廃村場末の純金少女
朝倉春彦
Chapter1:人が住めなくなった村
0.0.1.ぶらり廃村巡りの終着点 -1-
# > ナンダ。マダ、成果ナイノカ。濁セバ、逃ゲ切レルダロウ…ソー思ッテル節アルヨナ?
脳内に響き渡ったのは、重厚な電子音による言葉。脳幹通信を介して伝わったその声は、俺のハンドラーだった。人里から遠く離れた廃村の廃病院に潜入して3時間ちょっと…目ぼしい成果が得られていない俺を煽る為だろう。俺はその声を聴いて口元をニィと歪めると、意識中に言葉を並べてハンドラーにこう言い返す。
"こんな場末を選んだセンス無しが居たものでね。場所選びの勘。鈍ったんじゃねぇの?"
そう、口答えを一つ言って見せると、電子音による唸り声が脳内に響き渡る。俺とハンドラーの関係は、まさしく飼い主とペット。その関係なのだが…まぁ、軽口を叩ける程度の関係という事だ。別に今日、俺が何の成果も無かったからと言って首を切られる訳じゃない。ただ、ちょっとばかり…今日の分の報酬が減らされるだけの事さ。
# > 減ラズ口ダケハ、相変ワラズ立派ダナ。口閉ジテ金ニ成ル物探シナ
# > テメーノ借金。一部ハ、今日マデナンダ。ソレヲ分カッテルヨナ?
少しの唸り声の後。ハンドラーからケツを叩くお言葉が飛んできた。俺は借金という言葉に目を細めると、気の抜けた返事を返して、防護マスク越しに見える景色をザっと見回す。ここは、俺以外に生物が居ないであろう、廃病院の中。廃墟の中には、スカベンジャー…ゴミ漁りが生業な俺の興味を引く品は1つもありやしない。
"そう言ってもな…目ぼしいものが無けりゃどうにもならねぇ。ツタだらけの廃病院だ"
ハンドラーに現状を…目に映った事を報告しながら、廃病院の中を進んでいく俺。こうして外界に出るのは久しぶりだ。
"核の影響は無い…か。ま、道中が酷かったか…でもよ、ここは平和なもんじゃねぇの?"
# > ソウダナ。数値モ安定シテイル。ダガ、ソレガ、俺達ニハ、裏目ニ出タナ
"あぁ…綺麗サッパリ片付けられてやがる。どうするよ?デカい機器でもバラすか?"
# > 最後ノ手段ダナ。古ノ代物…中身ニ価値ガ有ルトハ思エナイゾ
"だーから最終手段だっつーの。そーなったら応援寄越せよ?俺1人は物理的に無理だぜ?"
3度目の核戦争が終結してから、人類は棲み処を著しく制限される羽目になった。人々は地上の一部にある安全な土地に超高層ビルを建てて暮らすか…地下に潜って、日の当たらぬ地下都市暮らしを強いられる羽目になったんだが…まぁ、俺達みたいな貧乏人共は地下都市暮しというわけだ。
持たぬ者は持つ者に飼われ…こうして半ば捨て駒として地上のヤバい場所に探索及び貴金属類回収の名目で放り出されるんだ。それが、ハンドラーと呼ばれる持つ者と、スカベンジャーと呼ばれる持たぬ者の関係。まるでヤバい仕事…裏家業みたいに聞こえるかもしれないが、これでも福利厚生がしっかりとした公務員。連邦政府からのお墨付き…ま、底辺職には変わりないが…
"に…してもこの村は不思議なもんだな。ここで最後だが…物が無さすぎる"
スカベンジャーの仕事としてやって来たこの廃村。ツタ塗れな村中を探し回って、この廃病院で探索が最後…なのだが、不自然なほどに物がない。各地の様子を見る限り、この村が廃墟と化して幾星霜…足を踏み入れたのは野生動物を除けば俺くらいだと思うのだが…それなら、廃村と化す際に残された遺物が1つや2つ…出て来たって良いだろう。新鮮(というのが正しいかは知らんが)な廃墟には、俺達スカベンジャーが数か月は贅沢出来る分の遺留品があってしかるものなのだ。
# > オイ、足ヲ止メロ!! "!!??"
5階建ての廃病院。その4階までやってきた時。脳内からのハンドラーの叫び声に驚き足を止める。仕事中は、五感全てがハンドラーと一心同体と言っても良い。どうやらハンドラーは、俺が気づかなかった何かに気づいたらしい。
"どうした?" # > 上ダ。上カラ、何カ聞コエタ。
平和すぎて欠伸が出ると思っていた所だったのだが…気づけば俺は、額に汗が流れ、背中には嫌なタイプの汗をかいていた。忘れかけていたが…スカベンジャーが放り込まれるのは、何時だって危険地帯。こんな、何も無さそうな廃村にだって、核の炎を浴びた結果頭のネジがどっかに消えちまった危険な生物がウヨウヨしていても変では無いのだ。
# > レーザー。アルナ?準備出来テルナ?
"おうよ…当たり前じゃねぇの"
# > ナラ、話ハ早イ。上ダ!上ヘ行ケ!
告げられるハンドラーからの指示。俺はそれに口答える事も無く、腰にぶら下げたレーザーガンを握りしめて5階…廃病院の最上階へと駆け上がっていく。
(5階には物がある!…ってことは、誰かが居るって事か!?まさか…そんな事…)
5階は、どうも隔離病棟の様だった。それまでの階層と違い、窓1つ取っても格子窓で…廊下と病室を繋ぐ扉も分厚い。そして、ここまで来れば、俺にもハンドラーが聞いた異常な音が聞こえており、俺は迷うことなくその音の方へと足を進めていた。
「ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!!」
不気味な音…何か女の呻き声のようにも聞こえるその音。俺は音源となってる病室に突入する前に、一度深く深呼吸をして…自分のタイミングを図ってから、分厚い扉を開けて中へ突入した。
「動くな!!!鎮まれ!!!」
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廃村場末の純金少女 朝倉春彦 @HaruhikoAsakura
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