第33話 挙式

太郎とソフィーの婚約は、久我不動産事務所と、ロレーヌ・ギーズ家から、同時に発表された。

日本国内では、特に大騒ぎになった。

(フランスでは、ギーズ家が様々な貴族の末裔に根回しを入念にしてあり、大歓迎は受けたが、日本ほどの大騒ぎではない)


マスコミ各社は、連日報道した。

「イケメン作家久我太郎の伴侶は、フランス大名門貴族末裔の超美人」

「太郎先生は、日本から出て、ロレーヌの豪華なお城に住むらしい」

「結婚式も、ロレーヌの城、日本で挙げるかは不明」

「連載エッセイは、一時中止するとか」

・・・・・・


そんな騒ぎの中、「太郎の嫁」を狙っていた面々は、ショック極まりない。


女子大生島倉結

「詰めが甘かった、もっと早く既成事実を作るべきだった」

女子高生田中梨沙子

「ブロンド巨乳で貴族の末裔か・・・太刀打ちできない」

編集者西島洋子

「エッセイも一時中止なんて、生きる希望がない、押しかけ不倫するかな」

久我不動産秘書伊藤彩音

「久我不動産の経営は、リモート指示」

「私は、パソコンとにらめっこの日々・・・辛いよ」

看護師山田美鈴は、大泣きになった。

「ソフィーと私では、格差あり過ぎ・・・」

「そのうえ顔で負け、身体で負けているもの」


図書館司書岡田葉子は、懸命に太郎にすがった。

「太郎さん、古書店・・・どうします?」

「私、日本人妻になって、司書やめても、古書店の店番をします」


太郎の返事は、素っ気なかった。

「ああ・・・少し休むだけ・・・一月ぐらいだよ」

「次の店番は決まっている、葉子さんは今まで通りに、地域の司書を続けて欲しい」


イラストレーターのミツコは、ハイテンションだった。

「あの・・・・ロレーヌの結婚式、見たいです」

「取材を兼ねて・・・出席したいのですが」


このお願いには、ソフィーが答えた。

「問題ないわよ、でも、正式なドレスで来てね」

「日本人だから、着物でお願い」


同級生のヴァイオリニスト水沢陽子は、泣きながら連絡して来た。

「今まで、支えてくれてありがとう」

「ソフィーを大事にしてあげて」

太郎は、やさしく返した。

「これからも応援するよ」

「今までのことは、今までのこと、いい思い出」

「いつまでも残る、ただ、結ばれ続ける縁ではなかった」


小料理屋の妙子は、祝福した。

「おめでとう、太郎君」

「こうなることは、最初からわかっていたの」

「私は、太郎君とは結婚する気はないから」

(そこまで言って泣いた)

太郎は、ひたすら「ありがとう」と、繰り返した。


太郎とソフィーの結婚発表の三日後、父(久我一郎)と義母マルグリットが、来日した。

父一郎は、久我古書店に入り、店内を見回した。

「太郎、配置を変えていいか?」

「洋書も増やす」

マルグリットも続いた。

「この西荻から吉祥寺は、外国人も多いから」

太郎は、ソフィーと目配せをして笑った。

「新しい店番のしたいように」

「それにしても、外務省やめて、ここの店番?」

マルグリットは笑った。

「文化の叡智に包まれる・・・いいじゃないの」

「お金や宝石より、よほど価値が高いと思うよ」

太郎は、ホッとしたような、少し寂しいような思いで、古書の山を見つめていた。

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