32話 究極ガチャ

 いよいよ、いよいよこの時がやってきた。

 クロとの決闘のあと、色々とあってまで引けていなかった究極ガチャ。しかし遂にやってきたのだ。あの時から2日が経過し、諸々の定期収益によって我が懐は更に潤い278万DPにまでなった。

 しかし、そのDPも100万を残して全て消費し尽くした。

 

 まずは、生活区域の拡張。洞窟自体を広くして更に拷問部屋がある地下と地上の間に、更に3階層地下を追加した。その上で地上にあった俺たちの生活フロアを地下3階、B-3に移動させた。それより上のフロアは全て侵入者対策として迷宮化させておいた。


 地上が、洞窟フロア。バット種とスネーク種の魔物渦を設置してある薄暗くジメジメとしたフロアで、初っ端から状態異常で侵入者の戦力を削るための階だ。

 ある意味では最初期の洞窟剥き出しの頃に戻ったと言えるな。


 B-1が、山林フロア。ゴブリン種、コボルト種、オーク種の魔物渦が設置してある階層。地上っていうか、ダンジョンの外と変わらない環境である。

 照明はどうしてるのかって? 疑似太陽とでも言うべきとっても明るくて大きくて時間経過で気温が変動する、魔力によって動くライトを天井に設置したのだ。

 非常に高かったが、これで惑わせることが出来るだろう。『洞窟の中にある階段を降りた筈なのに外に戻ってきてしまったぞ!?』みたいな感じで。ちなみにライト購入に使用したDPは25万。ひっじょーに高い!! でも後悔はしていない。


 B-2が、海フロア。新たに情報の登録に成功したセイレーン種、サハギン種、ギャングフィッシュ種、スキュラ種、ソードフィッシュウェーブ種の魔物渦を設置した階層丸ごと海になってるフロアだ。

 とはいえ呼吸出来る場所がない訳ではない。水が満ちているのはフロアの半分くらいまでで、そこから上は地上と同じヒカリゴケが群生する洞窟だ。

 ちなみに新たに獲得した内装『水場』は海水と淡水を選ぶことが出来て、今回は海水を選んで設置した。

 淡水バージョンも、湖なんかに住む魔物を登録出来たら造ろう。ってか今更ながら山に川あるのになんでって思ったけど、よく考えたら普通の魚は居ても魔物がいないってことですね。うん。


 B-3が、生活フロア。今まで地上にあった物をまるっと持ってきた。更に今までは松明やら蝋燭やらの照明をいっ~ぱい設置してどうにかしてた照明を、これまた疑似太陽にチェンジした。照明だけで50万DPである。まぁ、今まで使ってた山盛りの照明具を全部売り払ったから、多少はコストカットされたけども。


 B-4は、拷問部屋。何も弄ってない。以上。

 

 よって合計170万DPを階層整備に費やした。

 ちなみに残りの8万DPは、生活フロアの未だに洞窟剥き出しだった各部屋へ繋がる廊下などの整備や、良い寝具の調達、各人の武器強化に使用した。

 防具はリーリエが作れるからね。武器も作れれば良いんだけど……。そういえば以前クロがドワーフがどうこうとか、言ってたな。何処にいるのか、聞いてみるか。勧誘しに行っても良いかもしれん。


