0.0.5.少女の失楽園 -2-
「構わないが…1つ、聞かせてくれないか?」
雰囲気が一変した少女に問う。俺は、再び流れ出した嫌な汗を全身に感じながら、俺の問いを聞いても尚、眉をピクリとも動かさない…無機質な無表情顔を浮かべたままの少女の目を、じっと見つめた。
「舞波から見て…俺は不躾じゃなかったんだな?…少しツタを千切ったりしてたんだが…」
「あぁ、そうだね。ヤナギン。君はイイ人だと思うよ。僕の勘はよく当たるんだ」
俺の言葉に答える舞波。表情につられて、声色まで無機質なものになってしまっているのだが…それでも、俺はひとまず、彼女に気に入られたらしい。その事実にホッと胸を撫でおろすと、俺は椅子から立ち上がり…病室の扉に手をかけた。
「で…不躾な野郎には、どういう歓迎をしてやるんだ?」
「迷ってるよ。君が、人類は死を克服した…だなんていうものだからね」
「そうか。何がお望みかは分かったが…ソイツぁ厳しいだろう。死んでも死なないんだぜ」
病室の扉を開けて、ツタに…植物に覆われ、場の印象が一変した廊下に顔を覗かせる。廃病院の主たる舞波の…どことなく冷たく感じる声に若干の恐怖心を抱きつつ…俺はジッと廊下の向こう側…俺も上って来た建物唯一の階段の方に目を向けた。
"まぁ、同業だろうな。俺達の所では無さそうか"
# > アァ…オ前以外ニ指示ヲ出シテ無イ
"なら…きっと、相手はタワー下の連中か"
# > ダロウナ
舞波がどんな野郎の姿を想像しているかは知らないが…兎に角、間の悪い所にやって来たのは、俺達の同業者で間違いないだろう。タワー下の連中…俺達がそう呼ぶのは、【ソーサ】と言う都市が子飼いにしているスカベンジャー組織。やって来たのは、ソイツ等(…1人かも知れないが)だ。
「ヤナギン。そろそろ来るよ。近づいてくる」
「そのツタ、便利なもんだな。何はともあれ…俺に一旦任せてはくれないか?」
「追い返す手立てがあるのかい?」
「さぁな。ただ、連中も無駄働きだけはしたくないだろうよ」
「ふむ。ま、ひとまず任せようか。もし、君の邪魔をしても文句は言わないでくれよ?」
「分かった」
舞波と言葉を交わすと、俺は病室の外に足を踏み出した。退廃的な…幻想的な病室の中から一歩出た先は、鬱蒼と草が生い茂る…自然に還りかけた光景。俺はそんな廊下のど真ん中…行き止まりの所に仁王立ちして、階段からやって来るであろう人影を待ち構えると、お目当ての影はすぐに姿を表した。
「生憎だったな。何もないどころか…このありさまだ」
スーッと、音もなく姿を表したのは、最早人と言えぬ程に機械化された四足歩行の物体。物々しく、ゴツイ形をしたソレは、俺の姿に気づくとクイっと顔を動かし、赤い反射板(…目の代わりみたいな部分の事だ)を俺に向ける。
-何も 無い 訳が無い-
そして告げられた言葉は、どことなく懐疑心に満ち溢れた一言。
「そうは言ってもな。ご覧の有様なんだぜ。おたく等の下調べとは違うだろうが…諦めな」
【ソーサ】の連中は、俺達地下都市のスカベンジャーと違い、小型の無人偵察機を使って綿密に実地調査をして…そして、連邦政府にとって特のある遺物…都合の悪い遺物を見つけ出してここに居るはず。だが…この奥に居る舞波の事を聞いてこない辺り、調査をしたのは大分前の様だ。
-この先 生産不可能になった 品 有-
「だからなぁ…アンタ方が見たときは…」
そして、最早機械と化した連中には中々話が通じない。一方的に話す相手に呆れ口調でそう言いかけた俺だったが、その刹那…ヒュッと頬の横を何かが通り抜けて行った。
-所詮植物 邪魔な物は 排除する 所詮植物 何故そうしない?-
そう言って…ようやく俺は、奴が背中から伸ばしてきたロボットアームの存在に気づく。先端には人の手よりも繊細に動く刃物類…どうやらそれで道中の草木を狩りまくっていたらしい。あぁ…いつも思うが、生身じゃ敵う気がしない。奴らは人類ではなく、合理性の権化だ…合理的という言葉そのもの…無駄というのを、人である事を嫌ってやがるんだ。
「あーぁ…」
普段なら、恨めし気に睨みつけながら道を開けるのだが…足元で動くツタの感触を受けた俺はそうせず…むしろ目の前の機械獣に憐みの目を向けた。
-何が おかしい-
普段と違う俺の反応。流石に向こうも変だと思うだろうが…もう遅い。
「そこまでかなぁ。これほどまでとは、思わなかったよ」
-!!!!!!-
奴が機械の触手を伸ばしてきた時、既に床の上では、細いツタが機械獣の足元に向かって伸びていたのだ。そのツタは、獣の足元に間でやってくると、瞬く間に太くなり…あっという間に機械獣に絡みつき…機械獣は何が何か分からぬ間に、廊下にブラリと吊るされてしまった。
「ヤナギン。僕はこの世界に、再び興味が湧いてきたよ。だから…もう少し、お話しよう」
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