1.1.1.廃都市 -2-
「舞波、そういえばよぉ…この街はどう思う?」
「どう思うというと…?」
「舞波の知ってる街と比べて…だ」
「あぁ~」
廃都市を歩いてどれだけ経ったか。相変わらず人気の感じない街の道路のド真ん中を歩いていた俺達は、当初の警戒心もとうに薄れて雑談に興じていた。
「変わりは無いと思うけど…見た目だけはね」
「ほぅ」
「ただ、日本らしくは無いなぁ」
舞波はそういうと、道の先にあるビルを指す。
「イギリスとか、ヨーロッパかなぁ…なんだろ、建物の見た目だけなら僕が居た街の方がよほど未来っぽいかも」
「なんだよ未来っぽいって」
「いやぁ、こう、さ。コピーペーストしたみたいな、四角いガラス張りの建物がズラーって並んでると思ってたんだけどもね。そうじゃないでしょ?」
俺は舞波の言っている意味が半分程度しかわからない。だが、なんとなく雰囲気は分かるというものだ。
「まー…ずっと前からあったであろう都市だからな」
「そのあたりの歴史も無いのかい?」
「知らないだけさ。地下都市の連中は過去を学ばない」
「…興味があるのは未来だけって所かな」
「いやぁ、生き延びるのに必死なだけだ」
「なるほどね」
舞波は僅かに神妙な顔を浮かべながら頷くと、ふと足を止めた。
「で、ヤナギン。そろそろ仕事に戻ろう」
「ん?」
真面目な口調に変わって話題転換。舞波が足を止め、指を指したのは地下への入り口。
「この街、地下にも広がってるんだろう?そっちも見てみないか?」
「…そうだが。ビル、見ただろ?崩れてるぜきっと」
「どれだけ広い街か知らないけども、何かがあったなら…人は袋小路に行きたがるだろ?」
「随分偏見が混じってるな」
「まぁね、ちょっと興味が出ただけさ。で、ハンドラーから連絡は?」
「全然。時折呼んでるんだが反応がねぇままだ」
「なら…まだまだ散歩かな?」
「それも考えモンだわな…ちょっと歩いただけで回り切れる街でもねぇし…」
舞波よりも数歩先で足を止めた俺は、近くに見えた背の低い建物に目を向ける。都合がいいといえばそれまでだが…目についたビルはそこまで劣化が進んでなさそうだ。
「ちょっと休むか。黙ってりゃどっかから音が聞こえるかもしれねぇしな」
そういってビルの方に歩いていく俺達。バラバラに砕け散ったエントランスから中に入り込むと、埃っぽさに咽た舞波がマスクを被って肩を竦めた。
「パッと見綺麗だから誰かがいると思ったけど、そうじゃないんだな」
「この都市で最後まで人が居た…とかかな」
「どうだか」
見た目よりは広々としたエントランス。埃被った椅子の埃をほろって座った俺たちは、暗がりの向こう側に見えるビルの奥に目を向ける。
「奥の方も大丈夫そうだな」
「後で見てみようか?」
「行ったら崩れる流れだぜ」
「ま、なるようになるさ」
足を休めても口は休めない。
#>!!!!!!!!!!!
そんな折。俺の脳内に、劈くような電子音が鳴り響いた。
「……連絡、来たようだね」
頭を抑えて僅かに身をかがめただけで、舞波は察してくれたらしい。俺はその言葉に何も返せず…頭の中に響く電子音と、鈍い痛みと格闘していると…やがて電子音は搔き消えて、聞きなれた声が脳内を廻った。
#>ツイタノハ知ッテル。スマナイ、手ガ放セナカッタ。周波数…合ッテルカ…?
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