「よし……奏、クロ。せーので押すぞ!」

「うん……!」

「おぉ」


 俺の言葉とアイコンタクトに2人が応え、顔を見合わせ頷き合う。


「「「せーの!!」」」


 全く同時に、3人の人差し指がYESに触れる。

 その瞬間、眼前の迷宮核ダンジョンコアから凄まじい魔力が放たれ、目が焼かれたかと思ってしまう程の極光がコアルームに溢れる。


 光が弱まっていく。

 そこには……何も無かった。


「はっ? ちょ、どういうことだよ!?」

「分かんない……」

「……物じゃあらへんってことやないか? なんかの機能とか」

「「それだぁ!!」」


 クロの鶴の一声に、俺と奏は救われたような思いで賛同し、俺は急いで何か変わった所がないかメニューをくまなく探していく。

 そうして、見つけた。


――魔物融合


 ダンジョンの項目の一番下に、NEWと書かれて載っていた。


「魔物、融合……」

「融合って、アレだよね? あの、2人が溶け合って1人の戦士に! みたいな」

「うん。多分、そゆこと」

「ちゅうことは、あれやな。元の2人は消滅して新しい一人が生まれるっちゅうことや。例の漫画みたいな30分限定の技やあらへんからのぅ」

「あぁ……そうだな」


 魔物融合、か。

 確かにとても強力な新機能だ。けれど、元の2人は消えてしまう。よく考えて……って、あぁ、POPモンスターなら定期的に湧くんだし別に構わないのか。

 眷属の皆を融合させるなんてあり得ないしな。皆それぞれ、大切な家族だ。


 それに対してPOPモンスターは意思のない人形のようなもの。飯も食わず、疲れず、迷宮核ダンジョンコアから分配される魔力によってのみ生きる。

 まぁだからこそPOPモンスターが増えてきた現在、DPが枯渇している状況を良しとしてはいけない。これまでとは違うのだ。


「とりあえず、クロ。適当にパパッとDP稼ぐぞ。じゃないとPOPモンスターが飢えて死ぬ」

「おぉ、分かっとる。……たまには海産でも食いたい気分やの」

「ははっ! おっけおっけ。んじゃ、海行って魚でも獲ってくるか」


 え、セーラが居るのにそんなことして大丈夫なのか? 全く問題ない。当然ながらセイレーン時代何を食って生きてたかと言えば自分達より弱い魚だ。

 なので、元同族であるセイレーンを食ったりしなければ全く問題ないのだ。


 魚か……んじゃ今日は豪華に寿司でも握るか!!! あとアラ汁も良いな。なめろうとかも食いたいかも!! となれば味噌と醤油とねぎも買って……和食なら麦茶も欲しいよな。うわ、結構DP必要だな。

 ソードフィッシュウェーブ、狩ろう。奴ら一体一体は大したDPにも経験値にもならんが、ウェーブの名の通り群体だ。一つの群れで最低500匹は集合している。効率良く稼げる筈だ。


「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。皆に今日は寿司だぞって伝えといてくれ」

「お寿司!? やった! 食べてみたいと思ってたんだ~。うん! 伝えとく~」

「おぉ、期待して待っとれ。そっちもあんじょう頼むわ」

「うん!! まっかしといて!!」


 よっぽど寿司が楽しみなのか、小躍りしながら元気に頷く奏。

 そんな微笑ましい光景に俺とクロは二人してほんわかとした気分になって、表情が一気に和らぎ、思わず奏の頭を左右から二人して撫で回す。

 

「ちょ、ちょっと創哉、クロ!? ど、どうしたのさいきなり! う、嬉しいけど……照れるよ」


 顔を赤く染めて目線を下に逸らし、ポリポリと頬を掻く奏。


「「かわいい/かわええ」」


 シンクロする俺とクロ。


「えっ、えぇ~。も、もぉ……へへ」

「こりゃもうとびっきりの獲ってくるしかねぇな!! なぁクロ!!!」

「おう、創哉はん!! ごっつぅ美味いもん食わしたるさかい!! 待っとってや奏ちゃん!! はよ行くで!!」

「おぉ!!」


 俺とクロはそうして、奏のかわいさに昂った感情のまま海へと転移したのだった。




◇◇◇




「うっ、こ、ここは……?」


 天高くそびえる巨塔の頂上。

 雲が遥か下に映るほどの、超高所。


 その屋上に描かれた巨大かつ複雑極まりない魔法陣の中央に、一人の少女が片膝を立て、後ろに倒れようとする身体を両手で支えた状態で座っていた。


「ようこそ異世界の勇者。女神ファルダニアが創りし世界、ファルダリーゼへ。貴女にはこれから、6人の魔王を討伐してもらうわ」


 耳の長い女性が、何やら神秘的な輝きを放つ宝石がはめ込まれた両手杖を片手に少女に話しかける。 


「はっ? え、どういうことですか? 私は勇者なんかじゃないし、そもそも嫌ですけど。……喧嘩だってしたことないのに」


 当然、少女は断る。しかし。


「残念ながら、貴女に選択権はないわ。貴女は私に逆らえない。自死を選ぶことも出来ない。貴女は私の物になったの」


 耳の長い女性は、少女をゴミを見るように見下す。


「何を……! ふざけないで……!」


 動揺と共に、少女は立ち上がり女性に掴みかかろうとする。だが、それは出来なかった。いざ掴みかかろうとした瞬間、少女の身体は石になったかのように急に動かなくなってしまったのだ。


