常だったが、心の奥には常にミハエルの影が浮かんでいた。
**団長の恋人、レヴァント。**彼の存在がリサの心を複雑にさせる。団長とレヴァントの絆は騎士団内でも知られていた。二人は互いに信頼し合い、その絆は誰もが認めるほど強固だった。しかし、そのことを知っていても、リサの胸にある感情は消えることがなかった。
その日の静けさを破るように、再び扉が叩かれる音が響いた。
「副官、リオナフェルドです。ちょっとお時間、頂けますか?」
リサは本を閉じ、再び部下の来訪に驚きながらも、穏やかに返答した。
「どうぞ、入って」
リオナフェルドが扉を開けて現れた。彼女の表情はどこか緊張しているが、前回ほどではない。しかし、その瞳には複雑な感情が宿っているのがリサには分かった。
「また恋愛相談かしら?」
リサは軽く笑みを浮かべ、リオナフェルドを促して座らせた。
リオナフェルドはためらいがちに頷きながら、ゆっくりと口を開いた。
「はい…団長のことなんです」
その瞬間、リサの心の奥で、再び痛みが湧き上がる。
ミハエル――彼の名前を聞くだけで、胸の中に押し込めていた感情が一気に膨れ上がる。しかし、それを顔には出さず、リサは冷静を保とうと努力した。
「ミハエル様のことを…?」
リオナフェルドは黙ったまま、微かに頷いた。
その仕草には、まるで禁じられた感情を打ち明けるような重さが感じられる。そして、リサもまた、その重さを知っていた。
ミハエルにはすでに恋人がいる――レヴァント。
彼女もまた、その事実をしっかりと理解している。
「分かってるんです。ミハエル様には、レヴァント様がいるって。でも…どうしても、この気持ちを抑えられないんです」
リオナフェルドの言葉は、まるで自分の心を映し出すかのようだった。リサもまた同じ気持ちを抱いていた。団長への憧れと恋慕の念、そしてそれを抑え込むしかない現実。それでも、リオナフェルドのように誰かに打ち明けることができないまま、ずっと自分の中に押し殺してきた。
リサは沈黙を破り、静かに口を開いた。
「リオナフェルド…その気持ちは、とても理解できるわ。団長は強くて優しくて、誰に対しても公平な人。でも、彼にはレヴァントがいる。だから…」
言葉を紡ぐたびに、自分の胸の奥が苦しくなる。ミハエルとレヴァントの関係は、まるで固く結ばれた鎖のように強固で、二人の間に割って入る隙間などなかった。
「だから…どうしたらいいのか、わからないんです。レヴァント様は団長にとって、かけがえのない存在だって分かってるのに…」
リオナフェルドの声には、どうしようもない切なさが滲んでいた。その声を聞くたび、リサもまた自分の気持ちを抑え込むのが一層難しくなっていく。
「リオナフェルド…あなたがその気持ちを持ち続ける限り、それは苦しいことかもしれない。でも、それが本物の気持ちなら、無理に抑え込む必要もないのかもしれない」
自分でも驚くほどの率直な言葉だった。リサは、自分の胸の奥でくすぶる感情を感じながら、それをあえて口にした。リオナフェルドが抱くミハエルへの気持ちは、リサ自身の心を鏡のように映し出していた。
「ただ…ミハエル様がレヴァント様と一緒にいる限り、あなたの気持ちに応えることはないかもしれない。それを受け入れるのも、勇気のいることよ」
リサの声には、自分自身への戒めが込められていた。彼女もまた、ミハエルへの思いを抱き続けながら、その思いが叶わないことを知っている。それでも、リオナフェルドに対して冷静な助言をすることで、自分の感情を無視し続けることに成功していた。
「副官は…どうしてそんなに強いんですか?どうしてそんなに、感情を押し殺せるんですか?」
リオナフェルドの言葉は、リサの心を刺すようだった。押し殺しているだけだ、リサは心の中でそう呟いた。感情を封じ込め、自分の立場を守るために抑えているだけ。しかし、それをリオナフェルドに告げるわけにはいかない。
「強くなんかないわ。ただ…騎士団副官として、冷静でいなければならないから」
リサはそう答えたが、その言葉にはどこか虚しさが漂っていた。リオナフェルドは静かに頷き、微かに微笑んだ。
「副官、ありがとうございます。少し、楽になった気がします」
「それなら良かったわ。無理に感情を抑え込まず、しっかり自分と向き合って」
リオナフェルドは礼を言って去っていったが、リサの心の中には依然としてミハエルへの想いが渦巻いていた。彼のことを思うたび、心が苦しくなる。だが、自分の感情を表に出すことは許されない。副官としての冷静さを保ち続けなければならない――それがリサに課せられた運命だった。
リサは窓の外を見つめ、遠くに見える騎士団の訓練場に視線を移した。そこには、ミハエルとレヴァントの姿があった。二人は互いに言葉を交わし、笑顔を浮かべていた。
その光景を見つめるリサの心は、今もなお抑えきれない感情で揺れていた。
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