第85話 新しい仕事

 正月七日。電話をかけようとしていたら、例の依頼人からちょうどかかって来た。

「えっとですね、新年早々ですが仕事を任せたいのですが」

「本当に俺の家に盗聴器はしかけてないんですよね」

「心外ですね、そんなものしかける手間がもったいないじゃないですか」

 経費の面ではなく、作業効率を優先させていた。そんな返答をするから疑いが色濃くなるというか、この人がこうも絶好のタイミングを逃さないのかその情報収集術が気になって仕方なるのだ。つまりは盗聴器などを使わなくても個人情報など朝飯前に拾ってしまうのだ。

「で、仕事ってなんですか?」

「ええ、これはぜひ君に任せたくてですね。本当に大変な仕事なんです。けれど君なら必ずや全うしてくれると信じるに至りまして」

「あの、怪我は完治したんですか?」

「どうしたんです、急に。おかげさまで治りましたが」

「なら今度会う時には保険証をご用意ください」

「いったいどうしたんですか、物騒ですよ」

「いえ、必要以上にわざとらしい口調がむかついたもので」

 電話越しに舐めたような笑いが聞こえ、そのまま切ってやろうかと思ったのだが、堪えてやることにした。

「それで早速ですが明日空いている時間は有りますか?」

「え? ええ、作ろうと思えばいくらでも」

「では午後二時に私の所まで来てください」

「マジですか」

 この人から確実なアポというか、面接じみたスケジュールというか、相手の予定の確認などしてくるものだから、意外で仕方なかった。スーツにネクタイで伺った方がよろしかろうか。

「普段着でいいですから」

 だから思考まで読み取る装置は一体どこにある。とはいえ、

「よろしくお願いします」

 街中で見る時には何やってんだろと思うのに、いざ我が身になればやはり電話で相手に見えないというのに、スマホ片手に頭を下げていた。

「まあ頭を下げてないで、明日を楽しみにしていてください」

 電話は切られた。本当に盗聴器どころか監視カメラをつけてないだろうな。

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