「これで分かったでしょう? 貴女は私に危害を加えられない。敵意を抱きながらも従うしかないのよ。ふふ、あははは!!」


 心底愉しそうに、耳の長い女性は少女を嘲笑う。


「っ……私に、どうしろって言うのよ。言ったでしょ? 喧嘩すらしたことないって。魔王なんて、倒せるわけ」


 少女が苦虫を噛み潰したような顔で耳の長い女性を睨む。


「ふぅん? そうは思えない身体つきだけど。まぁいいわ。安心なさい。貴女は勇者。戦ったことなんかなくても、想像を絶する強さを内に秘めている。多少の訓練を経て身体の動かし方と魔力の使い方を覚えれば、そこらの魔物など歯牙にもかけない強さを得る。後は魔物を狩り続け、レベルを上げて行けば魔王だろうと単独で殺せるでしょう。そういう存在なのよ貴女は。神に愛された光の巫女。全ての魔を滅ぼす為の、神聖なる最強兵器。それが勇者」


 耳の長い女性は捲し立てるように一息にそう説明すると目を瞑り、ス……と短く息を吸う。


「さぁ、呼びなさい勇者。貴女の相棒を。『顕現せよ我が剣オステンデ・サーサム』と叫ぶの」


 その言われた途端、少女の口は意思に反して動き出す。


顕現せよ我が剣オステンデ・サーサム


 少女の手元が一瞬輝いたかと思った次の瞬間。

 そこには鞭と剣が融合したような、刀身がぐにゃりと曲がった白く発光する武器が現れていた。


====================

『聖鞭剣』…不壊、退魔、伸縮自在、刃鋭化やいばえいか、多重斬撃、耐性無視、守護結界、装備者自動回復の効果が籠められている。魔力を籠めることで切れ味がより鋭くなる上、全斬撃に魔力を籠めた分だけ無限に斬撃を重ねられる

====================


「ふ~ん……中々強力な聖剣じゃない。乳臭いガキが来たと思ってたけど、見直したわ。殺す必要がなくて良かったわ。もう3回もハズレだったから疲れてきてたのよね。さぁ、行くわよ勇者。もう時間的猶予はあまり残されていない。まずは貴女を兵器として完成させる。弱音を吐くことは許さないし、遊ぶことも許さない。貴女はこれから魔を殺し尽くすための道具になるの」


 冷たく言い捨てる。


「あぁ、言い忘れていたわ。私は魔法大国の女王フィリオーラ。フィリオーラ様と呼びなさい。でも私が名乗ったからって名乗らなくて良いわよ。武器としての性能は期待するけど、貴女自身に興味なんか欠片もないから」


 すると、女王フィリオーラは両手杖を少女の首に向ける。


「っ……」

「分かりやすいでしょう? 今の貴女に相応しい贈り物をしてあげたの。精々感涙に咽ぶと良いわ。まぁ……もう喋れないけどね」


 先程まで何も無かった少女の首には、首輪のような黒い刻印が描かれていた。


「さぁ、行くわよ」


 少女は女王フィリオーラを親の仇を見るように歯を食いしばって睨みながらも、やがて諦め大人しく従いついていった。


――面倒な枷がついたけどやっと掴んだこのチャンス、必ず活かしてみせる。だからお願い兄さん。この世界に居て。さっさと魔王とやらを殺し尽くして迎えに行くから。その為に、兄さんが消えた時に現れた魔法陣と似た魔法陣に、私は飛び込んだのだから。



 時が加速する。

 勇者、降臨。

 運命の交差まで、あと少し。


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